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補欠は異世界でも甲子園の夢をみるか  作者: クリオアサト


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第18話 仕事着と面倒ごと



第18話 仕事着と面倒ごと


サクはまだ日が高いうちに寺院に着いた。

ギルドでヘレナや医師に言われたこともあり、今日一日は安静にしておこうということだ。

いつもは裏庭から入っていくのだが、表の講堂の方から入っていった。

上着が血で汚れ、子供たちをおびえさせてしまうかもしれないからだ。


戸を叩き、人を呼ぶ。

すると、シアが扉を開けた。

「どうしたのサクさん。その血、怪我してるの?」

扉を開けるなり、目を丸くし、一歩体を引いている。


「びっくりさせてすみません。道中ちょっとトラブルがあって…… 。

あっ、治療はギルドですませてきたんで。裏から入って子供らに見られるとまずいと思って、こっから入ったんやけど…… 」

ちょっとバツが悪そうに言う。


「とにかく、入って。事情は後で聞きますから。いつもの部屋は空いてますからね。とりあえず、荷物はそこにおいて着替えて来てください」


サクはズボンの入った背負子を表の講堂に置き、シアに導かれて、寺院の中に入っていった。


いつもの部屋に入り、部屋着に着替える。

上着は灰色の生地の上に血が結構目立つ模様をつけていた。

「これ、どないしょう…… 。街中でこれで歩けんなぁ」

「まぁ、後や、とりあえずやることやろ」

サクはシアのいる講堂に戻ることにした。


シアはセリーネと講堂の椅子の拭き掃除をしていた。

「すんません。忙しいところ。ちょっとええやろか…… 」

シアは手を止め、サクに近づいてくる。

「どうされたの、その頭の包帯 大丈夫なの?」


「みんな、大げさやから。全然大丈夫です。それより、説明しとなあかんことあって。

この荷物やねんけど、村の人らから子供らにどうかって。」

言いながら背負子から荷をほどき、一枚のズボンを広げる。


「前に、最近ズボンの汚れや破れがひどいって。その原因の一つが俺やし……。それで村長の奥さん、サリナゆうんですけど、その人の思いつきで子供らに服をってことになって。 」

