第二十三話
カノッサ公爵家の屋敷で、イザベラ嬢とクララ嬢から真剣にお願いをされた日から二日後。
俺は放課後の静かな中庭で、騎士学院に入学してから仲良くなった友人であるジャン・コルネに、女性との接し方について相談していた。
ジャンはコルネ侯爵家の一人息子であり、騎士団長であるコルネ侯爵の後を継ぐ為に日々鍛えている、シルバーの髪にバイオレットの瞳をした渋い顔のイケメンだ。
そんなジャンに、イザベラ嬢やクララ嬢との出会いから、先日の真剣なお願いについてを語っていく。
「……なる程、それで俺に相談してきたという訳か」
「ああ、お前の所はお姉さんや妹さんがいるし、婚約者の女性とも仲が良いんだろ?異性の友人との接し方について、何か助言をもらえるのならと思ってな」
先日、イザベラ嬢とクララ嬢のお願いを快諾したはいいものの、俺は異性の友人との付き合い方を知っている訳ではない。
前世はボッチであったし、今世ではジャンやマークといった男友達が出来たものの、女友達と呼べるような同年代の親しい女性はいない。
訓練中や授業中の時には気軽に声を掛ける事は出来るが、それ以外の時には、女性相手に何を話せばいいのか分からない。なので、騎士学院に入学して一年経っても、俺には男友達しかいない。
そんな俺ではあるが、イザベラ嬢やクララ嬢の心からのお願いに精一杯応えるためにも、まずは女性について知ろうと思いジャンに相談したという訳だ。
ジャンは俺の顔を見ながら、確かになといった表情になる。
「まあ、ウォルターには難しそうだな。だがウォルター、お前は勘違いをしているぞ」
「勘違い?」
俺が問い返すと、ジャンは真剣な表情と雰囲気で頷く。
「俺は姉貴や妹と上手く付き合っているんじゃなくて、上手く使われているだけだ。マリーに関してもそれは変わらない。俺が女性陣を引っ張っているんじゃなくて、ただ単に尻に敷かれているんだよ」
「そうなのか?」
「そうなんだよ。この前だって――――」
愚痴を言いながらも、自分のお姉さんや妹さんとの楽しかった旅行や買い物、婚約者の女性とデートに行った時の惚気話をジャンは語ってくる。
止まる事なく延々と語り続けており、まだまだ続きそうな雰囲気なので、こちらから呼びかけて話を止める。
「ジャン、戻ってきてくれ」
「――てな感じでな。これがまた、……おっとすまん。それで、マリーがプレゼントしてくれたものについてだったか?」
語り続けていたジャンの頭の中では、いつの間にか俺が婚約者との惚気話を聞いた事になっていた。
俺はなにを言っているんだという表情をしながら、ジャンの問いかけにバッサリと答える。
「全然違う。異性の友人との付き合い方についてだ」
「……そうだったな。だが、さっきも言ったような気がするが、俺は尻に敷かれている側なんだよ。小さい頃から姉貴や妹に扱き使われてきただけだから、異性の友人との付き合い方なんて大して分からん。まあ、深く考える事はないんじゃないか?カノッサ公爵のご令嬢や、ベルトーネ男爵のご令嬢と同じように接してあげればいいと思うぞ」
ジャンにそう言われ、霧がスッと晴れたような感覚になる。
「そうだな。そうしてみるよ。ありがとう、ジャン」
感謝の気持ちを伝えられたジャンは、気にすんなとニカッと笑って言う。
「いいって事よ。寧ろ、大して助言してやれなかったこっちが謝りたいくらいだ」
「そんな事ないさ。俺にとっては十分な助言だった」
俺がそう言うと、ジャンが安堵した様子になる。
「それなら良かったよ。……それにしても、アルベルト殿下や側近たちがそんな感じになってるとはな。俺も魔法学院に通っていたら、まず間違いなく殿下の側近候補にさせられていただろう。通う学院をこっちにして正解だった」
「そういえば、ジャンはなんでこっちの学院に通ってるんだ?」
ジャンは俺と違い、侯爵家の生まれに相応しい魔力量と、属性魔法への高い適性を持っている。
しかし周囲の予想を裏切り、迷うことなく騎士学院への入学を希望し、貴族たちを一時期ざわつかせた。
俺の今更な質問に、ジャンは嫌な顔をせず答えてくれる。
「考えてもみろ。騎士団長をしている親父の後を継ぐのに、なんで魔法学院に通うんだよ。この国の貴族の大半は昔も今も魔法が大好きみたいだが、俺にとっての憧れは魔法よりも親父の背中だ。その背中に追いつき、親父や先祖たちの思いを受け継ぐために、俺は騎士学院に入学した。……それにマリーが――」
とても感動的な良い話で終わったと思ったら、そこからまた延々と続くのかと思えるほどの惚気話が始まった。
いつもは聞き流す所ではあるが、今日は親身に相談に乗ってくれたので、ほんの少しだけ真面目に聞いてあげる事にしよう。
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