第3話 理想と現実
「僕に戦う力が無かったとしても…あの人たちを見捨てる理由にはならない…!」
ヒナタが叫んだその言葉が辺り全体に響いた
そして、一瞬の迷いも見せず、駆け出す
「待て!正気か!?小僧!」
「えぇぇぇぇぇぇい!!」
その鉄扇を鈍器のように構え、ドラゴンの頭に振りかぶった!
――力のない小僧が…なぜ無駄に命を散らそうとする…!?
レオンは、ヒナタの心が理解できない
ドシーン!!
ヒナタの鉄扇がドラゴンの頭上にヒット
ヒナタに目を向けることに成功する
「今のうちに!その人連れて逃げて!」
シュン!!
男性と同じく、ヒナタもその尻尾で薙ぎ払われる
「うがっ…!」
――うっ…もう…意識が…
だが、興味を失ったのか今度はレイと少女に標的を変えた
ドシン…ドシン…ドシン…
足音と共に、彼女たちの死へのカウントダウンが進む
「ごめんなさい…あなた…エル…アル…」
少女を背にかばい死を覚悟するレイ
――寝てる場合じゃない…なんとか…なんとか…もう一撃…
ヒナタが決死の覚悟で立ち上がり、大きく息を吸った
「こっちだ!」
そう大声で叫ぶ
するとドラゴンが再びヒナタのほうへ歩き出す
――これでいい…これであの人たちは助かる…
そう覚悟したヒナタ
そのとき!
「『俺』の名を呼べ!小僧!」
「レオン…の名前…?」
「違う!俺と通じ合うお前ならわかるはずだ…!その鉄扇に心の力を籠めて、唱えろ!俺の真名を!」
「心を込めて…放つ…」
――レオンの名前…君の本当の名前は…
ヒナタは、鉄扇を広げて前に向ける
そして、頭に浮かんだ言葉を詠唱した
「…顕現せよ!大いなるたてがみを抱きし、爆炎の咆哮!レオギアス=ブレイズ!」
鉄扇が赤く輝き出すと
ぬいぐるみであるレオンが赤く燃え上がる
「グオォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!」
王者の咆哮を放ち、ドラゴンを怯ませた
そして
「……なんて…凛々しい姿なの…」
レイはそれを見て、圧倒されていた
灼熱を纏い、勇猛な刃を含むたてがみをもった雄々しくも美しい獅子がそこにいた
「たかが百年程度でこの俺に歯向かう気か…?」
ドラゴンはレオンを睨みつけ、負けずと、炎のブレスを放つ
だが
「ふん…そよ風にもならん…力の差を思い知らせてやろう…」
「キングスフレア!」
黄金と灼熱が融合した煌びやかな炎がドラゴンを包む
その一撃でドラゴンは
「………」
骨すら残らなかった
そして、レオンは赤く輝きながらその場から消える
レイたちに見えないようにぬいぐるみの姿に戻った
「これが…レオ…ンの…ちから…」
そういって気絶してしまうヒナタ
「ちょっと君!?大丈夫!?」
レイがヒナタを受け止めると、もう一方の男性も駆け寄ってきた
「あなた!」
「ああ…俺は何とか…だが、この子は早く診てもらったほうがいい…ルナも併せて診てもらおう」
「ええ、回復魔法はかけたけど、そのほうがよさそうね…」
「行こう…!」
二人に背負われて村へ戻るヒナタ
――使命を果たすにはまだほど遠いが、心力が上がっている…
――賭けだったが…まさか、この短期間で、本当に俺を顕現できるとは…
――火事場の馬鹿力…いや、他者の危機に瀕し、急激に力を進化させたのか…?
ヒナタと通じ合うレオンはそう考えながら、彼らの陰にゆっくりとレオンはついていった
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「ん…ここは…?」
目を開けるとそこは木の天井があった
その内装は自然に囲まれた天然の一軒家だった
「ママ~起きたよ~」
「へへん、落書きしてやったもんね~!」
まだ幼い少女と少年が奥のほうへ駆けて行った
「こら!アル!お客人になんてことを!?」
「ごめんなさいね…うちの子ったら躾がなってなくて…」
レイが自分の子どもの悪戯を詫びる
「あ、いえ、僕は全然…あの男の人は…?」
「主人のこと?あなたのおかげでピンピンしてるわ!今頃、わたしたちを売って逃げたやつのことを報告してるんじゃないかしら…?」
「そうですか…よかった~」
ヒナタは胸をなでおろす
「自己紹介が遅れたわね…私はレイ、夫はライト、娘と息子はそれぞれエルとアルよ」
「本当にありがとね…坊や…あなたが勇気をもって跳びだしてくれなかったら…わたしたちはみんな全滅だったわ…」
改めて、心から感謝するレイ
「いえ…僕じゃなくて…やったのはレオン…」
そういって辺りを見回すヒナタ
――そういえば…神獣は確かこの世界にはいないって…レオンのこと言ったら混乱させちゃうかな…
そう考えこむヒナタ
「そういえば…坊や!あの炎の獅子を知らない?」
「ああ、ええと…それは…」
そう言い、目を泳がせていると
「彼は起きた?」
一人の少女が入ってきた
「あ、紹介するわね。この子はルナ。わたしたちをパーティを組んでた冒険者仲間よ」
冒険を生業としているとは思えない気品がある
肩まで伸びた銀髪を携えた同い年くらいの女の子だった
「よろしくね。それと助けてくれたそうで…本当にありがとう…」
「あぁ…うん…僕は…大したことしてないから…」
「あら…わかりやすいわね…勇者様は」
ルナはお辞儀して、礼を言う
彼女の美しさに直視ができないヒナタ
照れるヒナタを揶揄うレイ
「勇者って…恩はあるけど、この人は伝承に出てくるような人には…」
「ごめんなさい…!あなたを否定してるわけじゃないの。ただ私は…」
「ルナはこの地に残された伝承を確かめる冒険をしてるのよね」
レイはルナの旅の目的を紹介する
「伝承って…どんな伝承なんですか…?」
「ええと…そうね。恩もあるし、教えるわ。何か新しいことを知れるかもしれないから…」
そうして、ルナは暗記しているかの如く、長い伝承を語り出す
ヒナタは最後の一節が気になった
『この幻想世界に災厄が訪れしとき、神獣を従えし者が、その衣を纏い、世界を光で包むであろう』
――神獣って…レオンのこと…?それに、従えし者って…僕?
