彼の苦悩
「うあああああああ!」
私はいつの間にか眠っていた。酷い悪夢を見た、精神状態が安定してないんだろうな。私は不安な事や嫌な事があると夢に反映されやすい。嫌なことがあるとゾンビに襲われる夢をよく見ていたっけな
「っしゃあ 切り替えていこう」
顔を平手で勢いよく叩いてネガティブなイメージを吹き飛ばす。用を足そうと外に出るとグルスが外で酒を飲んでいた
「お、おぉ起きたか その、昨日は殴っちまって済まなかった」
「おはよう、昨日はありがとな。少し熱くなりすぎてたよ。お前があのまま止めてくれなかったら私はきっと返り討ちにあってたと思う。グルス、感謝してるぜ」
私は彼に感謝の言葉を伝えた、彼は私を救ってくれたのだ
「そうか、でも強く殴ったから痛かっただろ。お前があのままレイに襲いかかってたら間違いなくお前は潰されていた。前にも似たようなことがあったんだ。結果はエムルを擁護した奴は消されて、エムルへの暴力行為もエスカレートしたんだ」
そんなことがあったのか。新参の私には知る由もなかった
「そうだったのか。でもまた同じような事があったら私は自分自身を自制できるか正直わからない」
「エムルは治療魔法が使えるんだ。だからまあ問題ない、レイもそれをわかってやってるんだ」
「魔法で怪我は治せても、殴られてる最中の痛みまでは無くせねえ。心に傷だって残る。私は容認できない」
すまないがここだけは譲れない
「......そうだよな、殴られたら痛えしトラウマにだってなるよな。俺は何度もエムルが殴られるのを見てそれに慣れちまったようだ。始めはお前のように同情したよ。でもいつの日か魔法で治療すればいいだろと思うようになっちまった」
「......」
「エムルが殴られようが、俺が働いた給料をピンハネされようが、支給される飯がカビたカチカチのパンだろうが何も思わくなった。俺はいつの日からか人の痛みに鈍感になっちまってたんだ」
「グルス......」
「まいにち毎日、やりたくもねえ仕事を命令されてピンハネされた給料を渡される。俺はエムルが殴られるとこを見たくなくて金を貰ったら酒を飲みに出かけるようになった。酒を飲んでいる間だけは嫌な事も何もかも忘れられるんだ。俺は貰った金は全部酒で熔かしちまう。どうしようもねえ、もう酒しかねえんだ俺には......」
静観を貫いているてめえも気に食わねえんだよ。 私が彼に対して言った言葉だ。私は酷く後悔している。会って数日程度で相手の都合もわかっていなかった。彼もまた被害者なのだ。グルスの心は疲弊しきっていた
「でもお前はは私を救ってくれただろ、捨てたもんじゃないぜ」
「うまい飯を食わせてもらったからな。借りを返しただけだ。あぁ、あの飯は美味かったなぁ」
彼は遠い目をして答える
「お前は早いとこココから逃げた方がいい。ここは地獄だ、いつの日かお前も人が殴られてるのを見ても何も感じなくなる。ひ、人じゃなくなるんだ。お、おれは......もう......くうっ くっくっ ううっ うっうっ」
彼は泣いた、今まで彼はここに来て泣いたことがなかった。泣くことから逃げていた。酒を飲み考えることをやめていた。それが幸せなのだと信じて
私が泣かせてしまった、逃げ続けていた彼を現実に引き戻してしまったのだ
「グルス、私はね、良い事をしたら良い事が還えってくる。悪いことをしたら悪いことが還えってくる。そう信じてるし、人の世とはそうあって欲しいと思ってる」
「そんなのは理想論だ、現実にレイは悪党でもいい暮らしをしている・・・・・・」
「そうだね、しかしそれも後少しだ。やはりあの女は私自ら引導を渡す必要があるようだ。私の理想のためにね」
「お前程度の力じゃあ無理だ、俺にさえ腕力で勝てなかっただろ」
「例えそうでもやらなきゃいけないんだ、誰もできないから私がやらないといけないんだ。それが私がここに来た理由のような気がするんだ」
この世界は私に優しかった、マルスもマキもグルドもエムルも
少しでもこの世界の巡りが良くなるならば私は・・・・・・




