愚人
この外道に私が天罰を下してやることにする
大丈夫だ、女は酒に酔っている。背後から近づいて手に持った石で頭を殴るだけの簡単な作業だ。私自身の手で地獄への引導を渡してやるよ
俺はできる俺はできる俺はできる よし行こう
背後から音もなくレイに近づく、しかしここで思わぬアクシデントに遭遇する
「おい、何をする気だ。恐い顔して物騒なもん持ちやがって」
グルスだ、彼は私のただ事ではない様子を見て止めに入ってきた
「私が何を考えて、どう行動するかは私の勝手だよ。あんたに指図される謂れはない。失せな」
狂った男の振り上げた拳はもう降ろすことはできない
「レイのイビリはあれでお終いだ。とりあえず手に持ってる物を地面に置け。座れ、座るんだ。少し話をしようや」
「話すことなんてねえよ。あんな酷い物を見て、静観を貫いているてめえも気にくわねえんだよ」
グルスを無視して私はレイの元へ向き直る
「......悪く思うなよ。お前のためだ......」
突如、私のみぞおちに激痛が走る
グルスが私のみぞおちに拳をめり込ませている
「ヴッッ! でめぇ!......」
何でだ、何で俺の邪魔をするんだ。
オレハオマエトアラソイタクナンテナイノニ
あの女は消さなければならない、私は間違っていない
邪魔だ、この男も邪魔だ
私の中の真っ黒いもの一気に爆発した
「お前はアアアアア!」
グルスの肩を掴み力一杯押す、顔面を殴りたい衝動に駆られるが私の中の何かが歯止めをかけたのだ。しかし押してもグルスは倒れない、否倒せない
俺は本気で押し倒そうとしているのに
「その程度の力でレイに歯向かったら犬死にするだけだ。お前はいま冷静じゃあない。少し頭を冷やせ」
彼はそう言うと私の顔を殴りつける
凄い力だ、私は殴られた衝撃で吹っ飛んだ。宙に体が浮いたのだ。人に殴られてこんなに飛んだことはない。私の体は引力には逆らえず殴られた衝撃を伴ってズザズザと地面に叩きつけられる
「何やってんだい!」
騒ぎを聞きつけ酒を煽っていたレイが来た
「いやー、悪いなレイ。新入りの野郎があまりにも生意気だったから、つい手が出ちまったんだ」
「あんたらが怪我して働けなくなったらアタシの生活が壊れるだろうが! 家なし同士での喧嘩は禁止だとアタシは口を酸っぱくして言っているはずだよ! グルス! あんたの今日の給金は無しだ!」
「......あぁ、わかってるよ」
どこまでもクズな女だ、私の意識はここで途切れてしまった
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目が覚めると寝床の洞窟の中にいた。グルスが運んでくれたのだろう
体には擦り傷がたくさんできていた、地面に叩きつけられた時の摩擦によるものだ
私が目を開けると少女と目が合う。エムルだ
「だ、大丈夫? 薬を塗るよ?」
そう言って彼女は小さな壺に入った軟膏のような物を私の体に塗ってくれた
軟膏を塗りながらポツポツとエムルは語り始めた
「前にね、レイさんのやり方が気に入らないって歯向かった人がいたの。でも、レイさん強いから。元々cランクの冒険者っていうのをやってたみたい。歯向かった人は死んじゃったの」
「そうか」
「だ、だからグルスさんはね、おじさんが前の人みたいに死な」
「わかったよ、わかった。悪い事をしたよ。私が愚かだった」
私はね、家なしのグループに入ると決めた時にさ、護ってやろうって思ったんだ
だってそうだろ? 目が悪くて夜になったらまったく見えない、手先はかぎ爪で不器用で
こんなんじゃ生きずらいだろうと
私が日本で教わった知識とかさ、から揚げを出せる能力で店なんか作っちゃってさ。従業員として他の家なしの奴らも雇ってやって、皆を幸せにしてやりたいって思ったんだ
でも現実は甘くなかった
井戸汲みすら一人でこなせない
小さい女の子一人も救えない
目が悪くて、手先が不器用な奴に命を救われる始末だ
なんてことはない
護りたいと思っていた私はマルスやマキ、家なしの人たちに護られていたのだ




