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「お前かぁ。ドードーってのは」
「………………鳥? いや、俺……東堂です」
「うん。知ってるよ。トードーね。うん判ってる。わたし……津拭七代ね。よろよろ」
祈理に指示出しを頼まれた七代は、施設内部にある駐車場で宗二郎を向かえた。
駐車場にはテントの骨組みを積んだトラックが駐められ、他にも乗用車が何台かあるものの、ほとんど空いている状態。車両を使う人間は限られていて、養成所の関係者はいない。生徒たたちは控え室か、練習場の現場にいることだろう。
――誰も来ない。ココでは二人きりだ。
「知ってるよ。知ってるよ。……祈理ちゃんそっくりの人形作ったって、ナナヨに嘆いていたからさぁ。ああ、ちなみにナナヨは『公正委員会』の人間なンよぉ」
自らの素性を明かした七代に、東堂宗二郎は一瞬だけ目を開き、ぎょっとする。
「いや……その件については、とても反省していて……」
「実はさぁ。今のところ、学校側には報告をいれていないわけなのよ。つまり公正委員会が、チミの罰則を定めているって訳なんだけども」
「あ、そうだったんですか」
言葉の端端に軽薄な態度が滲み出る。
七代はいつもの笑顔っぽい顔つきで、彼を上から下へと観察する。
――いけ好かない男子だ。祈理がキライというのも、頷ける。
「刑罰……軽くして欲しい? ナナヨがなんとかすれば、なんとかできるかもしんないけどぉ?」
すると宗二郎の顔の雲行きが怪しくなった。
腕を組み、悩む仕草。
「…………いえ。このままの方が、いいかと」
「それは、祈理ちゃんと一緒に居る時間が長くなるからかい?」
「いや。別にそういうわけじゃないし――あ、俺ストーカーじゃないですよ? マジで。ストーカーっぽいことしてるヤツは、別にいますから」
「ふむふむ。なにやら事情がお有りかな? 話してみ~?」
事の経緯を宗二郎は細かく話す。七代はその間、何も口を挟まなかった。
「ふうん。先輩……ねぇ。祈理ちゃん、そのヤローを帰しちゃったんだぁ。ナルホロ」
――そっちは別件で締め上げるとしますか。
「おっけいおっけい。事情はわかった。でもやったことはやったことだから、しっかり……罪は償いましょうねン」
宗二郎は黙って、神妙に頷いた。
「ねぇ。…………トードー?」
「はい。なんでしょうか」
ニヤニヤ顔で、指をくいくい曲げ『近づいてこい』の合図。
宗二郎が黙って歩み寄ると、いきなり七代は宗二郎の襟首を素速く掴んで、自分の近くまで引き寄せた。
その形相は打って変わって眼光鋭く。上目の睨みは、驚くほど敵意に満ちていた。
「――おい。カエル野郎。わたしは祈理ちゃんのルームメイトで友達だ。スーパーフレンドなんだけどぉ。だから祈理ちゃんのことは良く解っているンよ。強く見えるだろうけど強く無い。強がっているだけでそう見えるように内面も外見も努力をしている。だからお前みたいなのが裏でコソコソやってるの知るンと、祈理ちゃんはとっても傷つくんだよねぇ。……ナナヨはお前が想像も付かないくらいの〝大変〟と、これからも背負うであろう大変を見守るつもりなンよ。頑張ってる人間に、余計な茶々いれんな」
「…………………………」
「祈理ちゃんは肝心なところで非情になれないと思うンよ。だから、ナナヨはそんな祈理ちゃんの努力をぶっ壊そうとする人間を完膚なきまでぶっ壊すさね。一年だからって、お前も例外じゃない。ナナヨを舐めたら火傷するぜー? チョビチョビのベニョベニョにしてやんよ」
凄まじい気迫に宗二郎は思わず、空気を飲み込んだ。
「わかったぁ?」
「き、肝に銘じます」
「アオガエルに誓えるかぁ?」
「――う、ウスっ」
なんでカエルに誓わなくてはならないのか、宗二郎の中で疑問が百倍増しであったが、本気で七代が言っている事は身を以て実感した。逆らったら鉄拳制裁を加えられそうな気迫。頷くしかなかった。
ようやく手が離され、笑みっぽい顔に戻る。
「どうせ短い期間の関係になるんだろうけどンさぁ。……つまんないことで、祈理ちゃん悲しませんなよぉ。あと――しっかり謝りなさい。あの子も鬼じゃないンだから」
津拭七代からの言葉を噛みしめ、宗二郎は彼女から当てられた役割を果たすため、建物の入り口まで戻った。
彼の仕事は、練習試合の観戦に訪れる生徒を、普通科と魔導科に分ける作業だ。常日頃からいざこざの絶えない学科同士の衝突を避けるために、公正委員会が考案した配慮らしい。
宗二郎が訪れる前から、何人かの生徒が仕分けに取りかかっている。
出入り口には小規模ではあるが生徒の流れがあった。そこに、どういうわけか――遠くからでも判るツインテールが、ぼんやりと空を仰いでいるのを、宗二郎は見つけた。
「なんだルカ子。まだ席に行ってないのか?」
「あ、宗二郎」
「だいぶ顔色良くなったけど、気分だいじょうぶか? 水もってきてやろうか?」
「ううん。……ありがと宗二郎。……………………ねえ?」
「どした?」
「あの――アタシ……」
留歌子が何か言い出すか言い出さないかのタイミングで、
――足下に地鳴りが伝わってきた。
宗二郎だけではなく、その感覚は同じ場所に立っている留歌子も感じた。
「――な、んだ?」
地震にしては一回きりで揺れはなかった。
建物に入ってきた他の生徒も、同じ振動を感じたらしく、互いに顔を見合わせながら、困惑していた。
「まさか、集団気のせい――みたいな?」
冗談をかます宗二郎であったが、留歌子は一切聞いていない。ただ黙っていた。
突っ立っていても仕方がない。自分の仕事をやらねば。
「七代先輩、マジ怖かったからなぁ……さぼってたら、八つ裂きにされっかもしれん」
ようやく宗二郎が動きだろうとしたところ。
別の通路から血相を変えて走り込んできた生徒が一人。
頭から出血していて、入り口にいた生徒全員の視線を集めた。
「い、異形が……異形が出たぞおおおお!」
叫びは空間に響きわたった。
現実から掛け離れた出来事の介入に、生徒たちの反応は薄く。
――――これから、
――――この場にいる何人かの運命が大きく変化することなど、
――――まだ誰も……本人でさえも知らなかった。




