リンゴのコンポート
ノイマン夫妻に手を引かれ従業員用の休憩室に連れて来られた
部屋には大きめのテーブルと椅子が4つ置いてある。窓も付いているので空調もよく、テーブルの上に置かれた花瓶に入った黄色い花が中々の清涼感を醸し出している
「どうぞ、果物のパイと果実水ですよ」
そう言ってコレットさんが私の前に皿を置いてくれた
「ははー、ありがたき幸せ」
茶化しつつも、うやうやしい物言いで私はパイに手を伸ばす
見た目は良いけど味はどうかな
ん? 果物のパイって言うからアップルパイみたいな果物のゴロゴロした食感だと思ったら、果物はジャムみたいになってて食感がない
それに砂糖もあまり入ってないな、圧倒的に甘みが足りない
パイ生地はそこそこ美味いだけに勿体ない
まぁ個人の感想だし、味の好みなんて人それぞれだから何とも言えないけどね
「どうだい? コレットのパイは最高だろ!」
ノイマンさんが私の肩に手を回し笑顔で聞いてくる
こりゃあ口に合わないなんてとても言いだしづらい
「正直イマイチすね、パイ生地は美味しいんですけど。果物のパイなんだからジャムにしないで果物の食感を楽しみたかったです」
おっさんはおべっかを使わずハッキリ言ってしまうタイプなのだ。このデリカシーの無さで数々の友人から縁を切られてきたんだ
そもそも人付き合いが苦手なので、嘘をついて媚びを売らないと成り立たない人間関係など、めんどくさいのでバッサリと斬ってしまいたいんだ
「パイに入れるんだったらジャムにするのが一般的だろう? 果物をそのままって手抜きみたいじゃないか」
自信満々だった最愛の妻の料理を批判したにも拘らず、ノイマンさんは怒らずに私と論理的に話を進めてくれる
これが中々助かる。感情論で、なんだとこの野郎! 俺の妻の料理を汚しやがって! とか言ってくるタイプも絶対居るからな
「ジャムにするんだったら普通にパンに塗って食べればよくね? って話なんですよ。パイだけの特別感がないです。パンに食感のある果物を乗せて食べるって訳にもいかないので」
「パイならゴロゴロした果物を入れてもいいってことか?」
「そうですね、でもあくまで私個人の好みですよ」
ここでコレットさんがパイに使った果物を持って私の前に来た
「ワタシが使ったのはこのオランジの実です。基本的にそのまま食べる物ですが、とても柔らかいですしパイに入れて熱したら溶けて食感もないと思うのですが」
「それは果物選びが悪いですね、食感を求めるというならばもっと歯ごたえのある果物にしないと。そもそもジャムでパイするにしても甘みが足りないんですよね」
甘みがないジャムって、そら価値ないだろ
「お砂糖が高いので甘くするのは厳しいですねぇ。果物は基本的にそのまま食べるか、ジャムにする以外聞いたことないのでパイに入れるというのは想像できないですねぇ」
コレットさんは少し首をかしげながら頬に手をあてて考えている
「井戸汲みの新人くん! 僕は君の焼いたパイが食べてみたいよ! 作ってはくれないかな」
「えぇ、ワタシもぜひ味見したいですわ」
パイ焼くって相当時間かかるぞ。それは流石に勘弁してくれ
「申し訳ありません、井戸汲みの仕事もまだ残っておりますので」
「よし! じゃあ今日の井戸汲みはこれでおしまいだ!」
パワーでごり押ししてきやがった
でもパイなんて焼いたこと無いしそれは無理だ
このままだと自分は料理を作れないのに、他人の料理にはケチをつける評論家みたいになっちまうぞ。それだけは避けたい
「パイは無理ですが、果物ってジャムにするかそのまま食べるんですよね。では私が果物に熱を通した食感のある料理をお作りします」
「おお! やってくれるかい、楽しみだなぁ」
「ただし、料理に使う材料費はそちらに提供して頂きたいです。なにせ家無しでお金がないもので。大銅貨1枚です」
「もちろんです、どうぞ」
コレットさんはポケットから大銅貨を1枚取り出し私に渡してくれる
少しお手洗いに行ってくると言って私はトイレに入る。トイレの中で液晶パネルを出して大銅貨1枚を入金して500円チャージする
リンゴ1個 100円を2つと、砂糖を300円で買って合計500円キッチリ金を使いきる
買った物をアイテムボックスに入れてノイマン夫妻の元に戻る
「材料はアイテムボックスに入ってますので、火の元を貸していただけますか?」
ノイマンさんたちに案内されて台所のスペースの1か所を貸してもらう
ちゃっちゃと作ることにしよう、作るメニューは超かんたんリンゴのコンポートだ
まずはリンゴを取り出し8等分の大きさに切って皮を剥く、鍋の中にリンゴが浸かるくらいまで水を入れて砂糖を大さじ4杯ほど入れて沸騰させる
砂糖が溶けきった辺りでリンゴを投入して中火で15分ほど煮込んだら完成だ!
シナモンやレモン果汁を入れるともっと美味しくなるんだけどね
「どうぞ召し上がれ」
更に盛りつけたコンポートを2人に差し出す
「単純だが変わった調理法だな、んぐ。うまい! シャキシャキとした食感が残りつつ、そのまま食べるよりもより甘くおいしくなってるのが容易に想像できるよ!」
「美味しいですわ、こんな簡単に美味しくできる調理法があるのに気づかないなんて。ワタシは常識に囚われ過ぎていたのかもしれません」
おっさんも試しに食ってみるがやっぱうめえな。何より簡単なのが良い、梨とかでも応用できるしね
「ノイマンさ~ん、コレットさ~ん。そろそろ休憩あがってください。もう限界ですよぉ」
従業員の1人があまりの激務に耐えられずノイマンさん達を呼びにきたみたいだ
「ああっといけない、ごめんよすぐに戻るから。じゃあ新人くんおつかれ!」
「すぐに厨房で仕込みをしないと! ありがとう、とても参考になったわ!」
2人は慌てて作業に戻って行く、さーておっさんも残りの井戸汲みに戻るとするか
帰っていいとは言われたけど私は勤勉なのだよ




