第5話 本当の勇気
ヒナタがエルに連れられて、向かった道中
「あっ!レオン!」
「小僧か…」
レオンを見つけて安堵するヒナタ
「君が子どもたちの遊び相手になるなんて、どんな心変わりさ…」
「あのアルとかいう…小さき者どもは森へ向かったぞ」
レオンは不敵に笑いながら、そう言った
「えっ………」
エルの表情は暗くなる
「…………なんで?」
ヒナタはいつもの明るさが消え、一言そう聞き返した
「"勇気"を示し、勇者となりに行ったのだ…偽りの伝説を信じ込んでな…」
エルは震えて腰を抜かしてしまう
「…………なんで、そんな伝説を信じたの?」
ヒナタは続けて聞き返す
「俺が、そう言ったからだ。今、竜は巣を空けている…そして、有事の際には炎の獅子が助けてくれる…すべて真実だ…」
「だから、偽りの伝説を信じ込んだのだ」
レオンは可愛らしいぬいぐるみ姿のまま不敵に笑った
「…………なんで、こんなことを?」
「小僧、お前の成長のためだ…他者の危機に呼応して、『俺』を呼べば、小僧の心力が増大することが分かったからな」
ヒナタは唇を噛む
そして、レオンから目を外し、震えるエルの肩を優しく掴む
「エルちゃん?いいかい?一刻も早く、このことを村の大人たちに伝えて欲しい………僕らが子どもたちを危険に巻き込んだって…」
「でも!ヒナタさんはなにも…!!」
エルはそう否定し、怯えた目でレオンを見る
「僕にも責任はある…エルちゃんが言いにくいなら、僕が後で伝えるよ。エルちゃんはとにかく、今彼らが危ないことを伝えて欲しい!」
「わかりました…!あの…ヒナタさんは…?」
「僕は彼らを止めに行く…まだ、間に合うはずだ」
ヒナタの言葉を受け、エルは一瞬戸惑う
「ごめんなさい…アルのこと…お願いします…どうか…お気をつけて…」
エルはそうお辞儀して、レイの元へ向かった
「行かなきゃ…」
ヒナタは森へ駆けだす
すると、村の出口で、ルナとすれ違う
「どうしたの?ヒナタさん、そんな血相で…」
「ルナさん!子どもたちが森に入った!僕はそれを追う!」
「うそ!?なら、急がなきゃ!わたしも、行きます!」
ヒナタにルナが続く
「ふん…これで…」
予定通りに事が運び、ほくそ笑むレオン
ヒナタの後を追っていった
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森にて
「はっ……はっ……はっ……」
ヒナタたちは走る
森を駆け抜け、数刻
まだ、少年たちは見つからない
「この奥だ…そこにドラゴンの巣がある」
「…………………」
ヒナタはその言葉に従いつつ、奥へ向かった
すると
あの時よりもさらに若い、人間の大人と同じくらいの体格をしたドラゴンの赤子が子どもたちに襲い掛かろうとしていた
「わっ……居ないんじゃ……無かったのかよ…」
「パパ!ママ!助けて!」
ガキ大将と大人しい子は腰を抜かして動けない
「へっ……こ、根性なしめ…勇者になるのは…俺みたいだな…」
そう言うのはアルだが足が震え続けている
「そんなこと言ってる場合かよ!死んじまうんだぞ!」
「僕ら…誰に言われてこんな伝説信じたんだ…」
少年たちに誰に唆されたかの記憶はない
そこに
「こっちだ!」
そう言って、鉄扇を抜き出し、ドラゴンの頭に叩きつける
バシーン!
「そこよ!」
ザシュン‼︎
そして、ルナの追撃の突きがドラゴンの赤子の喉元に突き刺さり、息の根を止めた
「今のうちに…!」
「ここで、待ってて!動けるようになったら、一目散に逃げるんだ!」
ヒナタは動けない男の子二人を遠くの木の影まで隠し、そう告げた
少年二人は頷く
「『俺』を呼ぶほどでもないか…ドラゴンの親がいれば、レベルアップも図れたが…今回はいいだろう」
レオンはそう分析すると、興味を無くしたかのように観察に移った
すると、もう一匹が姿を現す
「アルくん!早くこっちへ!逃げるよ!」
「アルくん!」
ヒナタとルナは声を張って呼ぶ
「嫌だ!俺は勇者になるんだ!」
「なんでも一人でできるようになって…父ちゃんと母ちゃんが自慢できるような…"勇気"のある男になるんだ!」
そう大声で叫ぶと、ドラゴンがアルを睨みつける
「アルくん……くっ……」
ヒナタはアルの元へ駆け出す
ドラゴンもアルを喰らおうと駆け出す
――間に合えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
駆けながら、鉄扇を前に突き出し、突進するヒナタ
そして
ザシュ‼︎
「ぐっ…」
「あっ…!ヒナタさん!!」
「あっ…あっ…兄ちゃん…腕…が…」
ヒナタの右腕にはドラゴンの牙が刺さっていた
ルナがヒナタの元に駆け寄ろうとする
アルは腰を抜かしながらただ見ていることしかできない
「これでもう逃げられないね…」
右腕の激痛に苛まれながらも、口角を上げるヒナタ
反対の左腕で鉄扇を逆手に持ち、それを……
グシャ‼︎
「ギャオオオオオオス!!」
ドラゴンの目に突き刺した
牙がヒナタの腕から離れて、巣へ逃げてしまった
ヒナタは険しい顔をしながら、牙に貫かれた腕を見る
「待ってて…すぐ…すぐ治すから…」
ルナが追いついて治療を始めた
今にも泣きそうな表情で患部を見る
「ご、ごめん…ルナさん」
「謝らないで!じっとしてて!」
つい感情的になり怒鳴ってしまうルナ
「聖なる光よ――ヒール――…ヒール――…ヒール――…ヒール――…」
傷口を光が包む
何度も、何度も、ヒールをかけるルナ
――大丈夫…今度は大丈夫…もう…誰も…傷つかないで…
懸命に治療するルナを見て、違和感を抱くヒナタ
――僕のこと…嫌っていたんだと思ってた…
――彼女のこの感じ…もしかして…前にも…
そう思うが、一旦目の前のことに集中するヒナタ
「一旦離れよう…ルナさん…アルくんもいいね…?」
「でも…俺は…"勇気"を示して…一人でなんでもできる…勇者に…」
そう俯きながらも言うアル
パシン!
