第二十七話
小さな女の子であろうが老婦人であろうが、覚悟を決めて本気を出した女性を舐めてかかってはいけない。
この世界に転生してベイルトンに生まれ、今世の母さんや叔母さんたち女性陣と過ごした十七年の月日から、舐めてかかる事がどれだけ恐ろしいのかを骨身に染みている。
前世でもタイムセールやバーゲンセール、ゴールデンウィークや年末年始などで起きる女性たちの戦争は、テレビ越しであっても恐ろしいものだった事を思い出す。
隣にいるのが友人であろうとお婆ちゃんであろうと、自分の欲しいものを手に入れるために戦う姿。
お婆ちゃんたちもお婆ちゃんたちで、普段の姿からは考えられないような気迫と雰囲気で、セール品という獲物を奪いにかかる。
そこは正しく戦場であり、老いも若きも関係ない熾烈な戦いなのだ。
普段から静かに研いでいる爪をさらけ出し、本気になった女性たちを絶対に怒らせてはいけない。それは、日本であろうと異世界であろうと変わる事はない。
つまり何が言いたいかというと、不用意に女性を怒らせるべきではないという事だ。
(母さんや叔母さんたちを怒らせた親父や兄貴たちの末路は、思い出すだけも恐怖で身体が震えてくる)
アイオリス王国には、男性が優先・優遇されるような風習などが未だ残っている。
だが、女性たちの持つ力を侮ってはいけない。
仕事などで不在となる当主に代わり家を守るのが、当主の妻たる夫人の“仕事”であるからだ。
さらに、他の貴族家の夫人たちを誘ってパーティーを開催したり、趣味を通じた友人たちとお茶会を開いたりと、様々な繋がりを作り深める為に女性たちの戦場に赴いている。
だが爵位が低い貴族家の当主や息子たちの多くは、そういった夫人たちの影の奮闘や支えを中々理解せず、毎回のようにパーティに通っては遊んでいると考えているそうだ。
しかし、大半の高位貴族たちは真逆の考えをしている。
夫人たちの影の奮闘や支えをしっかりと理解しており、それが自分や子供たち、そして受け継いできた家にまで影響する事をよく分かっている。
なので、爵位の高い貴族になればなるほど、女性と無暗に敵対する事を避ける。
「女性たちが固い結束で結ばれた時の強さは、イザベラ嬢たちの方がよくよく知っていると思います。そして、女子生徒たちとの繋がりを強めていけば、ご家族である各貴族家の夫人たちが味方になってくれる可能性もあります」
「子供同士の事に、親を巻き込むのですか?」
ナタリー嬢が、それは大丈夫なのかといった表情でそう聞いてくる。
マルグリット嬢も暗い顔になり、少し俯いて両手を強く握っている。
俺も大事にはしたくないが、敵対する相手が相手だ。
「相手は、要職に就いている貴族たちの子息に、この国を治める王の息子です。最悪の場合になった時、公爵家と強い力をもつ男爵家の二つでは、一国を相手にするには不利です」
「私の家とクララの家は含まないの?」
イザベラ嬢がそう言うが、その可能性は低いだろうと予想している。
「恐らくですが、今回の騒動に直接的に関係している、マルグリット嬢とナタリー嬢のご実家しか対象にはならないと思います。流石に、公爵家を二つも取り潰すような事はしないかと」
俺の言葉に、イザベラ嬢とクララ嬢がなるほどと頷く。
「そうなってくると、ウォルターさんの案が一番現実的かも。本当に追い詰められた時に、他の貴族家の夫人たちが味方として助けてくれるなら、それは非常に大きな力になる」
「王家も各貴族家の夫人たちの力、特にアンナ様の強い影響力を知っているから、安易に手出しする事は出来ない」
イザベラ嬢とクララ嬢が、顔を見合わせて頷き合う。
マルグリット嬢とナタリー嬢も覚悟を決め、出来る事は何でもやるといった様子だ。
イザベラ嬢が改めて気合を入れ直し、秘密の作戦会議を進めていく。
「大筋はウォルターさんの案でいいとして、後の細かい所は私たちで詰めていきましょう。ウォルターさん、色々と貴重な意見をありがとう」
「いえいえ、お力になれたなら良かったです」
やる事が定まったイザベラ嬢たちは全身からやる気を漲らせ、アルベルト殿下と側近たち、そしてローラ嬢とその取り巻きたちに対抗する為に、どのように女子生徒たちとの繋がりを強固にしていくのかを話し合い始めた。
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