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第六十話

 イザベラ嬢が興奮したようにそう言うと、クララ嬢もこれが伝説の桃かと驚き興奮する。


(若返りの桃?この桃にはそんな効果があったのか?……いや、待てよ。桃を魔境で見つけて、母さんや叔母さんたちに贈り始めてから、女性陣の機嫌や肌艶が非常に良かったな。もしかして、この桃が持つ効能や効果のお蔭だったのか?)


 初めて母さんに桃を贈ったのは、四、五年くらい前の母さんの誕生日の時で、自分が食べてみて美味しい桃だったからという理由からだ。

 桃の美味しさを母さんにも味わってもらいたいと思い、誕生日に合わせて贈ったのが始まりだった。

 当時の事を思い返してみると、桃を最初に見た母さんの驚きや喜びといった反応、本物であると確信しつつも少し疑っている所など、今の二人の様子にそっくりだったのを思い出す。

 それから、母さんが桃を初めて食べた時に見せた、満面の笑みも思い出した。

 あの笑みは美味しいものを食べたという笑みであると同時に、女性として求めていたもの、素晴らしいものを食べたという笑みでもあったという事に、今更ながら気付いた。

 そこから次々と記憶を辿っていき、母さんの次に桃を贈った叔母さん、その他の女性陣の反応や驚きを思い返していく。

 その結果分かったのは、叔母さんたちも母さんと同じように、女性としても喜んでいたという事だ。


(だから皆、毎年のようにこの桃を誕生日に贈ってくれと言ってきたのか)


 母さんや叔母さんたちが、なぜ毎年桃を贈っても文句を言わないのか、俺はようやく理解出来た。


「ウォルターさん!!私も手にとってみても宜しいですか?」


 クララ嬢が、もの凄く興奮した様子で俺に聞いてくる。

 その隣にいるイザベラ嬢も、まだ興奮冷めやらぬ状態のままだが、視線は桃に釘付けになっている。

 もの凄く興奮しているクララ嬢に、俺は否と言う事など出来るはずもなく……


「どうぞ」

「ありがとうございます!!」


 嬉しそうにそう言ってから、クララ嬢も桃をじっくりと観察していく。

 観察を始めると、クララ嬢の雰囲気がガラリと変わり、表情も真剣なものに変わった。

 その姿は熟練の職人や鑑定士のそれであり、間違える事は許されないといった思いを感じさせる。


「じっくりと見させてもらったけど、やっぱり間違いないわ」


 クララ嬢がゆっくり丁寧に桃を机に戻し、いいものを見させてもらったという表情でそう言った。

 そんなクララ嬢に続いて、マルグリット嬢が真剣な表情と雰囲気となって言う。


「色々な書物に書かれていた内容と、この桃の特徴は一致する。若返りの桃である事は間違いないわ」

「もし本物だとして、私たちだけ実物を見たとなったら……」


 クララ嬢がそう言って沈黙すると、マルグリット嬢が恐怖で身体を震わせる。


「……お母様からどんなお仕置きをされるか分からないわね」

「アンナ様も呼びましょう」

「ええ、それがいいわ」


 桃がマルグリット嬢への贈り物として十分なのかという答えをもらえぬまま、俺を置き去りにして二人の中で話が進んでいき、アンナ公爵夫人もこの場に呼ぶことが決まった。

 イザベラ嬢が、机に置かれているベルを鳴らす。

 その音を聞いたメイドさんが、素早く無駄のない動きで部屋の中に入って要件を聞く。

 イザベラ嬢は、アンナ公爵夫人を至急呼ぶようにメイドさんに伝えると、メイドさんは綺麗な一礼をして部屋から去っていく。

 そして、メイドさんが去ってから数分後。イザベラ嬢の部屋の扉が三回ノックされ、アンナ公爵夫人が到着した事を告げられた。

 イザベラ嬢がそれに答えると、扉が開いてアンナ公爵夫人が部屋の中に入り、普段と変わらぬ悠然とした姿でこちらに近づいてくる。

 しかし、机の上にポツンと置かれた桃が視界に入った瞬間、いつも余裕のあったその姿が嘘のように崩れ去り、スススッと早足になって一気に距離を詰めてくる。

 そして、一言も発する事なくジッと桃を凝視し、先程のイザベラ嬢やクララ嬢と同じく、熟練の職人や鑑定士のような雰囲気となり無言で観察し続ける。

 そのまま二、三分ほど観察を続けた後、ゆっくりと深く息を吐いて、いつものアンナ公爵夫人へと戻った。


「これは、間違いなく若返りの桃ね。一体どうやって手に入れたの?」


 アンナ公爵夫人が真剣な表情と雰囲気に変わり、鋭い視線でイザベラ嬢たちを見る。

 その鋭い視線は、イザベラ嬢の母親や公爵夫人としてのものではなく、美を追求する一人の女性としてのものであった。

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