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[Web版] 異世界転移、地雷付き。  作者: いつきみずほ
第十五章 王都 アルシェグリム

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474 マーモント侯爵邸 (1)


 オルスクはボロボロになった服を着替え、慌ただしく出かけていった。


 訊けば、王都の門を監視させていて、俺たちの訪問に合わせて職場を抜けてきたらしい。


 働いているのは国の機関であり、本来ならそんなに融通は利かないが、そこは侯爵家。与えられた仕事を終わらせさえすれば、長めの休憩時間を取ることぐらいはできるようだ。


 もっとも、『おそらく今日は残業だろうが』とはリアの言。


 侯爵家の人間であっても席を温めるだけでないのは、さすが実力主義の国ということか。


「まぁ、オルスク兄上のことは良い。それよりも客間に案内しよう。こっちだ」


 リアに通されたその部屋は、自宅の俺の部屋と比べて、優に三倍は広かった。


 大きな窓から差し込む日の光で室内は明るく、内装は落ち着いた色調で統一されている。


 広々としたベッドが一つに、優雅なティータイムを楽しめそうなテーブルセット、五、六人は座れそうなソファーも備え付けられ、壁には良い感じの風景画まで飾られている。


 俺たちはネーナス子爵の屋敷に滞在していたこともあるので、貴族の客間を初めて見たわけではないが、あの時に借りていた部屋と比べても、この部屋は明らかに格が違った。


「わぁ! 素敵な部屋なのっ」


 目を輝かせたミーティアが、てててっとベッドに駆け寄る。


 そして、ポフポフと両手でその感触を楽しむが、それを見て焦ったのはメアリである。


「あっ、ミー……」


 そう声を漏らして慌てたようにリアを窺うが、リアは小さく笑って首を振る。


「ふふっ。遠慮せず寛いでくれ。後から他の部屋にも案内するからな」


「良いの? 随分と立派な部屋だけど」


「そうだよね? あたしたちは別に個室じゃなくても良いんだよ?」


「気にするな。今は他に客もいないし、客間は空いている――というか、このまま使ってくれた方が助かる。一部屋に複数人を泊めるとしても、床で寝させるわけにもいかないしな」


 あぁ、わざわざ追加のベッドを運び込む手間を考えれば、そうなるのか。


 この屋敷なら貴族の付き人用に、複数人が泊まれる部屋も備えていそうだが、叙爵予定という俺たちの立場を考えれば、そこに俺たちを泊まらせることも難しいのだろう。


「それじゃ、ありがたく泊まらせてもらうか」


「あぁ、そうしてくれ。外出も自由にして構わないが、食事の準備などもあるし、出かけるときは使用人の誰かに一声掛けてくれると助かる。あと七部屋用意すれば良いか?」


「あ、私とミーは同じ部屋でお願いします。これだけベッドが大きければ二人で寝られますから」


「そうか。では、六部屋だな」


「ん? それじゃ、リアはどこに泊まるんだ?」


「いや、私は自室があるから――はっ!?」


 トーヤの問いかけにリアは首を振るが、言葉の途中ではっとしたように瞠目して頬を染めた。


「だ、ダメだぞ、トーヤ。そういうのは正式に婚姻を結んでから――」


「違うっ! パーティー会議をするとき、声を掛けるために確認しただけだ!」


「な、なんだ……。それなら、使用人に声を掛けてくれれば良いが、すぐにやるのか?」


「そうね……。どうする? ナオ」


 ハルカがそう言って俺に目を向けると、全員の視線が俺に集まる。

 王都には今日着いたばかりだし、今日一日はゆっくりしても良いのだが――。


「大まかな予定だけでも決めておくか。昼食後に集まろう」


「ふむ。場所はここ――ナオの部屋で良いのか? 何なら、別の会議室も用意できるが」


 さすがは侯爵家、会議室があるとか、普通の家じゃちょっと考えられない。


 とはいえ、俺たちの会議はそんな格式張ったものじゃなく、ほぼ雑談の延長でしかない。


「別にここで良いだろ。全員が集まれるだけの広さがあるからな」

「そうね。問題ないと思うわ」

「了解だ。それじゃ、他の部屋に案内しよう。付いてきてくれ」



 リアがハルカたちを連れて部屋を出て行き、部屋に俺だけが残される。

 俺は荷物を部屋の隅に置いて、きょろきょろ。

 当然、人目はない。……よし。


「とうっ! ……おぉ~」


 身体をベッドに投げ出すと、程良い反発が体重を支えてくれる。元の世界で泊まったホテルのマットレスほどの弾力はないが、俺が普段使っているベッドと比べると格段に上質である。


