表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
補欠は異世界でも甲子園の夢をみるか  作者: クリオアサト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/26

第13話 村に残る理由 その2

第13話 村に残る理由 その2


しばらく、二人の間に沈黙が続き、ガロンは言う。

「あの頃は、もうミアとお前は一緒になって、すぐにでもコロコロ子供作って、やかましい家族になるやろなと思とった」


「あの娘、見目は悪ないが、家を守っとるけなげな女やない。村の男では扱いきれんやろな。だからワシも、いつのまにかお前のことをそれで受け入れとった」


サクはガロンの方を向き直る。

「俺はミアのおまけか。言うて、事実そうやったやろな。あいつはみんなをひっかき回すところがあったからな。俺もあいつに引っぱり回されて、そんな日々がずっと続くと思とった」


「ただ、あいつが回りをひっかき回すのは、お前が元になる分ばっかりやったぞ」

「新しい罠の工夫だの、道具だの、食い物、食い方、そのたんびに大騒ぎしとった」


二人はそこで声を上げて笑いあい、それから少し間があいた。


「あの瞬間から、スパっと切れてしまった気ぃがするな。ふもとの領主から徴兵の兵隊が来た日からや」

「特に斥候として重宝する言うて、優先的に猟師が連れていかれた。お前がつれていかれたんは一回目の徴兵の時や。うちの息子もそうやった。他にも木こり、職人とかが優先的にやったな。若いもんのまとめ役やったザジの息子も、その時や」


ガロンはそこで一度、言葉を切った。


「一回目は、まだ戦やから言う理屈をつけとった。せやけど、道中で崩れた、山で散った、賊にやられた、よう分からん話ばっかりがあとから来た。戻らんかった連中は、そのまま死んだことにされた」

「二回目からは、もう使えるもんから順に持っていく感じや。三回目になるともっと雑やった。山に入れる、足が立つ、目が利く、そんなん言うてな」


サクは小さくうなずいた。

「聞いとる。あとで戻ったもんや、噂で、大体はな」


「……ミアも、お前が死んだとは思わんかった」


「せやろな」


即答やった。


ガロンは少しだけ目を細める。

「みんなが、あれはもうあかんやろ言うても、あいつだけは帰ってくる言うとった」

「お前もそう簡単には死なん、死ぬならもっと面倒な死に方する、まで言うとったぞ」


サクは鼻で笑った。

「言いそうや」


「ほんで三回目や。あれでミアにも声がかかった。斥候が足らん、山に慣れたもんを出せ、言うてな」


「表向きは、やろ」


「ああ。表向きはや」

ガロンは苦い顔でうなずいた。

「けど村のもんで、本気でそれを信じたやつは多うない。あの頃の徴兵は、もう人足集めと人さらいの境目がなかった」


少し、沈黙が落ちた。


「ミアは逃げた」

サクが言う。

「連れていかれるくらいやったら、そら逃げる」


「止められんかった」


「止まる娘やない」


それで話は一度尽きた。

風が抜け、どこかで木の葉が鳴った。


やがてガロンが言う。

「……それでもお前は、残っとる」


サクは少しだけ肩をすくめた。

「残る理由ならある」


「聞こか」


「まず一つは、ミアや」

サクは前を向いたまま言う。

「消えたんは確かや。せやけど、あいつはそう簡単に野垂れ死にする娘やない」

「どっかで生きとる。気が向いたら、ふらっと帰ってくる。今でもそう思っとる」


大げさでもなく、言い聞かせるでもなく、ただ当たり前のことみたいに言った。


「二つ目は、レアやな。あいつはまだ一人でどうこうできる歳やない」

「ばあさんも弟子を欲しがっとる。やれることがあるうちに、道筋くらいはつけとかなあかん」


ガロンは黙って聞いている。


「三つ目は、この村や」

「俺がこっちに来た時、何も持っとらんかったんは知っとるやろ」

「言葉も、仕事も、食う分も、寝る場所もや」

「最初に生きる場所をくれたんは、この村や。ほんなら、返すもんは返さなあかん」


「恩返しか」


「大したもんやない」

サクは言う。

「住ませてもろうた分、食わせてもろうた分、できることをやるだけや」

「森に入れて、獲ってきて、運んで、教えられることは教える。今はそれで足りる」


ガロンはしばらく黙りこんでから、ふっと息を吐いた。

「なんや。もっと湿っぽい話になるか思うたら」

「ずいぶん勘定の合う話やな」


「湿っぽい話で腹はふくれへんからな」


「違いない」


そこでようやく、二人は少しだけ笑った。


笑いが引くと、小屋にはまた刃の入る音が戻る。

サクは鹿の後ろ脚に刃を入れ、骨に沿って肉を外した。


「無駄口叩いとると、日ぃ暮れるな」

「ガロンがよう喋るからや」


それに答えず、ガロンが言う。

「レアにも食わせたれ」


肉がひと塊、台に落ちる。


ガロンはうなずいた。

「ばあさんも弟子を欲しがっとるみたいやしな」


「その話はまた次や」

サクは手を止めずに言う。

「まずは目の前の鹿やな」


二人はまた黙って手を動かした。話は残っていたが、先に片づけるべきは目の前の鹿やった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