13話 感染者
カーナビは東京の西端を指している。
しばらく車が走り、その時だった。
気絶していた女の身体が、びくりと跳ねた。
「……?」
琴美が女を見る。
次の瞬間、
女が、異様な速さで顔を上げた。
目は白く濁り、焦点が合っていない。
なのに、その視線だけが、目の前の獲物を正確に捉えていた。
焦点が合わず、虚に、そして、目の前の獲物を捉える目。
「……えっ!?」
女は、琴美に飛びかかった。
「きゃっ!」
拓真は反射的に、
女の首元を掴んで引き離した。
「父さん! 車を止めろ!」
急ブレーキがかかる。
白いセダンが、道路の脇で停止した。
女は、うなり声を上げながら暴れ続ける。
拓真が首を羽交締めにして、暴れる女を必死に抑えつけた。
智和が運転席から外に出て後部座席を開ける。
拓真がそのまま怪物と化した女を外に引き摺り出そうとした。
「……そ、そんな、さっきまで、普通に話していたのに……」
琴美の声が、震えた。
拓真と智和は、後部座席で女と格闘する。
二人がかりで、
女だったそれをドアの外へ押し出す。
拓真が怪物を蹴り飛ばす。
女が立ち上がろうとした瞬間、智和が胸ぐらを掴み、背負い投げした。
女はアスファルトに、頭から叩きつけられた。
「早く車に入れ!」
智和が叫ぶ。
拓真が後部座席に、智和が運転席に入った。
後方から、複数の影が迫ってきているのが見えた。
うめき声。
足を引きずる音。
群れだ。
「来るぞ!」
智和が叫ぶ。
怪物達が後部座席のウィンドウに頭を打ちつけた。ウィンドウにヒビが入る。
「早く出すんだ!」
拓真が叫ぶ。智和はアクセルを踏みつけた。
白いセダンは、全速力で走り出した。
バックミラーに、
倒れた女と複数の影が追ってくるのが見えた。
エンジン音とともに、
それらは、遠ざかっていった。
白いセダンは、
三人を乗せたまま、ただ逃げるように走り続けた。
拓真が女の腕の噛まれ傷を思い出し理解した。あれに噛まれた者は、もう元には戻らない。
琴美が俯く。
ありがとう、と言ってくれた人が、自分を襲おうとした。そのことが、琴美にはまだ受け止めきれなかった。




