終戦
いよいよブルータスとの最終決戦だ。ブルータスも転生者だけのことはあり、かなり強い。だが、オレはブルータスの真意を知った今、ブルータスを殺さずに何とかできないか考えながら戦っている。そんなことを考えていると、ブルータスは全身の魔力を高め、魔法を放ってきた。ブルータスの手から出る光魔法の光線は威力が強く、周りのものを次々と破壊していった。
「仕方ない。」
オレは瞬間移動でブルータスに近づき、ブルータスの両腕を切り落とした。
「グワ————」
ブルータスの悲鳴が響き渡る。
「殺せ! 私を殺すがいい!」
オレが躊躇していると、ブルータスの体がどんどん膨らみ始める。恐らく魔力飽和を狙って自爆するつもりだ。この魔力量で自爆されたらこの辺一帯は吹き飛ぶだろう。
“リン。魔力飽和を止める方法はないのか?”
“『グラトニー』で吸収してしまうのがよろしいかと。”
“わかった。”
『グラトニー』
オレは右手でブルータスの額に手を置き、ブルータスの魔力をどんどんと吸い込む。ブルータスの体が小さくなっていく。
「なぜ私を助けた。」
「お前には生きてもらう。生きて罪を償ってもらわねばならん。」
ブルータスは目を閉じた。
「私の完全な負けだな。気持ちのいい敗北だ!」
すると、突然空間が割れた。そして、その空間から真っ赤な手が伸びてブルータスを掴んだ。
「ブルータスよ。この役立たずが! もうお前に用はない! 消えるがいい!」
真っ赤な手はブルータスを握ったまま割れた空間の中に消えて行った。そして、声が響き渡った。
『人間よ。よくも私の邪魔をしてくれたな。許さぬ。覚悟しておくがいい。』
今までの状況を見ていた兵士達もミレイ達も、戦いをやめて動きを止めている。オレは風魔法に載せて全員に告げた。
「戦いは終わった。兵士達よ。武器を捨てるがいい。もう、この国に皇帝はいない。」
ここで、ゲイリー公爵が現れ、オレに向かって大声で言った。
「皇帝なき今。この国は私のものだ。お前達こそ出て行くがいい。兵士達よ。何をしている。早くこいつを殺さぬか。」
“リン。この国の兵士を従わせるにはどうすればいい。”
“マスターが少しだけ本来の姿に戻れば、それだけで従うと思います。”
“本来の姿?!”
“『気』を少しだけ解放してみてください。”
オレはリンに言われた通り『気』を少しだけ解放した。すると、白銀の髪が逆立ち、オレの全身が神々しい光に包まれていく。背中には薄っすらと霞んではいたが、白い翼が生えていた。オレはその姿のまま飛翔し全員に言った。
「もう一度だけ言う。戦いは終わったのだ! 武器を捨てるがよい。さもなくば、このオレが相手をしよう。」
オレが手から上空に向け光線を放った。光線は雲を貫き、爆音を立てて大爆発を起こした。その爆発で、空全体が燃えるように真っ赤に染まった。上空を見ていた帝国兵達は、全員が武器を地面に落とし平伏した。オレは元の姿に戻り、そして広場に舞い降りた。
「ケン? 本当にケンよね?」
「どうしたんだ? ミサキ!」
「ミサキ姉は、ケン兄の背中に翼のようなものが見えたから不思議なんだよね?」
「そうよ。だって、人間には翼なんか出ないもん。」
「ケンは魔法が得意にゃ。魔法で翼ぐらい出せるにゃ。」
「それもそうね。」
その後、ダンテさん達と一旦竜人の里に戻り、その日は亜空間の家でゆっくりと休むことにした。
「ケン兄はどこに行ってたの?」
「天国にゃ?」
「そうだよ。」
「ケン。本当? 本当に天国に行ってたの?」
「本当さ。実はオレ1回死んだんだよね。そこで偉い神様に、『愛する女性達』のもとに帰れって言われてさ。」
「ケン兄。その話本当?」
「本当さ。」
「ってことは、ケンは私達を『愛してる』ってことよね。」
「冗談だよ。」
「ケンのバカ————!」
「ケン兄の意地悪!」
何故か3人が泣きながらオレを叩いている。そして、ミレイがいきなり抱きついてきた。大きな胸が気持ちいい。
「ケン。大好きにゃ。」
「ずるい! ミレイ! 私も!」
「3人の女性がかわるがわる抱き着いてきた。」
「もう寝るよ。疲れたから。」