8話 静かな回り道
警察官の誘導に従い、智和は白いセダンをゆっくりとUターンさせた。
ハンドルを切る動きに迷いはない。
このあたりは智和にとっても慣れた道だった。
ナビの画面を確認しながら、別のルートへと車を走らせる。
やがて、首都高速道路への入口が見えてきた。
ETCで料金所を抜けると、車は一定の速度で流れ始める。
「少し回り道になったが……まあ、問題ないな」
智和が独り言のように呟いた。
拓真は答えなかった。
後部座席で目を閉じたまま、ただ、帝国製薬との打ち合わせがうまくいくことを懸念していた。
琴美は、窓の外を見ていた。
高架の反対車線に、異様な光景が広がっていた。
数台の車が、前後に折り重なるように止まっている。
フロント部分が大きく潰れ、原形を留めていないものもあった。
割れたガラスが路面に散り、開いたままのドアが風に揺れている。
なのに、救急車の姿はない。
人影も、ほとんど見えなかった
「……」
琴美は、言葉を発しなかった。
「なんだ? 玉突き事故か?
ひどい有様だな」
智和も、その光景を横目に捉えた。
事故現場は、静かだった。
クラクションも、怒号もない。
ただ、壊れた車だけが、そこに並んでいる。
智和はアクセルを緩めることなく、その横を通り過ぎた。
車内に、しばらく沈黙が落ちる。
ラジオからは、先ほどと同じデモ拡大のニュースが流れていた。
同じ言葉、同じ調子。
事態が全く収束に向かっていない状況のようだ。
「……おじいちゃん」
琴美が、ぽつりと声を出した。
「なんだ? 琴美」
「お手洗い……行きたい」
智和は、前方の案内標識を確認した。
「もうすぐパーキングエリアがある。
そこまで我慢できるか?」
琴美は、小さくうなずいた。
白いセダンは、ウインカーを出し、減速する。
パーキングエリアへと進入する直前、
智和はバックミラーを見た。
後続車が、全く見えなかった。
先ほどの渋滞が嘘のようだ。
不審に思いながらも、智和は何も言わず、車をパーキングエリアの駐車場に停めた。




