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「ごめんね。七代。こんなことを頼んじゃって」
「何を言ってんだい。お友達の祈理ちゃんの為なら、こんなのはお安いご用さぁ~」
――――できれば、東堂宗二郎に会いたくない。
昨日、一方的な方言を浴びせかけられた石蕗祈理。悪いのは自分じゃないはずなのに、心の中でずっと支えたまま、今日を迎えていた。
『他の人間の事も信用してないんじゃないの?』
まるで、今まで歩んできたなにもかもを、否定されていた気がして。――そんな気持ちは一切ないと否定しきれないのも、また事実。
礼儀を欠いた態度への怒りもあるが……何よりも、彼とまた顔を合わせれば、自分がさらけ出さずにしている後ろ暗い部分を、また見抜かれてしまうかもしれない怖さがあった。
自分勝手だと思いながらも、頼れる一人だけの友人。津拭七代が今日だけ交代して、東堂宗二郎の対処をしてほしいとお願いをしていた。
「………………………………祈理ちゃん。なんか暗いけど、だいじょぶン?」
「大丈夫よ。……訓練初日ですし、頑張らなきゃですよね!」
――――カラ元気。
七代は彼女が表面だけを取り繕った演技だと、すぐに見透かした。
「なんか――あった?」
何かあったからこそ、祈理はいつもの祈理ではないのだ。
原因はちょっと考えれば導き出される。
――彼女を困らせている元凶。一年生の東堂宗二郎の件である。
真面目に問うてるはずなのに、ニヤニヤ顔に見えてしまう自分が恨めしい。
「私って、そんなに人を信じてないようにみえる?」
「唐突だねぇ」
「私は誰も私の事を、ホントの意味で信じてくれてないような気がするんです。だから……誰も信じられない。等価であることを望んでいるわけではないけど、でも信じるって双方が繋がることで、初めて成り立つものじゃないのかしら」
「むむぅ。あんま難しいことをナナヨは考えンことにしてるけどさぁ。少なくともナナヨは祈理ちゃんのことを近くで見てきたから、よく理解しているつもり。……ナナヨは信じてるぞぉー」
「…………うん。ありがとう。七代」
「うひひひ」
口元を吊り上げ、七代は腰に手を当てて薄く笑む。
そろそろ、初日の訓練――魔導科二年生による練習試合が始まる。この勝敗によって大きく今後の成績が左右される。
「祈理ちゃんと当たらないかなぁ。久方ぶりに刻印全開でバトれるよぉ」
「…………そうやって言ってくれるのは、七代くらいなものですね」
腕をグルグル回して、七代はやる気を見せる。
しばらく話していると同じ『公正委員会』のメンバーが七代を呼ぶ。彼女は返事をして背を向け行こうとするも立ち止まり、祈理に振り返る。
「ほんじゃぁ、祈理ちゃん。またあとでねぇー」
七代はこれから大規模な訓練が始まるというのに、いつもの調子を崩さず、手を振りながらマイペースに去って行った。
祈理の方も、周囲の生徒に見せる顔つきを作った。
――訓練。いつもどおり練習してきたこと、学んできたことをそのまま示せば良い。自信があるかないかではないのだ。どれだけ積み重ねてきたのか。コレに尽きる。
積み上げてきたものは、いざとなったら実戦で使えるのだろうか。
祈理はいつも、練習をする度に、そんな思考がよぎる。
どんなに実戦を想定した訓練であろうとも、想定外の出来事を生み出すのが異形の者たちなのである。異界に行ったことのある三年生の人は、そう語っていた。
自分が収めてきた成績は、異形と戦う為のものではない。周りの人たちに失望されないために重ねてきた骨組みのない、がらんの塔なのだ。
少しでも異常な事態が、私を押せば――きっと何もかもが崩れる。
勝手に作られた〝完全無欠〟も、羨望も、期待も、関心も。
下らない見栄。一年間かけて――本質は何も変わっていない。
だから、私は……現実を恐れる。容赦なく襲いかかる『実戦』という名の現実。
訓練では済まされない、あらゆる能力が生死に関わる。
私は……どうなってしまうのだろうか。
二年生にもなって、私はどこまで成長できたのか。
この悩みは、いつかどこかで折り合いを付けねばならぬ時が来る。
――それが、近い未来でないことを、私は切に願わずにはいられないのだ。
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