「こういうのって、鍛冶師が作るのか? それとも錬金術?」


 ただのスプリングとも違う感じだし、不思議な物の担当は錬金術師である。


 であるならば、ハルカたちに頼めば、似たものを作ってもらえるかもしれないが……。


「さすがに、贅沢か?」


 今のベッドでも実用上の問題はなく、寝ていて身体が痛くなるわけでもない。


 貴族になって屋敷を構えることにでもなれば、その時には考えてみても良いかもしれない。


「しかし、貴族か……」


 天井を見上げると、目に入るのはシャンデリアのような明かりの魔道具。

 見るからに高価な代物である。

 窓枠や扉にも彫刻が施され、部屋の各所には実用性がなさそうな調度品。

 これまた金が掛かっていそう。


 俺たちの日常とはかけ離れた、こんな場所で育ってきた正真正銘のお嬢様がリアである。


 そんなお嬢様を娶るのは、(れっき)とした由緒正しき庶民である俺の親友なワケで。


「トーヤ、大丈夫なのか?」


 世間一般から見れば、俺たちも十分に贅沢をしているのだろうが、その方向性は現代的な健康で文化的な生活を送りたいというもの。生活環境は華美よりも実用性、料理だって見た目の美しさや稀少性よりも、美味しさや作りやすさなどの方が優先である。


 十分なコストは掛けているが、一般的な貴族とは重視しているところが違うだろう。


 リアも虚飾を好む性格ではないし、俺たちと生活していて不満を漏らしたことはないのだが、これまでの生活環境と異なることは確か。果たして夫婦生活が上手く行くかどうかは――。


「いや、大丈夫か。その気になれば実現できるだろうし」


 俺たちの家がシンプルなのは、必要性を感じなかったから。


 リアが今までと同じな環境を望むなら、実現すれば良いだけである――トーヤの努力で。


 結婚すれば青楼でお金を浪費しなくなるし、リアも冒険者になるなら実質二馬力で家計を支えることになる。侯爵家ほどとは言わずとも、かなり余裕のある生活はできる。


 もっとも色々と状況も変わっているし、少し落ち着いたら全員で話し合いは必要だろうが。


「ふぅ……。よしっ、着替えるか」


 ベッドの気持ちよさにこのまま眠りたくなるが、さすがにそれはマズい。

 俺は睡魔の誘惑を振り切り、気合いを入れてベッドから飛び降りる。


「汚れてはないが、さすがに外出着でいるのもな」


 本来なら、ベッドに飛び込む前に清潔な服に着替えるべきなのだろうが、俺には『浄化(ピュリフィケイト)』がある。おかげでシーツを汚す心配はないのだが、使用人の手前、一応着替えは必要だろう。


 だが、ここは侯爵家のお屋敷。あまりラフな格好では示しがつかない。


「う~む、どうしたものか」


 俺は服にこだわりがないので、こういうときにちょっと困る。


 とりあえず外出着を脱いでから考えようか、と思ったところでノックの音が聞こえた。


「ナオ、昼食の用意ができたみたいよ」

「お、ちょうど良いところに。入ってくれ」


 俺が応えると扉が開き、そこから顔を覗かせたのはハルカ。

 彼女は服を脱ぎかけている俺の姿を目にして、少し呆れたように眉を上げる。


「まだ着替えてなかったの?」

「あぁ。どんな服を着たら良いか迷っていて……。ハルカは普通だな」

「そうね。リアも『使用人しかいないから、気にしなくて良い』と言っていたから」


 そんなハルカが着ているのは、ラファンの街中で着るような外出着。

 フォーマルとは言えないが、可愛くてお洒落な服である。

 俺も普段着で良いのかもしれないが――。


「ハルカ、折角だし、俺の服も選んでくれないか?」

「何が折角何かは判らないけど……。ま、しょうがないわね」


 小さく肩を竦めたハルカは、どこか楽しそうに俺のバッグから服を引っ張り出した。


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― 新着の感想 ―
他のコメントにも有るけどいつの間にか光系統が使えてるんですな!!コミック版しか持って無いしコミカライズは小説よりも遅いからね。 魔法の発動体の話しが有ったけどダールズベアぐらいの魔石とかエルダートレン…
元の世界で旅行行った時(があるかは知らないけど…)も同じやり取りしてそうな安定感ですね。 普段から自分好みの服を着せていそう。
たぶん日本でもナオのお洒落服はハルカが選んでいたんだろうな ナオはその辺は割と無頓着っぽいし、見た目よりは着心地を優先していたんじゃないかな
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