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<16>-2

 

「ごめんね。七代。こんなことを頼んじゃって」


「何を言ってんだい。お友達の祈理ちゃんの為なら、こんなのはお安いご用さぁ~」


 ――――できれば、東堂宗二郎に会いたくない。

 昨日、一方的な方言を浴びせかけられた石蕗祈理。悪いのは自分じゃないはずなのに、心の中でずっと(つか)えたまま、今日を迎えていた。

『他の人間の事も信用してないんじゃないの?』

 まるで、今まで歩んできたなにもかもを、否定されていた気がして。――そんな気持ちは一切ないと否定しきれないのも、また事実。

 礼儀を欠いた態度への怒りもあるが……何よりも、彼とまた顔を合わせれば、自分がさらけ出さずにしている後ろ暗い部分を、また見抜かれてしまうかもしれない怖さがあった。

 自分勝手だと思いながらも、頼れる一人だけの友人。津拭七代が今日だけ交代して、東堂宗二郎の対処をしてほしいとお願いをしていた。


「………………………………祈理ちゃん。なんか暗いけど、だいじょぶン?」


「大丈夫よ。……訓練初日ですし、頑張らなきゃですよね!」



 ――――カラ元気。



 七代は彼女が表面だけを取り(つくろ)った演技だと、すぐに見透かした。


「なんか――あった?」


 何かあったからこそ、祈理はいつもの祈理ではないのだ。

 原因はちょっと考えれば導き出される。

 ――彼女を困らせている元凶。一年生の東堂宗二郎の件である。

 真面目に問うてるはずなのに、ニヤニヤ顔に見えてしまう自分が恨めしい。


「私って、そんなに人を信じてないようにみえる?」


「唐突だねぇ」


「私は誰も私の事を、ホントの意味で信じてくれてないような気がするんです。だから……誰も信じられない。等価であることを望んでいるわけではないけど、でも信じるって双方が繋がることで、初めて成り立つものじゃないのかしら」


「むむぅ。あんま難しいことをナナヨは考えンことにしてるけどさぁ。少なくともナナヨは祈理ちゃんのことを近くで見てきたから、よく理解しているつもり。……ナナヨは信じてるぞぉー」


「…………うん。ありがとう。七代」


「うひひひ」


 口元を吊り上げ、七代は腰に手を当てて薄く笑む。

 そろそろ、初日の訓練――魔導科二年生による練習試合が始まる。この勝敗によって大きく今後の成績が左右される。


「祈理ちゃんと当たらないかなぁ。久方ぶりに刻印全開でバトれるよぉ」


「…………そうやって言ってくれるのは、七代くらいなものですね」


 腕をグルグル回して、七代はやる気を見せる。

 しばらく話していると同じ『公正委員会』のメンバーが七代を呼ぶ。彼女は返事をして背を向け行こうとするも立ち止まり、祈理に振り返る。


「ほんじゃぁ、祈理ちゃん。またあとでねぇー」


 七代はこれから大規模な訓練が始まるというのに、いつもの調子を崩さず、手を振りながらマイペースに去って行った。

 祈理の方も、周囲の生徒に見せる顔つきを作った。

 ――訓練。いつもどおり練習してきたこと、学んできたことをそのまま示せば良い。自信があるかないかではないのだ。どれだけ積み重ねてきたのか。コレに尽きる。

 積み上げてきたものは、いざとなったら実戦で使えるのだろうか。

 祈理はいつも、練習をする度に、そんな思考がよぎる。

 どんなに実戦を想定した訓練であろうとも、想定外の出来事を生み出すのが異形の者たちなのである。異界に行ったことのある三年生の人は、そう語っていた。

 自分が収めてきた成績は、異形と戦う為のものではない。周りの人たちに失望されないために重ねてきた骨組みのない、()()()の塔なのだ。

 少しでも異常な事態が、私を押せば――きっと何もかもが崩れる。

 勝手に作られた〝完全無欠〟も、羨望も、期待も、関心も。

 下らない見栄。一年間かけて――本質は何も変わっていない。

 だから、私は……現実を恐れる。容赦なく襲いかかる『実戦』という名の現実。

 訓練では済まされない、あらゆる能力が生死に関わる。

 私は……どうなってしまうのだろうか。

 二年生にもなって、私はどこまで成長できたのか。

 この悩みは、いつかどこかで折り合いを付けねばならぬ時が来る。

 ――それが、近い未来でないことを、私は切に願わずにはいられないのだ。



 ………………………………。

 …………………………。

 ……………………。

 ………………。

 …………。


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