473 厄介兄貴が現れた! (4)
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「ないですね」
「ないな。ルシアンも弱くはないが、俺との間には年齢差相応の実力差がある。そして俺たちには、リアや兄上ほどの才能はない。トーヤが苦戦することはないだろうな」
「はぁぁ、だよなぁ~。だが、これも夢のためか。で、今回と同じようにすれば良いのか?」
リアとオルスクの二人から言下に否定され、トーヤは深いため息をつく。
しかし、すぐに気を取り直してそう尋ねるが、それに焦りを見せたのはリアたちの方だった。
「い、いや、ルシアンに対してオルスク兄上と同じレベルは、さすがに……」
「ルシアンはまだ子供、立ち直れなくなるからやめてやってくれ。模擬戦で手加減しろとは言わないが、容赦なく骨を折ってくるお前の攻撃は、俺の心すら折れかけたぞ?」
リアに続き、オルスクも仏頂面で苦情を口にするが、トーヤは肩を竦めて反論する。
「オルスクがギブアップしなかったからだろ? やりたくてやったわけじゃねぇよ」
「うぐっ……」
実際、トーヤだって最初は遠慮していたのだ。
なのにオルスクがボキボキに折られる羽目になったのは、彼が無駄に頑張ったから。
ルシアンがどうなるかは、トーヤではなくルシアン次第と言っても過言ではないだろう。
「けど、ルシアンは一四歳だったか? 微妙なラインだなぁ」
「だよな? 子供扱いすると怒りそうだが、大人として扱うにはまだ未熟だろ?」
一四歳といえば、中学生男子ぐらい。大人ぶりたいお年頃である。
トーヤが明らかに手を抜けば臍を曲げそうだし、対応は難しそうだ――と思ったのだが。
「んー、でもさ、メアリよりは年上なんだよね? 大人扱いで良くないかな?」
ユキに改めてそう指摘され、俺とトーヤは顔を見合わせる。
そして、揃ってメアリに目を向け――少し怯んだメアリを見つつ、『ふむ』と頷く。
「……メアリより上なら、それなりに厳しく叩いても大丈夫じゃないか?」
「だよな? 男なんだし、動けなくなるぐらいでも問題はねぇか」
「中途半端だと遺恨が残るかもしれないし、良いんじゃない?」
「はい。武門の人間なら覚悟もできているでしょう」
挑んでくるなら、多少手荒な対応になっても仕方ない。
俺たちの方針がそう決まりそうになったところで、リアが慌てて口を挟んだ。
「い、いや、メアリを基準にしないでくれると、助かるのだが?」
「あ、ですよね。ルシアンさんは貴族、幼い頃から鍛えているでしょうし、私なんかでは――」
「違う! 逆だ。メアリは自分が特別だと、自覚した方が良い」
「え? そ、そうでしょうか……?」
メアリは困惑したように首を傾げるが、リアは「そうなのだ!」と深く頷き、それを横で聞いていたミーティアは、『すごいでしょ!』とばかりに胸を張る。
「ふふ~ん、ミーもお姉ちゃんも頑張ってるの!」
「あぁ、本当にな。数年前までは剣を握ったこともなかったとは、信じられないぐらいだ。師が良いのか? それとも実戦経験の多さが原因か? 身体能力自体も凄いが……」
リアが苦笑しつつ、ミーティアの頭をポンポンと撫で、少し訝しげに眉根を寄せる。
しかし、実戦経験と師匠か。
この世界は魔物を斃せば経験値が得られるのではなく、努力の成果が経験値で表現される。
つまり、強い魔物を斃させてパワーレベリングなんてことは不可能であり、そこから何を学ぶかは本人次第。良い指導者がいても、本人が頑張らなければ何の意味もない。
ただ、成長速度という点では俺の恩恵が影響している可能性は高く、その点だけを見れば『良い師匠』という評価もあながち間違いではないのだが――。
