第六十三話
「アンナ様もイザベラ嬢たちも、桃を味見してくださいませんか?」
「は?」
「「え?」」
俺が味見を提案すると、悔し気な表情で桃へ熱視線を送っていた三人が驚き、なにを言っているんだとこちらを見る。
「皆さんが説明してくれたお蔭で、桃がどれだけ凄いものなのかは理解しました。ですが、俺は桃の事を美味しい果物くらいにしか思っていません。そこで提案なのですが、桃の効能が本当なのか確認するためにも、同じ女性である皆さんに食べてもらいたいんです」
三人の表情が驚いたものから、嬉しそうな表情に変わる。
「つ、つまりそれは……」
「もしかして……」
「……この若返りの桃を、食べさせてもらえるというの!?」
「そうです」
俺の返事に、女性陣は歓喜の声を上げる。
その中でも特に喜んでいるのはアンナ公爵夫人で、まるでイザベラ嬢たちと同年代の少女に戻ったかのように、心から喜び満面の笑みを浮かべている。
部屋の中から大きな声が聞こえてきて心配したのか、部屋の扉が三回ノックされてしまう。
そのノック音が聞こえた瞬間、アンナ公爵夫人の雰囲気が一瞬で変わり、いつものデキる女社長のような雰囲気になる。
「奥様、お嬢様方、大丈夫でしょうか?何かありましたか?」
扉の外から、メイドさんの心配した声が聞こえてきた。
その心配した声に、アンナ公爵夫人が凛とした声で答える。
「大丈夫よ。ちょっと嬉しい事があって、興奮してはしゃいじゃっただけなの」
「失礼致しました。またなにかございましたらお呼びください」
安心したように言うメイドさんに、アンナ公爵夫人が優しい声で返す。
「その時はお願いね」
「お任せください。では、失礼致します」
扉の向こうにいたメイドさんは、そう言って職務へと戻っていく。
アンナ公爵夫人は、自分が年甲斐もなく少女のように喜んでしまった事を、少しだけ反省しているようだ。
しかし、桃を食べられるという事にワキワキドキドキした気持ちを抑えきれず、期待の目で桃を見つめる。
「……ウォルターさん、桃を一切れずつ分けていってもいいかしら?」
「え?」
「「「え?」」」
アンナ公爵夫人の言葉に驚くと、それに対して三人も驚く。
少し考えて、三人が勘違いしている事に気付いた俺は、驚いている三人に微笑みながら言う。
「え~と、この一個は一人分の桃です。味見してもらうのに、一切れだけで終わらせるなんて事はありませんよ」
「「「!?」」」
俺の言葉に、三人は驚き、困惑、歓喜といった感情が入り混じり、声も出せない状態になっている。
そんな三人を一旦放置して、マジックバッグから若返りの桃と呼ばれる桃を新たに二つ取り出し、三人の目の前に置いていく。
新たに取り出され、机の上に置かれた二つの桃に三人の視線が注がれる。
そして、机の上に置かれた三つの桃を、三人が順番に視線を移していく。
三人は十分に三つの桃を見つめた後、認識出来た現実によって完全に思考が停止し、その動きが止まってしまった。
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