ヒナタの左手がアルの頬を引っ叩く
「いい加減にするんだ!!!」
ヒナタはそう怒鳴った
「君がここまで来た度胸…大したものだと思う!」
「でも!君の"無謀"でどれだけの人が悲しむと思う!?」
「"無謀"……」
アルは頬に手を当てながら俯く
そんなアルを見て、ヒナタは屈んで彼に目線を合わせた
「君がそこまで命を懸けたのは何のためだい…?」
「それは…強くなったことを見せたかった…二人で働く父ちゃんと母ちゃんに…一人でもエルを守れるんだって…安心させたかった」
先ほどとは違い、ヒナタが優しく声をかけると、アルは涙ぐみながらそう話した
「そっか…偉いね、アルくんは」
アルの頭をくしゃっと撫でるヒナタ
「でも、君がやろうとしたことで…レイさんやライトさん…エルちゃんたちはどう感じる?」
「それは…心配…かけると思う…」
アルは俯く
「なら、ちゃんと帰って、まず心配かけたことを謝るんだ」
「大丈夫、君の望みを叶えるためには、ちょっとやり方を変えればいいだけさ」
「君はもう…本当の"勇気"を半分持ってる」
ヒナタはそう微笑む
「俺が…本当の"勇気"を…」
アルは自分の胸に手を当てる
「僕はこう思う…本当の…みんなを勇気づける本当の"勇気"は、大切な人を想う"優しさ"から生まれるって…」
「大切な人を想う……"優しさ"」
アルの心にその言葉が溶け込んでいく
「ヒナタさん…」
ルナも治療の手が止まっていた
すぐ我に返り、治療を再開する
「アルくんは、レイさん…ライトさん…エルちゃん…三人も大切な人を想ってるじゃないか」
「なら、あとは…もう半歩…相手のためを想って"行動"を起こすだけだ」
「相手のため……"行動"……」
アルは自分が起こした行動を振り返る
「そうだよな…俺のしたことって…初めはみんなのためでも…最後は、自分勝手だった…勇者になれば、みんな認めてくれるって思った…」
「本当は分かってたんだ…途中から、なんか気持ち悪い感じがするって…」
「それは、本当の"勇気"じゃないんだよな?ヒナタ兄ちゃん」
「ああ、きっとそうさ」
アルの言葉に、ヒナタは笑顔で頷いた
「俺…ちゃんと"勇気"持てるかな…?」
「まずは、"行動"だ。何をすればいいと思う?」
泣き出してしまうアルに、ヒナタは慰めながら、彼を諭す
「みんなに…謝らなきゃ…心配かけて…ごめんなさいって…」
「ライトさんやレイさんは怒るかもしれない…でもね、必ず喜んでくれるよ」
「ほんとに…?」
アルの決意を聞いて、左腕で優しく抱き抱えるヒナタ
そして、その背中を押す
アルは涙を溜めながら、目を丸くさせてヒナタの顔を見た
「絶対そうさ、大事な一人息子が"勇気"を振り絞って"行動"したんだから」
「きっと、伝わる…自分を信じてみよう…アルくん」
「うん!」
最後には、アルは涙を拭いて、笑顔で頷いた
そして、治療は終わり、傷は塞がった
「ありがとう、ルナさん…助かったよ」
「ううん…わたしなんて…傷を癒すことくらいしか…」
そう言いつつ、自責の念に駆られるルナ
――ヒナタさんは…現実を知らない子どもだと…そう思ってた…
――でも、現実しか見ようとしない私に…アルくんの心を動かせたの?
――理想は弱い…どんな綺麗なものでも、現実に跡形も無く、汚されていく
――でも、もし折れない理想があったなら…どんなに汚されても光り続ける太陽があったなら…わたしも…照らしてくれるかな…
そう思いを巡らせ、ヒナタの後に続く
そうして、一同は森を抜けていった
ヒナタの背を見て…ヒナタの言葉を聞いて…レオンは違和感を覚える
――"勇気"…俺の説いたものはただの蛮勇…
――確かに…あの場で最も…"勇気"を持っていたのは小僧ただ一人だった…
――この俺が…誰よりも誇り高くあらねばならん、レオニア族のこの俺が…
――同志を気にかけるあまり…種族復活を計るあまり…俺は過ちを犯していたというのか…
――だが…俺は…
レオンは迷いながら、ヒナタの後を追った
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