「身体能力については、獣人ならそんなものじゃないのか?」
しかし、俺のそんな問いをリアは首を振って否定する。
「いや、そんなことはない。メアリの年齢を考えると、その身体能力はちょっと高すぎるし、オルスク兄上のような熊系などならともかく、猫系は筋力面では人族と大差ないんだ」
「なら、虎系の獣人はどうだ? メアリたちはそれなんだが」
「え? 虎系? メアリ、本当なのか?」
「は、はい。そうみたいです」
「ならば、その身体能力も理解できる……いや、できるか?」
リアが『むむむっ?』と首を捻ると、オルスクも「ほぅ」と声を漏らす。
「二人は虎系の獣人なのか。それはかなり珍しいな」
「そうなのか?」
「あぁ、猫系と違い、虎系の血筋は限られる。ヴァルム・グレでも数えるほどだろうな。だが、頑丈さなら俺たち熊系の方が上、そちらの子供が耐えられる範囲なら、ルシアンも――」
「オルスク兄上、メアリを普通の基準で考えないでください。ルシアンが泣きますよ?」
「それほどなのか? 最近はルシアンも少し鼻が伸びてきているし、立ち直れる範囲なら鼻っ柱をへし折るぐらいは良いと思ったんだが……。ルシアンより年下の女の子だぞ?」
オルスクは不可解そうに首を捻るが、リアは真面目な顔で頷く。
「それでも、です」
「そうか……。まぁ、リアがそう言うなら、それが正しいのだろうな」
「はい。もっとも、私とトーヤの関係を素直に認めてくれれば、それが一番良いのですが……」
「俺が言うのもなんだが、難しいだろうな」
二人は顔を見合わせ、揃って「はぁ」と深いため息をついた。
オルスクも相当だったが、その反応からしてルシアンはそれ以上なのだろう。
トーヤにはご愁傷様と言うしかないが、それも彼が選んだ道。俺としては応援するだけである。
「……まぁ、なるようになるでしょう。それよりもオルスク兄上、トーヤたちに一度、きちんと名乗ってはいかがですか? 彼らは私のパーティーメンバーにして、叙爵を控えている身。いきなり襲いかかった後で既に手遅れですが、最低限の礼儀は必要ですよ?」
リアに睨まれ、「うっ」と言葉に詰まったオルスクは気まずそうに咳払いをすると、汚れてしまった服をパタパタと叩いて姿勢を正し、俺たちに向き直った。
「コホン。既に知っているだろうが、俺はオルスク・マーモント、リアの兄で王都の屋敷を任されている。お前たちの滞在を歓迎しよう――トーヤは歓迎したくないが」
「オルスク兄上……」
「解っている。これ以上はもう言わん。忌々しいが、腕前は十分だからな」
呆れ顔のリアにオルスクは手を振ると、一転してカラリとした笑みを浮かべた。
「強い冒険者と縁を結べるのは僥倖だ。トーヤも含め、歓迎しよう。好きなだけ滞在していくと良い。俺は仕事があるのであまり時間が取れないが、たまに手合わせに付き合ってくれるとありがたい。あと、本当は俺が案内すべきなのだが、少し時間がなくてな。リア、頼めるか?」
「そういえば、この時間にオルスク兄上が家にいるのは不自然ですね? お仕事は?」
眉根を寄せたリアがジト目を向けると、オルスクが焦ったように目を泳がせる。
「い、いや、その、リアたちを歓迎しなければ、と思ってな?」
「歓迎? ……解りました。何も言いませんから、後は私に任せて早く仕事に戻ってください」
「すまないっ。トーヤたちもまた会おう!」
リアが色々と飲み込んでそう言うと、オルスクは安堵したように表情を緩める。
そして、俺たちに軽く挨拶、大急ぎで屋敷に向かって走って行った。
「リアも大変……だな?」
「普段は尊敬できる兄ですし、ルシアンも出来の良い弟なんですけどね」
トーヤの言葉にリアは困ったように笑うと、小さく肩を落とした。









