第9話 引き継いだ想い⑤
「魔女子さん、とりあえず座ろうか」
「……あ、はい……取り乱してしまって……お、お恥ずかしい」
床の上をゴロゴロと転がっていた魔女子さんに声をかけて座らせた。すると、魔女子さんは冷めきった紅茶に気が付き、すぐに入れ直すと言って席を立ってしまった。何とも落ち着きのない人である。湯気の立った紅茶をテーブルに並べると、魔女子さんは椅子に座ってひと口飲み、熱さで悶絶した。もう、何も言うまい。
魔女子さんの家族は、祖父母も両親も魔女狩りによって処刑されてしまったらしい。当時はまだ幼かった魔女子さんは、他の魔法使いたちと一緒に、何とか逃げながら生活して生き延びたが、その魔法使いたちも次々と処刑されていき、気がついた時には魔女子さんは1人で生活していたのだと言う。大変な時代を生きてきたわけだから、復讐したくなる気持ちもわからなくはない。
それにしても、200年も経って急に復讐心が芽生えたのは何故だろうか?
「あのね、魔女子さん」
「はい?」
「人間はそんなに長く生きられないから、魔女狩りをしていた人たちはもう生きてはいない。だったら、誰に復讐をするの?」
「…………っ!?」
「まさか……気づいてなかったのか?」
もう、放っておこうかなという思いが一瞬頭をよぎったルルアとロクだったが、ぶんぶんと頭を振ってその思いを払拭し、再び魔女子さんと向き合った。
「復讐ってさ、怒りに囚われた愚かな行為だと思わない?」
「……え?」
「これから、まだまだ長い年月を生きていくのに、ずっと復讐のことを考えながら生きていくの? たとえば復讐をしたとして、その後は? たぶんだけど、復讐してもスッキリはしないよ。人間との間にわだかまりを感じながら生きていくの? ま、別にそれは魔女子さんの自由だけどね。私だったら……嫌かな」
「…………」
「それとだな」
「……はい?」
「あんたじゃあ、竜は操れない」
ロクの言葉がとどめとなったのか、魔女子さんは床に手をついて項垂れた。さて、どうしたものか――
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「あの……こ、これは……何でしょう?」
「お花畑」
魔女子さんの家の隣に、ルルアが花畑を作った。
荒れ地だったので、きっと誰のものでもないだろう――ということで、ルルアが魔法で荒れ地を整えて、花を植えたのだ。季節ごとに何かしらの花が咲くようにしたので、1年中楽しめるはずだ。それに、かなりの広さがあるので、花の世話をしていたら復讐のことなど考える暇もないだろう。
「水魔法が得意なんでしょ? ちゃんとお世話してあげてね。そしたら、種ができてまた次の年に花が咲くから」
「ななな、何で私が……?」
「この花は、あなたの心を光で照らしてくれるよ。復讐なんてドロドロした闇に支配されるより、光で照らされてた方が健全でしょ」
「で、でも……私、花なんて、そ、育てたことが……」
「1日に2回、水を撒いてくれればいいから。簡単でしょ?」
「そ、そうです……ね? えーと……雨の日は?」
「見てるだけ」
「そそそ、そうですよね……す、すみません」
「頑張ってお世話して、あなた自身のことも癒してあげて」
ここで得られる情報は他になさそうなので、ルルアたちは町に戻ることにした。花畑の前で見送ってくれた魔女子さんの顔には、ここに来て初めて見る笑顔があった。まだぎこちない笑顔だが、魔女子さんにはこっちの方が似合ってると思う。去り際に、ルルアが「そうだ」と、魔女子さんの方に振り返って言った。
「あなたのお母さんが言った『お願い』は、たぶんだけど、幸せに生きて欲しいっていうお願いだったんじゃないかな」
魔女子さんがどう思ったかはわからないが、ルルアはそう思った。
帰りは道に迷うことなく、茂みのトンネルをくぐることができた。まぁ、1本道だし迷えというのが難しいだろうが。ところが、町側から見ると、やはりトンネルを見つけるのは難しそうで――ルルアは目印の花を植えてみた。まぁ、もうここに来ることはないかもしれないが。
「それじゃあ、王都に向かって出発しようか」
「そうだな」
宿がないこの町に留まる理由もないので、今夜は野営かなと話しながら町を出ようとしていると、魔女子さんの家を教えてくれた女性に呼び止められた。
「あんた達、あの町まで戻るんだろう? だったら、これを届けてもらえると助かるんだけどねぇ」
「えーと……」
別に町に戻るわけではなく、先に進もうとしているのだが――
「お代はちゃんと払うからさ」
「わかったよ」
路銀は多いに越したことはない。それに、あの町なら宿もあるから野営しないでベッドで寝れるし。
ルルアは荷物を受け取り、空間収納の中に丁寧にしまうと、町に向かって出発した。
******
魔女子さんが、復讐をしようと思い始めたのは、とある魔法使いと出会ってからのような気がすると話していた。その人から、復讐しろと言われたわけでもないが、意気投合して話をしているうちに、何だか復讐しないといけないような気がしてきたのだとか。
その魔法使いというのは、名前も覚えていないし、顔も覚えていない、とても印象は薄い感じだった――ような気がする、そう、魔女子さんは話していた。
たった一度会っただけで、その後はどこにいるのかもわからないと言う。
あの魔女子さんと意気投合したその魔法使いも凄いと思うが、印象にも残らないような人との会話で復讐しようと思った魔女子さんも大概である。
いったい、どんな魔法使いだったのだろうか――
引き継いだ想い~Fin.~
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