その後
護られていたのは私だったのだ
人生とはなかなかどうして思い通りにいかないものである。エムルは治療を終えて軟膏の入った壺をカバンにしまう
そういえばこの子、レイに力一杯蹴られてたけど大丈夫なのか? 腹を蹴られて気を失ってたくらいだから心配だな
「レイに蹴られてたけど大丈夫? 痛くないか?」
「いつものことだから。それに治療魔法を使えるから傷ができても大丈夫なの」
魔法かぁ、実際に見たことはないけどやっぱりこの世界には存在するんだなぁ。まあ、手からから揚げ出してる私が言うのもなんだが。
「治療魔法が使えるなら、家なしなんてやめてケガを治す仕事をした方が儲かると思うぞ」
「・・・・・・わたしはハーフエルフだから、どこも使ってくれないよ。治療も簡単のしかできないから。わたしが治すとその人は穢れるの」
「穢れるねぇ」
ハーフエルフに治療されるのは不名誉なことという箔みたいな物がつくのか? 相当立ち位置の悪い種族なのだろう
「薬を塗ってくれてありがとう。色々あって疲れたから今日はもう寝ることにするよ」
「待って、これおじさんの分のお給金だよ。レイさんから預かってたの」
そう言うとエムルは私に2枚の大銅貨を渡してくれた
「グルスは給金貰えたか知ってるかい?」
「グルスさんは今日は給金抜きだったよ」
何故だろう、私とグルスの二人で争いになったのにグルスだけ給金抜きなのか?
いや、私は初めての給金だからだな。これを抜いたらグループから逃げたり今後の仕事の士気に影響するから払わざるを得なかったのだ
彼には悪い事をした、明日になったら謝ろう
「そうか、グルスには悪い事をしたな。明日になったら謝ることにするよ。おやすみ」
「うん、おやすみ」
仰向けになって目を閉じる、そして今日起こったことをもう一度よく考えてみる。私は違和感を感じていたのだ
いくらレイがエムルに暴力を働いていたとしても、以前の日本で生活していた頃の私なら石を握ってレイを殺そうなど絶対に思わなかった筈だ。人を殺すのはおろか殴る度胸さえ私には無かった
なのに今日の私はごく自然にレイを殺す段取りをしていた。自分自身が少し恐ろしい。ふと異世界転生マニュアルに記載されていたことを思い出す
<異世界転移マニュアル>
あなたは日本で天命を迎え生命の消失をしました。
日本であなたはクソの役にも立たずくたばった訳ですが
この世界ではそこそこ役に立つ適性があります。
神界会議の結果、特例で記憶の引継ぎをした上での模造の転移となります。
基本事項だけ載せておきます。
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「記憶の引継ぎをした上での模造の転移か」
日本で生活していたオリジナルの私はすでに死んでいる。あくまで私は模造品だ
人を殺す判断を迷いなく行った私の脳はこの世界の価値観に適応している。しかし日本での記憶があるため、人殺しをしたくない矛盾が生まれ今のような状態になっている
私はいつかこの世界で平然と人を殺してしまうのだろうか? それはとても怖いことだ。願わくばそうはならないでほしい。自我を強く持たないと