どこから説明していいのか、しどろもどろしながら経緯を話す。


シアはサクの頭の怪我に気が行っているのか、ズボンは見ずに手に取った。

「それより、どんな具合? 痛むんでしょ」

「ほんま大丈夫ですって。医者に見てもろて治療は終わってます。縫ってますけど血はもう止まって今日一日安静にすれば問題ないよ」


「あまり、無茶はしないでくださいね。あなたはちょっとそんなところがあるから」

シアは本当に心配気に眉をひそめる。


「それより、このズボン。増えてなければちいちゃい子を除いてみんなの分あると思うで。大きさの大中小で持ってきてます」


ここではじめてシアはズボンを見た。

「しっかりした生地ね。丈夫そうね」


そして子供を一人、連れてくるようにシアに頼んだ。

シアが視線を向けるより早く、セリーネは小走りに講堂を出ていた。

「気の利く子やね」

「ええ。最近は本当に助かっています」


すぐに6歳くらいの男の子を伴ってセリーネが戻ってきた。

サクはその子にズボンを履かせながら、裾、膝裏、腰の紐を順に結んでみせた。

「こうやって、その子の背丈に合わせるんや。ちょっと大きく作っても、しばらく履ける」

「そんなことまで考えてあるの?」

シアが思わず声をもらした。

「子供はすぐ大きなるからな。ちょっと大きいくらいで作っとかんと、すぐ履けんようになる」


「しゃがんだり、飛んだりしてみ」

サクが言うとそのとおりにその子は動いた。


「どうや、きついところとかないか?」

男の子は首を振る。


「お尻と膝のところは当て布をしてて、ここが破れたらその上からまた当て布すればええと思うで」


シアは手を口にやり、感心したように小刻みに首を縦に振っている。

「……はーっ。要は長く使えるってことよね」

そしてズボンを手にし、手触りやら紐の位置などギミックを感心しながらしばらく確認していた。


するとやおら顔をあげ、

「みんなにお披露目しなくっちゃ。サクさん、あなたみんなに説明してね」

と出ていこうとした。

その時、サクはシアを止めた。

「ちょっと待ってぇな。提案があんねん」


シアはその言葉に男の子を「もう、いいよ」と外に送り出し、サクに椅子をすすめた。

「なんですか。提案て?」


「このズボンをもらった子は、汚れたら自分で洗い、破れたら自分で補修することにするねん」

「もらった服やと思うたら、破れたら終わりになる。けど、自分の道具やと思うたら、直して使うようになるやろ」


「男の子でも?」


「男の子でも! 森でも、どこでも女手がないとこではなんでもせなあかんさかいな。できんって言うてられへん」

「そんでも、最初は無理やろうから、シアさんやセリーネちゃんなんかが手を貸してあげてほしいんよ。かえって手がかかると思うけど」

これがサクの提案だった。


シアは少し黙った。

子供たちに新しい仕事を増やすことになる。小さい子には難しい。けれど、ただ与えるだけでは、この布もいつか足りなくなる。

「……そうですね。最初は年長の子からにしましょう。小さい子には、縫うところを見せるだけでもいい」


そのあと、シアは補修を前提としたズボンのあちこちの強度の確認とかしているうちに子供たちが講堂に乱入してきた。

案の定、もみくちゃになった。そして怪我をしている姿を見て、サク質問ぜめにした。

それから、しばらく様子を見ていたシアに一喝され部屋から出て行かされた。


ここでシアはサクが怪我をしているのを思い出したようである。

「今日は、部屋で安静にしててください。食事は部屋にもって行きますから……。

……あなたは本当に……」

その「本当に」の先に、叱る言葉はいくつも続きそうだった。

けれどシアは、それ以上言わず、ため息だけを残して講堂を出ていった。





翌朝、出る支度をしていると、戸を叩く音がした。

入ってきたのはシアだった。

「あら、もう出る支度をされてるの? 今日はもう少し休まれた方がいいのではありませんか」

「朝一でギルドに行かなあかんのです。昨日、取引の話も途中で終わってもうたし」

「……あなたはもう。少しは自分の体を大事にしてください」

「その話はあとで。ズボンのこと、子供らに説明せなあかんのちゃいますか? それと腹減った」

部屋を出ていこうとした。

シアはあきれた顔でサクにつづいた。


朝食が終わり、サクに子供らが群がってきた。

口々に怪我のことやら聞いてきたが、

「その話は晩御飯のあとや。楽しみにしとき」


「楽しみにする話ではありません」

シアが横からぴしゃりと言った。


はぐらかし、ズボンの話を持ち出す。


「今日はなぁ、山の村から持ってきたもんがあるねん。シアさんお願いします」


シアとセリーネがズボンを机の上に並べた

「サクさんの村からの贈り物ですよ。作業着です。」

「作業するときや、ヤキュウなんかの遊びの時に履きます」

そして、一人ひとりサイズにあったものをその子の前においていく。


