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第8話 引き継いだ想い④

 昔、大勢の魔法使いたちが住んでいた町があった。その頃はまだ、魔女狩りなど行われておらず、魔法使いと人間との間にいがみ合いなどなかった。


 それは、突然始まった。


 魔法使いたちが暮らしていた町が、火の海と化したのだ。

 誰が、何の目的でそんなことをしたのかはわからない。でも、気が付いた時には火の中にいて、そこからどう逃げて、どこに向かったのかは何も覚えていない。


 その後、どこかの町にたどり着いて、そこで暮らすようになったのだが、その頃からあちらこちらで魔女狩りが行われるようになった。どこにいても、どこに隠れ住んでも、人間に見つかると魔女狩りとして処刑される。理由など誰にもわからなかった――そんな、魔法使いにとって暗黒の時代が、10年続いた。


 と思っていたら、20年だったという話を聞いた。そうしたら、50年続いたんだとも教えられた。で、最終的には100年続いた――


「……は?」

「100年も続く前に、魔法使いは絶滅しちゃうね」

「で、でも、私の記憶では……そ、そんな感じで」


 まぁ、記憶など年月が経てば経つほどに曖昧にはなるだろうが、さすがに10年が100年とはならないだろう。


「そ、それと……そう、人間が、特別な力を持っている魔法使いを妬んで、魔女狩りを始めた……とか、魔法使いを処刑することで、お、お金をもらっていた……とか」

「……えーと」

「あと……魔法使いの心臓をた、食べると……不老不死になるから……それで、魔女狩りを始めたとか……」

「話がまとまらなすぎでしょ」

「どこ情報だよ、そりゃ」


 その後もいろんな話が追加されていき、最終的には、魔女子さんがここで人間に対する復讐を企てているという話になった。


「えーと……復讐?」

「あ! に、人間にそんなこと話したら……き、聞かなかったことにしてください!」

「そこは大丈夫、私は魔法使いだから。ちなみにロクも……そんな感じ」

「おい」


 ロクは今は人間の姿なので、ツッコミはしっぽではなく手だ。

 それにしても、こんな調子でこの魔女子さんという魔法使いは、大丈夫なのだろうか――ルルアとロクの中で、ここで聞いた話はあまり参考にならないだろうと結論付けられた。

 魔女狩りや魔法使いの件は他を当たることにして、とりあえず問題にしなければならないのは、魔女子さんの復讐だろう。もし、本当に復讐を企てているのなら、放っておくわけにもいかない。


「魔法使いの方たちだったんですか! そ、それは心強いです!」

「復讐には手を貸さないよ」

「ななな、何でですか!?」

「だって、私には復讐する理由がないし、復讐なんて馬鹿げているから」


 ルルアは、すっかり冷めてしまった紅茶を口に運んだ。


「手は貸さないけど、とりあえず話は聞いてみようかな」


 今度は、魔女子さんの考える復讐について、さっきまでとは違って熱弁する彼女の話に耳を傾けた。

 魔女子さんの復讐はこんな感じ。


 ・最初に火あぶりにする計画を考えてはみたが、そんな残酷なことは実行できないし、そもそも誰を火あぶりにしたらいいのかわからずボツ案


 ・土魔法で町を瓦礫で壊滅させる計画は、そもそもそんな大掛かりな土魔法が使えないのでボツ案


 ・得意の水魔法で町を水底に沈める計画は、どの町を沈めるのかがわからない上に、人々が苦しむ姿を想像してボツ案


 ・大掛かりな魔法での攻撃は難しいと考え、小さな復讐を実行してみた。まずは、目の前を歩いている人を魔法で転ばせるというもの。成功はしたが、罪悪感から1週間眠れない日々を過ごし、もうやめた。


 ・家に遊びに来てくれた人に出す紅茶に、ちょっぴり不味くなる魔法をかけたが、良心が傷んで結局自分で飲んだ


 ・復讐しようにも、今いる町の人たちは皆良い人だし、この町では復讐したくないので、別の町に引っ越そうかいつも悩んでいる。この町でなければ復讐ができる……気がする


 他にもいろいろと考えてみたり、実行してみたものの、自分が思う復讐はできていないらしい。そこで、今考えている復讐計画が、魔法で竜を呼び寄せて町を襲わせるという計画。「あー、だから『竜を操る魔法の書』か」と、ルルアはさっき目に留まった魔導書のことを思い出した。


 無言で引きながら話を聞くルルアとロク。正直な感想は「しょうもな……」だ。転ばせるとか、飲み物を不味くするなんてのは、もはやただの嫌がらせであって復讐ではない。


「あのさ」

「な、何ですか?」

「あなたには、復讐は向いてないと思うよ」

「悪いことは言わん。やめとけ」

「そ、そんなこと言わないでください! 私だって……それくらい」

「そもそも、何で復讐なんかしたいの?」

「そ、それは……亡くなる直前に、母にお願いされたから」

「え、あなたのお母さんが復讐をお願いしたの?」

「そ、そうだと……思う……だって『お願いね』って言われたもの」


 なぜ、「お願いね」が復讐になるんだ?

 魔女子さん曰く、祖父母が魔女狩りに対する復讐をしようとして魔女狩りで処刑され、その祖父母の復讐をしようとして両親が魔女狩りで処刑された。だから、自分に託されたのは復讐だと。

 本当に、彼女の祖父母や両親は復讐をしようとしていたのだろうか? 魔女子さんに聞いてもその辺りははっきりせず、おそらく魔女子さんの思い込みだろうとルルアたちは思った。


「いつから復讐をしようと思うようになったの? 最初から?」

「え、えーと……それは……5年くらい前……です、たぶん」

「いや、たぶんって……魔女狩りが終わったのはいつ頃?」

「確か……200年くらい前……です」

「200年前から5年前までは、復讐なんか考えてなかったわけでしょ? それが何で急に復讐?」

「い、言われてみれば……変ですね、私……てっきり、復讐をお願いされたと……お、思い込んでいました」

「……おいおい」


 魔女子さんは、頭の中で整理ができずに混乱しているようで、困惑した顔で両手で頭を抱えながら、床の上をゴロゴロと転がっていた。どんな混乱の仕方だよ――というのは、ルルアとロクの心の声だ。



 *

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

少しでも楽しんでもらえてたら嬉しいです。次回もお楽しみに!

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