第28話 水車の思い出と若いもん
第28話 水車の思い出と若いもん
四人は橋の再建についておおよその方向を決め、帰途についた。
帰りの馬車では、カメルが初めて御者台に座り、手綱を握っていた。横にはサジが座り、馬車の扱いを教えている。
村で馬を使った試験をするなら、馬の扱いに慣れた者をもう少し増やしておく必要がある。ちょうどよい機会だということだった。
しばらく進むうちに、カメルの手綱さばきも少しずつ落ち着いてきた。道が平坦になったところで、四人はこれからのことを相談し始めた。
村長への報告はサジとバルグの二人で行い、その場で再建の方針を詰める。サクにはサクで、先に手をつけるべきことがある。そちらを優先することになった。
話がまとまると、バルグはさっさと荷台に横になり、ほどなくいびきをかき始めた。
サジもしばらくカメルの手元を見ていたが、もう大丈夫だと判断したのか、サクと場所を替わって荷台へ移った。
それからしばらくすると、そのサジまでこっくり、こっくりと船を漕ぎ始めた。
カメルは黙って手綱を操っていたが、やがて唐突に言った。
「いいですよね、水車って。学校で初めて水車のことを教えてもらった日、覚えてますか?」
サクは前を向いたまま、目を細めた。
「ああ、覚えとるで。捨てるいうてた木の実の殻やら、枝やらを使って作ったやつやな」
「あれが今は、畑や田んぼに水を上げる、村に欠かせんもんになってる。俺、あれが最初にできるところから見てたんや。水車を見るたびに、サク兄はすごいなあって思います」
「やめてくれ。俺は前のところで見たもんを思い出しただけや。それと、タメ口でええで。ガキのころみたいに」
「そんでも、それを見たミアさんが取り上げて、師匠のところへ走っていって。そんで、その足でオルムさんのところへ行って、今度はオルムさんを引っ張ってきて」
「ああ。大騒ぎしとったな。あいつ、いつもそうや」
「水車なんですけど、水を上げるだけやのうて、今では豆や麦を挽いたりしてるでしょ。まだ見てないと思うけど、滑車を作るのにも使っとるんです」
「そんで、縄を撚るのにも使えると思います」
「へえ。そこまで応用しとるんか」
「ギア――歯車と組み合わせたら、いろんなもんができます」
一時期、バルグとモルが、サクの持つ知識を根掘り葉掘り聞き出そうと、何かにつけて捕まえていたことがあった。歯車も、そのころにサクが二人へ伝えたものだった。
ほかにもネジの仕組みを教えたが、そちらはまだ実現が難しいらしい。
何をどこまで話したのか。あまりに細々としたことまで聞かれたため、サク自身、もう思い出せなくなっていた。
「ここんとこ、ご無沙汰やけど、たまには作事小屋にも顔見せてくださいよ。師匠、サク兄をびっくりさせたがっとるんです。それに、しょっちゅうこぼしてますよ。『サク、けえへんな』って」
「ああ、また行くわ。滑車を作る水車も見たいしな」
サクはカメルに聞きたいことがあったのを思い出した。
「ところでな、カメル。うちのレアと仲がええ子って、誰か知らんか?」
「仲がええ子ですか。ああ、サク兄とケンカしてるそうですね」
「いや、ケンカやない。一方的にレアが怒っとるんや。どうしたらええんやろと思ってな」
「でも、仲がええ子となるとなあ……。あの子、あんまりしゃべらんし、薬事小屋も忙しそうやし。それに、きれいすぎて近寄りがたいから」
「へえっ? きれい? 近寄りがたい?」
「知らんの、サク兄だけやで」
「うちの妹なんか、日に透けた髪がきらきらして、青い目と金色の目で見つめられたら、吸い込まれそうになるって言うてたしな。それに、西の畑のワンツイなんか、よう声もかけんくせに、ずっと憧れとるらしいで」
「ワンツイって、あの鼻垂らして走り回っとった奴か?」
「いつの話しとるん。もう鼻なんか垂らしてへんで」
「それとな、狩り組のダンがな、『せっかく怪我して薬事小屋行ったのに、ばあさんが出てきた』ちゅうてがっかりしとった」
「なんや、その『せっかく怪我して』ちゅうのは」
その後、サクは「うーん」と唸ったきり、肝心の、レアと仲のよい子については何も聞けなくなった。
*
村に帰ったサクたちは、さっそくそれぞれの役目に取りかかった。
サジとバルグは、村長への報告と今後の方針を相談するため、二人そろって村長の家へ向かった。
カメルは作事小屋に戻り、モルに現場の状況を報告するとともに、必要な道具や設備について相談することになった。
サクはオルムに帰還を報告し、町へ連れていく『若いもん』との顔合わせを頼むため、彼の家へ足を向けた。
「おう、帰ってきたか」
オルムは、家へ向かう途中にある畑で農作業をしていた。
「橋の再建はできそうか。どんな具合や」
サクは率直に答えた。
「あんまり芳しゅうないな。ほとんど作り直しや。できるだけ早う復旧できるよう案を練って、今、バルグとサジが村長のところへ行っとる」
「そうか。まだ手はあるいうことやな。それやったらええわ。詳しいことは、直接村長に聞く」
オルムは手についた土を払いながら続けた。
「それと、お前が来たんは、町へ連れていくもんとの顔合わせやな。二人ともガロンのところにおる。一緒に行こか」
二人は連れ立って、燻製小屋へ向かった。
そこでは、いつものようにガロンが鹿皮をなめしていた。鹿を仕留めたのはダンだという。
その横では、ダンとオルムの息子ジーロ、それに娘のハナが、ガロンの手元を眺めていた。
「あっ、サク兄。今、帰ってきたん? お帰り」
誰よりも早く気づいたハナが声を上げた。
「ただいま。……って、ひょっとして、同行するんはダンとジーロか?」
サクは挨拶を返すなり、オルムに尋ねた。
「そうや。すぐに条件に合うんが、この二人やったちゅうことや」
「ちょっと、ひねりがないな。二人とも前からガロンについて、解体から燻製まで教わっとったやないか」
二人とも、少し前からガロンの燻製小屋を中心に、狩り組の仕事を教わっていた『若いもん』だった。
「不満か?」
「そやないけど、本人らはどうやねん。行きたいんか?」
「それは問題ない」
オルムが答えるより先に、ダンが鼻の穴を膨らませ、声を張り上げた。
「サク兄! 俺、やるで。任せといて!」
隣では、ジーロも大きくうなずいている。
ガロンが鹿皮から目を離さずに言った。
「二人いっぺんに抜けるんは痛いけどな。代わりにオルムんところから、畑の若いもんを二人こっちへ寄こすそうや」
「うちも町へ行きたいって言うたんやけど、あかんって」
横からハナが口を挟んだ。
サクはハナにやさしく言った。
「今度は荷物を背負って、険しい山道を歩かなあかん。馬車の通れる道ができたら、そのとき行ったらええ」
それから、ダンとジーロに向き直った。
「町までの道は険しいで。危ないところもあるし、しんどい思いもする。覚悟しとかなあかんで」
サクはダンの顔を、いつもより少し長く見た。
「……お前、怪我はもうええんか」
「へっ? あ、ああ。なんともないで」
サクはガロンとオルムに向き直った。
「ほんなら、明日から訓練するちゅうことでええか?」
「ああ、ええで」
ガロンが答え、オルムも、
「頼むわ」




