第二十二話
俺がカノッサ公爵家の屋敷にお邪魔すると、イザベラ嬢とクララ嬢から話を聞いてほしいと言われた。
そのまま静かに二人の話を聞いていたのだが、アルベルト殿下や側近候補たちは大丈夫なのかと心配になる、なんとも呆れて言葉が出ない話であった。
「……お二人とも大変でしたね」
俺がそう言うと、イザベラ嬢がその時の事を思い出したのか、心底疲れたような顔をしながら答える。
「ええ、それはもう」
「まあ、ほとんどイザベラが動いてたから、私は何もしてないけどね」
少し申し訳なさそうにいうクララ嬢に、イザベラ嬢が笑みを浮かべながら言う。
「クララが傍にいてくれるからこそ、私も強気でいけるのよ」
「……嬉しいこと言ってくれるなあ‼イザベラ大好き‼」
クララ嬢が笑顔になって、イザベラ嬢に抱き着く。
イザベラ嬢は、抱き着いて頬同士をスリスリしているクララ嬢の頭を、ゆっくりと優しく撫でる。
仲睦まじい二人の周りに、白い百合の花が咲き誇っているように見える。
(相も変わらず仲がいいな)
それはそれとして、話を聞いた限りだとマルグリット嬢が悪役令嬢の立ち位置で、ナタリー嬢がヒロインの立ち位置のようだ。
だが話を聞けば聞くほど、やっぱりローラ嬢の方が悪役令嬢の雰囲気を漂わせている。
イザベラ嬢やクララ嬢からも、マルグリット嬢が嫌がらせをするような下劣な人ではないと、お墨付きが出されているからな。それに、ナタリー嬢とマルグリット嬢の互いの面識が、二人に引き合わされる前にはなかったという点も大きい。
そういえば、前世で読んだ事のある悪役令嬢ものの中には、転生者が悪役令嬢として生まれる話もあった。その主人公が、バットエンド回避のために色々と動いていたら、自分と似たような立場の人が悪役令嬢となり、その取り巻き集団によって嫌がらせが行われるなどという展開もあった。
これを、イザベラ嬢とクララ嬢に置き換えてみる。
所々で少し違うが、公爵家の娘と男爵家の娘という点や、両者ともに魔法の才能が豊かであり、二人とも乙女ゲームの登場人物に相応しい美少女である事は一致する。
イザベラ嬢は属性魔法の適性が高く、様々な属性の魔法を扱う事が出来る。そして、クララ嬢も同じく様々な属性の魔法を扱う事ができ、さらには非常に珍しい光属性の回復魔法を使う事が出来る。
(もしかして、この世界の悪役令嬢とヒロインって、目の前にいる二人の事では?)
だが、目の前にいる二人が本来は悪役令嬢とヒロインだったとしても、既に物語は違う役者で進んでしまっている。
そして、よく言うような運命の強制力とやらも、二人に働きかけている様子はなさそうだ。恐らく、違う役者がそのまま配役された状態で、この乙女ゲームの世界は進んでいくのだろう。
ナタリー嬢がヒロイン枠の女性なのだろうが、二人の話を聞く限りでは、王子や側近たちへの好感度はゼロに近しい。もしプラスであったとしても、小数点以下の数字なのではと思ってしまう。
それにしても、マルグリット嬢とナタリー嬢は不憫だ。
マルグリット嬢は、王子や側近たちがいいようにローラ嬢に操られて、何かあれば犯人であると責め立てられる。
ナタリー嬢はナタリー嬢で、嫌がらせ行為はされるし、王子や側近たちにしつこく付き纏われる。
そのせいで二人には男子・女子問わず人が寄り付かなくなり、イザベラ嬢とクララ嬢が声を掛けるまでは、友達もロクにいなかったと聞いている。
それを聞いた時、思わず前世のボッチ人生を思い出して、涙がホロリと零れてきた。
色々と考えを巡らせ終えると、いつの間にか二人の百合百合しい空間は消えており、二人がジッと俺を見ていた。
「えっと、どうかしましたか?」
俺がどうしたのかと聞いてみると、イザベラ嬢が私たちの方こそ聞きたいと答える。
「それはこちらのセリフですよ。私たちが二人でじゃれあってたら、急に黙り込んで考え事をし始めるんですから。……まあ、それはいいです。後で聞かせてもらいます。それよりも、今から本題に入りたいと思います」
「本題?」
「そうです。マルグリット様とナタリーさんには、友達と呼べる人がいませんでした。ですが、今は私たちという友達がいます。しかし、私とクララは女性です」
「つまり、男性である俺にも、マルグリット嬢とナタリー嬢の友達になってほしいと?」
イザベラ嬢の発言から察して聞き返すと、クララ嬢がニッコリと笑みを浮かべた。
「正解~。ウォルターさんがマルグリット様たちと仲良くなれば、こうして休日にも集まる事も、遊びに出掛ける事も出来る。良い事尽くめだよ。だから――」
「「お願いします」」
二人が真剣な雰囲気で、揃って頭を下げる。
付き合いは短いが、二人にそうさせるまでに、マルグリット嬢とナタリー嬢は良い子なのだろう。
だとしたら、俺の答えは一つしかない。
「分かりました」
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