子供たちは手に取って手触りや匂いを嗅いで興味深々の顔でいるが、ズボンと聞いて年長、年中の女の子はちょっと微妙な顔をしている。


「村の強い糸を使って作ったズボンや。ちょっとやそっとでは破れへん。強いで」


ちっちゃい子が「つよいでぇー」とサクの口真似をした。

まわりの子がキャッキャッとはやし立てる。


それでも一部の子を除いて、女の子の表情は変わらない。

「女の子も履くの。ズボン」

「手触りもざわざわしてるし……」


「あかんか。山の村では狩人の女や動く女はみな履くし」


「女の人の狩人っているの?」


「あぁ。かっこいいでぇ」

サクは少しだけ目を細めた。

「男より早う走って、男より先に獲物を見つける人もおる」


サクはつづける

「そんでな、ちょっと工夫してるねん」

きゃっきゃと騒いでいる男の子を一人つかまえ、衝立の向こうで履き替えさせた。


そして、裾、膝、腰の紐を調整することで、シルエットを変えることを見せる。

「なぁ、こんな風にちょっと変わった恰好にできるねん」

裾を絞ると足首が細く見え、膝の紐をゆるめると布が少しふくらむ。腰の紐を締めると、だぼついていた布が体に沿った。

さっきまでただの大きなズボンだったものが、少しだけ別物に見えた。


その時、横で見ていたカンネが言う。

「へー。面白いわね。ちょっと気分を変えたい時なんか色々できそうね」

「これ、町で売ったら欲しがる子、いるんじゃない?」

興味深々な様子だった。


「いや、まだそこまで考えてへん。それよりこれ使う事でみんなにお願いがあるねん」

「これはできる子からやけど、まず一つは汚れたら自分で洗うこと。作業着やから汚れるのは当たり前や」

「それと破れたら自分で縫うて補修すること。これは出来る子もいるけど出来ない子はシア先生か、セリーネねえさんなんかにやり方聞いてできるようにがんばって」


「サク兄、男の子もか。男も裁縫しないとだめか」

年長の男の子が言う。


「当たり前や、服直すのに男も女もあるかい」


「これはな、きれいに置いとく服やない。動くための服や。汚してええ。破ってもええ。そのかわり、自分で洗って、自分で直すんや」


その後、男の子たちはその場で履きなおし、紐を調整しては飛んだり跳ねたり大騒ぎではしゃぎだした。


女の子はいつの間にかその部屋からいなくなっていた。おそらく別の部屋であーでもない、こーでもないとやっているのだろう。

セリーネもいない。

たぶん、あちらで紐の結び方を教えているのだろう。

サクはそれに気づいて、少しだけほっとした。





 ギルドは朝の繁忙時間が終わろうとしていた。ヘレナと受付の女性はまだ冒険者の対応をしていたが、表情にも余裕がある。

そこにサクは顔を出した。

「おはようさん。昨日はどうも」


「あら、体調はどう? 熱なんかない?」


「大丈夫やで、昨日、一晩ぐっすり寝たら疲れも取れたわ。ギルドマスターおる?」


「そのへんにいると思うわよ。でも、あんた今日は静かにしてなさいよ。依頼なんか受けさせないから」


「ほんま、みんな大げさやねん。依頼は受けへんよ。ギルドマスターと相談したいことがあるし、取引の品の確認とか、まだきっちり詰めてなかっ……」


「なんだ」

ヘレナとの話の途中で、突然、後ろからギルドマスターはサクに声をかけた。


その距離が近かったせいか、一瞬サクはびっくりした。

「おっ、おはようさん」


「相談事ならこっちもお前のこと待っていたんだ」

「ちょっと長くなる。場所移そうか」

そう言い、サクを受付の横から奥の長椅子のところに招き入れた。


「なんやの、改まって」

サクは受付の内側に入るのは初めてだったので、少しきょろきょろ見まわしながら言った。


「傷の具合はどうだ、結構大きかったと聞くが」


「結構なん針か縫ってもろたけど、骨はいってないんで大丈夫やで」


「体調の方はどうだ? めまいとかないか」


「心配せんでええ。傷口がピリピリするくらいや、それより相談ってなに?」

「ふむ。早速だがな。森の奥に入れる冒険者を増やしたい。お前に協力してほしい」

「森奥に?」

「戦が終わって、兵が戻ってきた。だが、戻ったからといって仕事があるわけじゃない。西大国のどこも似たようなものだ。この町はまだましな方だがな」

ギルドマスターは低い声で続けた。

「都市にも田園にも、余った人間が出始めている。いずれ、この町にも流れてくる」

「移ってくる人間を、ただ放っとくわけにはいかん、いうことか」

「そうだ。仕事がなければ荒れる。食い物が足りなければ、なおさらだ」

サクは少し考えてから言った。

「つまり、人が増える前に、今おる冒険者を鍛えときたい。森で食い扶持を増やして、荒れる前に仕事を作りたい。そういうことやな」

「まあ、そういうことだ」

「でも、その見方はギルドマスターの仕事やないな」

ギルドマスターの片眉がわずかに上がった。

「ほう。わかるか」

「治安と食い扶持の話や。領主の仕事やろ」

