11話 開けるな
(おじいちゃん!
パパ!
助けて!)
声にならない叫びが、胸に溜まる。
琴美は女性トイレの奥に追い詰められた。
目の前の女だった化け物が牙を剥いて琴美に覆い被さってきた。
「きゃああ!」
琴美が思わず叫ぶ。
その瞬間、
モップの柄が振り下ろされた。
鈍い音とともに、女の頭が弾かれる。
「琴美!」
拓真だった。
売店の隅にあった掃除用具入れから奪った、錆びついたモップの柄を、もう一度怪物の頭にぶつけた。
怪物が怯んだ隙に、琴美の手を掴む。
「こっちだ!」
琴美の手を引いて拓真が走る。
二人はトイレを飛び出した。
後ろから、複数の足音とうめき声が追ってくる。
駐車場を走る。
智和の待つ白いセダンが見えた。
「早く来い! 走れ!」
智和が叫ぶ。
拓真は琴美を抱いて車に向かってダッシュした。
右手から怪物が飛びかかってくる。
それを間一髪身体を捻って避けた。
そのまま二人は車に飛び込んだ。
智和が運転席に入りドアを閉める。
「行くぞ!」
ドアをロックする。
アクセルを踏む。
エンジンが唸る。
そのとき、
窓を叩く激しい音がした。
血相を変えた中年の女が、必死に叫んでいる。
「助けて! お願い!」
中年の女がドンドンと後部座席のドアを叩く。
そのすぐ後ろには、
群れをなす影。
(助けなきゃ!)
琴美が、思わずドアに手をかけた。
「開けるな!」
化け物に琴美が噛まれる想像がよぎる。
拓真が叫んだ。
だが、拓真の指示が届く前に琴美がドアを開いていた。
中年の女はドアを勢いよく開けて転がり込むように後部座席へ入り込んだ。
同時に、外から、何本もの手が伸びてきた。
拓真はモップの柄で叩き落とす。
白いセダンが急発進した。
開いたままのドア。
引きずられる化け物の影。
やがて、
手は離れた。
倒れた怪物達が、遠ざかっていく。
白いセダンは、
ただ前へ、走り続けた。




