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白馬の王子様と呼ばれる女騎士は、熊団長に恋してる  作者: 御仕舞


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8 . 絶望の中の戦闘





 数年前の新米騎士の時もそうだった。 

複数人の成人男性たちを相手に、誰かを守りながら、捕縛することは出来なかったのだ。

相手が素人であろうと、玄人であろうと、私には生かして捕まえる技量など持ち合わせていない。

苦しい鍛錬にも耐え、少しは強くなったと思ったのに…と、今回も処罰を粛々と受け入れ、反省の意を示そう。



 運が悪かった。頭が悪かった。

技量が足りなかった。お金が足りなかった。

生きる努力が足りなかった。

どれか一つでも有れば、生き残れたかもしれないのに、可哀想に、同情してしまいそうだ。

だから死んでくれ。

粛々と剣の錆になってくれ。

無駄な足掻きをせず、皆で地獄に落ちれば、寂しくないだろう。

いずれ訪れる私を地獄の底で待っていて。



 馬車に乗り込んでいた男が嘲笑と共に踏み込んできた瞬間、男の胸に短剣を浅く斬り込む。

致命傷には程遠いが、急所ともあり、驚愕に男の動きが一瞬止まる。

その隙に回転するように男の腰に差している長剣を抜き取り、よろける男の首筋に切りつける。

一人。



 刃が肉を断つ鈍い感触と、男の悲鳴が馬車内に響き渡る。

血飛沫を撒き散らしながら崩れ落ちる男に対し、馬車の外では、残りの男たちが騒然としていた。

仲間の一人が瞬時に屠られたことに、一瞬の怯えが走る。

私は慌てずドレスに切れ目を入れ終わると、長剣の切っ先を地面に向け、重心を低く落とす。



 別の男が、戸惑いを怒りに変え、斧を手に馬車内へと侵入しようと猛然と襲いかかってくる。

私はドレスの裾が翻るのも気にせず、長剣を水平に薙ぐ。

甲高い金属音がなり、斧と刃が激しく交錯し、火花が散る。

力比べは不利なので、拮抗した力を受け流すように剣を斜めに滑らせ、男の体勢を崩す。

そこへ、短剣を持った左手を振り下ろす。

鎖骨の下に短剣が突き刺さった。

男が苦悶の声を漏らし、斧を取り落とす。

間髪入れず、長剣が宙を裂き、今度こそ男の喉を深く切り裂いた。

二人。



 血と土の匂いが鼻腔をつく。

周囲の男たちは、明確な恐怖を抱き始めているのが見て取れた。

それでも相手はたった一人に、王女までいる。

諦める訳がない。

私は馬車から大男の死体を蹴り落とし、その動揺で思わず逃げの体勢を作り、バラけてしまった男達に突進する。

まずは右翼。

体勢を整えられたら不利になるので、奇襲が効いているうちに、人数が多い方を叩く。



「お、王女は中だ!そいつは殺せ!!」



 仲間の死体に怯んだものから殺す。

剣を持ちながらも敵を前に身構えもせず、固まるなど、自分から死にに来てるようなものだ。

男の懐に潜り込むと同時に、剣の柄で男の脇腹を強打した。

呻き声と共に男がよろめく。

がら空きになった喉笛めがけ、返す刀で一閃。

赤黒い液体が弧を描いて噴き上がる。

三人。



 背後から矢が飛んでくる。

馬鹿なのか?

男たちが叫んだり、悲鳴をあげている時に矢を放てば、空気を切り裂くような音は聞こえなかった。

避けてくださいと言わんばかりの、優しさにも似た頓馬さに感謝しつつ、矢の飛んできた方向に向けて、左手の短剣を投擲。

射手の左肩へ深々と突き刺さり、苦悶の声を上げながら、木の上から落ちる。

のたうち回る射手に慈悲を込めて、全体重をかけ、長剣で心臓を一突き。

武器がなくなった。

四人。



「ぅおおおおおお!!!」



 私はゆっくりと三人目の死体から長剣を頂戴し、自身を鼓舞するように雄叫びをあげる馬鹿に、足元の湿った土を蹴り上げる。

死にたいのか!死角を狙って無言で殺れ!!

目に土が入った男が顔を押さえた瞬間、ブーツを男の股間にめり込ませ、悶絶して崩れ落ちる男の首に、容赦なく刃を振り下ろす。

五人。



 ようやく半分か。



 刀に着いた血を払いながら、視線を向けると、集団の意味を理解したのか、ようやく、残った五人が私に対するようにまとまる。

最初からそうやってまとまっていれば死人は最小限で済んだかもしれない…わけもないか。

集団が有利なのは統率が取れている場合のみ。

この場合問題点は二つ。

彼らは私へ怯えがあるのに、肝心の決断力がない。

少しかき乱しただけで崩れるような集まりを、集団と呼ばない。



 倒れた男から剥ぎ取ったマントを、風に乗せて前方へ投げた。

薄汚れた布が広がり、敵の視界を遮る隙に、最も手前の男へ突進する。

視界を封じられている隙に、相手が状況を理解する前に、長剣で男の胸板を貫く。

六人。



 ほら、これだけでもう陣形が崩れた。



「助けてくれ!」

「死にたくない死にたくない!」

「ちちちかよるな!」

「俺は関係ない!」



 残り四人か。

対して私は一人。王女は数には入れない。

てんでバラバラに散らばる男たちを、追うには体が足りないな。

かといって、殺さなければ、こちらの身の安全が図れない。

焦りは禁物だ。

ほら、転んだぞ?

私は先ほど殺した射手から念のため取っておいた弓をひく。



 木々の合間を抜けようと、幹に足をとられ、転んだ鈍くさい男は右足。

私と正反対のところに逃げようとした直線馬鹿は背中。

私を警戒し、何度も振り返るから速度が遅くなった鈍足は振り返った瞬間に、目に矢がつき刺さる。七人。

破れかぶれで王女殿下のいる馬車に向かおうとした無謀な男を長剣で切り捨てる。八人。



 男が絶叫をあげて倒れ伏す。

鮮血が枯れた芝生を染めた。

身体の芯は熱く滾っているのに、頭は不思議なほど冴えている。

血の匂いと疲労で視界の端が僅かに揺らいでいるが、それすら気にならない。

敵は、完全に意気消沈していた。

死にたくなければ最後まで足掻けばいいものを。



 一人は震えながら長剣を構え、もう一人は腰が抜けたように尻餅をつき、恐怖に歪んだ顔で後ずさりしている。

私は弓を置いて、ゆっくりと一歩を踏み出す。

顔に矢が刺さった死体を蹴り上げ、地面に放り出された剣を拾う。



「ひっ…ひぃっ!」



 男が悲鳴を上げ、無様に剣を振り回す。

その切っ先は震え、届く気配すらない。

手に力も入ってない情けない男の手の中から、無言でその剣を弾き飛ばし、返す刃で男の脇腹を深々と抉った。

九人。



 崩れ落ちる男の向こう、最後の男が這いずるように逃げようとしていた。

背中のシャツが土で汚れている。

走る必要も焦る必要もない。

私はゆっくり男に近付き、襟首を掴み、容赦なく引きずり倒す。



「たっ、助けてくれ!俺は何も知らないんだ!頼むから!」

「ここにいる時点でお前を生かす価値などない」



 これで最後の十人だ。

生かすことはできないから、無様に自分の愚かさに絶望しながら死んでくれ。

私は喉笛に剣を突き立てようとして、



「クラウディア!!」

「…ルパート団長?」










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