宿屋の主さん
うおおお井戸汲みだ、私は今から井戸汲みをするのだ
私は少し高揚していた
昨日はきつい力仕事に手間取ったが、筋力ステータスを大幅アップしたのでどの程度やっていけるのか少しワクワクしているのだ
なんやかんやで井戸に到着すると、井戸の桶を下に落とし水を掬いあげる。
水の入った桶をロープで引き上げるので単調な作業に見えてかなりの重労働なのだ
「よっこいしょっと。おお、軽いな。昨日やった時に比べたら雲泥の差だ。これならいけそうだ」
上げた筋力ステータスは確かに私の体に反映されていた。黙々と水を運ぶおっさん
水を運び始めて2時間ちょっと経った所で宿屋の主に声をかけられる
私が運んでいる水はこの宿屋の風呂に使われているのだ
「どうだ、大丈夫そうか? 昨日は運び初めてこのくらいの時にはバテバテだったから。仕事は続きそうにないと思ったよ」
「ノイマン、さん。問題ありませんよ。昨日は少し体調を崩してましてね」
宿屋の主ノイマンさん。年は20代後半といった所か。若いのに一国一城の主としてこの宿屋の切り盛りをしている
からあげ捕食ポイントで筋力を上げましたなんて言っても、頭のおかしい奴と思われるのがオチなので当たり障りのない言葉で誤魔化す
「まあ2時間も働きっぱなしで疲れてきただろ。お客様用のお菓子が少し余ってるんだ。茶を入れてやるから少し休憩にしよう」
「いえ必要ありません。まだ仕事中ですので。体力的にもまだ少し余裕があります。お心遣いだけ感謝致します」
「あんた真面目なんだなぁ、そんな事言われるとますますお茶休憩に誘いたくなってしまうじゃあないか」
「ふふふ、そんな事を言われると私もますます真面目に働きたくなってしまいますね」
店主と私の意見が割れた
ちなみにノイマンさんは在婚で妻にコレットさんという可愛らしい女性も料理担当で働いている
「あらあら、あなた。まだ休憩のお誘いをしてないの? こっちはもうお茶の準備はできたわよ」
「なかなか生真面目な人でね、困ったことに中々休憩を承諾してくれないんだ」
ノイマンさんはやれやれといった感じで両手を広げお茶目なポーズをする。
社畜バイトとして田畑オーナーの元で働いてきた私の矜持を舐めてもらっては困る。私は真面目に働きたいんだよ
「ん~、じゃあこれはお仕事ね。新人さんのあなたとお話をしてお仕事が続けられそうか経過を聞きたいの。この仕事お願いできないかしら?」
私が続きそうにないなら代わりを雇わないといけないし、必要事項の確認ということならば仕方がないな
「そういう事でしたらご馳走になります」
「さすが僕の妻だ! 僕では説得できなかったよ! どうだ僕の妻は凄いだろ? 料理も最高に旨いし美人で頭も回る、おまけに性格もいいんだ」
「羨ましい限りですね、私もコレットさんの様な方を妻に頂けるように努力したいと思います」
「うんうん、君は見る目があるな。コレットはやれないが僕たちの幸せを君にお裾分けしてあげよう。お菓子の余りっていうのはコレットの焼いたパイなんだ。お客様に急ぎの用ができて帰ってしまってね。ほんとうに勿体ない人だ」
「他のお客様にお出しするわけにはいかないのですか?」
「これは帰られてしまったお客様にお出しするために作ったものなのさ。その人の為だけに作った愛の入ったものだ。他のお客様に出すのは失礼だよ。」
「そうよ、他のお客様にお出しするなら新しくその人の為だけにお作りしないと。料理のおいしさの秘訣は愛だもの。相手を思う心が料理を昇華させるのよ」
中々素晴らしいこだわりだ。こういった相手を思う気持ちが、一つ一つの所作に出てこの宿は客入りがいいのだろう
「そうですね、料理は愛なのかもしれませんね。相手に美味しく食べて貰いたいから手間をかけて作り、試行錯誤を繰り返して出来たものなのかもしれません。相手を思いやる気持ちがおいしさになるんですね」
「きみは本当に見る目がある奴だな! 僕は感激しているよ。コレット、君もそうは思わないかい?」
「ええ、ええ、とても素晴らしい人ですわ。私たちの考えをこんなに早くわかってくれるなんて。さあさあ休憩室まで行きましょう。お店は従業員に任せてはいるけど長い時間は外せませんもの」
2人に手を引かれ休憩室に連れてかれる。アットホームな職場ってやつだ