――いや、レオンは僕の言うこと全然聞いてくれないし、従えてはいないよね…?でも、使命のことそのまんまな気もするし
「何か知ってる?」
ルナはそう問う
――確証がない…ぬか喜びさせるのも悪いよね…
「ごめん…実は、この地にまだ疎くて、聞いたのも少し興味があったからなんだ…期待させたらごめんね」
「そう…」
ルナは残念そうに頷いた
「じゃあ、レイさんが言ってた炎の獅子は?」
「うーん…どうだろ…?あんまり心当たりないかも」
「あら?でも何か唱えてなかった?それを唱えてから…たしか」
「わああああ!!!わあああ!!わああああ!!」
露骨に話を逸らそうとするヒナタ
それを訝しむ目で見るルナ
「あれは…そう!おまじない!」
「おまじない…?」
ルナはさらに疑わしい目で見つめる
「僕の故郷に伝わるもので…困ったときに言えば、神様が助けてくれるとかなんとか…」
下手な噓しかつけないヒナタは冷や汗をかく
すると
「ママ~!へんなのがいた~!」
「おい!エル!次は俺の番だぞ!」
「こら…離さんか!人間風情が!」
そこにいたのは、エルとアルに抱きかかえられるレオンだった
「レオン…何やってるのさ…」
「俺に聞くな…こいつらが離さんのだ」
「あの子…ひょっとして坊やの?」
「ええと、まあ僕の…僕の…」
「友達です!」
目を瞑って恥ずかしそうにそう言ったヒナタ
「あらそうなの、珍しい友達ね」
「ふーん…」
ルナは怪しむ目つきでレオンを見つめる
「なんだ…小娘?」
「いえ…獅子に似てると思っただけよ」
「まさか!?レオンは…そう!猫!猫だよ!」
「小僧…どうやら…本気で死にたいらしいな」
ぬいぐるみの口から今にも火を吹きだそうとするレオン
――我慢してよ!ばれたら大変なことになるって分かるでしょ!
――やむを得んな…誤魔化すときだけだぞ
ジェスチャーして伝えようとするヒナタに、複雑な表情で答えるレオン
「とにかく、しばらくはここで休みなさいな…今は…ここも危ないけどね…」
「危ないって…?」
「ドラゴンが出ただろう?若いドラゴンが出るときは決まってその親がいるのさ」
レイはそうヒナタを気遣うと、この地は既に危険であることを示唆した
「子供が殺されたとなりゃ、もう…このあたりの人は…やつらに…」
「そんな…じゃあ!早くみんなを連れて逃げないと!!」
ライトに焦ってそう言うヒナタだが
「どこへ逃げるの?」
そう冷たい声が響いた
「ここに生きるみんなは…みんなここで生まれて…この地を愛して暮らしてるの」
「外に逃げても、煙たがられるだけならいいほうよ。もっと酷いときなんか…」
ルナはそう言って、表情を暗くする
「この地を捨てるってことは…それだけのことをみんなに強いるってこと…それを分かってて言ってる?」
「それでも…死んじゃうよりは…!」
ヒナタはそう言うが
「死ぬよりも辛いことなんて…世の中いっぱいあるよ…」
「この地に生きるみんなは…例え、今、死ぬことになったとしても、この地に骨を埋めることを選ぶと思う…」
ルナは悲しそうに語った
「ごめんなさい…僕が浅はかだったよ」
レイさんもルナのことを強くは否定しない
つまり、思い当たる節があるのだろう
――そうか…あのおじさんも、レイさんも…ここが好きで、みんなここで平穏に暮らしたいだけなんだ
――僕は…そんなこの村の温かさに救ってもらった…
――僕に…何ができるのかな…
そう考えこむヒナタの様子をレオンは見ていた
――使命を果たすには…この小僧は弱すぎる…
――だが、死ねば俺も大願を果たせん…
そこで、抱きかかえるエルとアルを見る
――小僧の潜在能力を覚醒させるには…なるほどな…
――一つ、思いついたぞ…どうせ死ぬ気なら、せいぜい利用してやろう…人間どもを…
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