「領主からの依頼だ。ギルドでできる対策を考えろと言われている」

「で、俺はなにをすればええんかな」


「今、月一回、取引のために滞在して2、3日仕事するだけだろう?これを長、中期でここにいてもらい、森奥の探索の指導をしてもらえんだろうか」


「指導員ってことか。個人的にはやぶさかではないけど、即答はでけへん」

「俺は村の狩人や。狩りだけやなく生産にも首を突っ込んどる。塩の運びもある」

「すぐに返事はできん。持ち帰って村長とかに相談するわ。それでええか」

実際、村でいくつかの仕事がサクの肩に乗っている。これをどうするか相談しなければ立ち行かない。


「それでいい。村の都合を無視してまでとは言わん」

そこでギルドマスターは一度言葉を切った。

「だが、できるなら力を貸してほしい」


「少し話を変えるぞ」

ギルドマスターは卓に置かれた紙束を指で叩いた。

「この間のトカゲの皮だが、町の鞣し職人が持て余している。牛や鹿、それから普通の獣とは、だいぶ勝手が違うそうだ」

サクは素直に肩を落とした。

「あかんか。期待してたんやけどな」

「完全に駄目とは言っていない。ただ、町の職人だけでは難しい」

「村でやったことないか聞いてみるわ。でも本職はおらへんから、あまり期待せんといて」

「それでいい。念のため、背の皮と腹の皮を少しずつ持って帰ってくれ」

サクは頷きかけて、ふと思いついたように言った。

「それと、こっちで出来へんのやったら、できる職人を呼ぶんも手ぇやと思うで。皮が金になるんやったら、職人の方を引っ張ってくる価値はあるやろ」

「領主に打診してみる」

そこで、ギルドマスターは少し間を置いた。

「それで、その領主様のことだが」

サクは顔を上げた。

「領主様に会う気はないか」

「ない」

即答だった。

「領主様がお前に会いたいそうだ」

「いかん」

「まだ何も言っておらん」

「聞かんでもいやや」

ギルドマスターは片眉を上げた。

「理由は」

「まず時間がない」

「時間はこちらで合わせる」

「村の仕事がある」

「長く拘束するつもりはない」

「服がこれや。礼儀も知らん。村の人間やで」

「そんなものはどうとでもなる」

サクはそこで黙った。

口を開きかけて、閉じる。

視線が、卓の木目に落ちた。

「……貴族と関わって、あんまりええ思い出ないねん。察してくれ」

ギルドマスターはしばらくサクを見ていた。

それから、小さく息を吐いた。

「……分かった。今日はここまでにしておく」


サクは空気を変えるように、少し大きめに息を吐いた。

「それより、昨日の大猫や。あれ、回収せなあかんやろ」

「ヘレナから聞いた。どれくらいの大きさだ」

「山犬より二回りくらい大きい。人が一人で担ぐんは無理やな」

「何人いる」

「俺のほかに、最低二人。できたら三人ほしい。それと、ある程度動きのええのが必要やと思う。場所が場所だけに」

「どれくらいで戻れる」

「今から出たら、日が落ちる前には帰ってこれるくらいやと思う」

サクはそこで少し言いよどんだ。

「できたら今回、村へ早よ帰りたいねん。取引の品がまとまったら、すぐ帰るつもりや」

ギルドマスターは受付の方へ顔を向けた。

「ヘレナ。取引の品はいつまとまる」

ヘレナが席のそばまで歩いてきた。

「さっき発注を出したところ。いつもなら三日くらいね」

それから、じろりとサクを見る。

「あんた、今からでも取りに行くつもりだったでしょ。絶対だめよ。今日はおとなしくしてなさい」

どうやら、ギルドマスターとの会話は筒抜けだったらしい。

ギルドマスターが低く笑った。

「はっはっは。ヘレナにはかなわんな」

そして、サクに向き直る。

「俺も行く。だから、あと一人か二人だ」

「ギルドマスター自らか。ええんか?」

「俺も元は冒険者だ。ブランクもそこまで長くはない。たまには動いておきたいのもある」

ヘレナはしょうがない、というようにため息をついた。

「それじゃ、森に入れて、足の動くのを二人。回収補助で依頼を上げておくわね」

ヘレナが依頼板へ向かう。

だが、札を書き終えるより早く、横から声がした。

「その依頼、俺がもらうぞ」

ランスだった。

サクは思わず苦笑した。

「耳、早いな」

「森奥の依頼なら、見逃せんからな」

ギルドマスターが短くうなずく。

「一人目は決まりだな」

こうして、昨日倒した大猫を回収するための一行が、あっという間に組まれ始めた。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。


最近、仕事や私生活の都合で少し更新が遅れ気味になっています。

まだしばらくこの調子が続きそうですが、無理のない範囲で更新を続けていきたいと思っています。


感想や一言コメントなどいただけると、とても励みになります。

今後ともよろしくお願いします。

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