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第10話 恋愛を成就させる魔法の花①

 王都に向かう途中にある山岳地帯。

 ルルアとロクが出発した町からは、どのルートを通ってもこの山岳地帯を越えないと王都までは行くことができない。そんな山岳地帯の麓にある、比較的大きめの町に、ルルアとロクはやって来ていた。

 この町で食料などを買い足して、サクッと山越えをしよう……などと、安易な考えでこの町に到着した2人なわけだが――


「え、通れない? 何で?」

「これから雪が降る時期だからな。山道は雪解けまで封鎖だよ」

「……えー」


 厳重に封鎖された門の前で、門前払いをくらってしまったのだった。


「どこかからこっそり入り込めないかな?」

「俺は死にたくないから行かないが?」


 ここは、大人しく雪解けを待つしかないだろう。

 というわけで、2人はこの町に滞在するにあたって拠点となる家を探すため、空き家を持っている家主がいないか、町で尋ねて回ることにした。

 そうして見つけた1軒の家。小さくて可愛らしいルルア好みの家だったので、もちろん即決で前金を支払った。そして、大家さんに手渡された鍵をドアに差し込むと、ルルアは全身からキラキラした何かを放ちながらドアを開けた。ロクにしてみればただの家なわけだが、ルルアの目にはたいそう素敵な家に見えるらしい。


「ロク、何しようか」

「そりゃあ、路銀稼ぎに決まってんだろ。この家の料金払って、俺らほとんど金残ってないぞ」

「……魔法でお金が作れたらいいのに」

「犯罪者として捕まりたいなら、作ってもいいが?」

「…………嫌だよ」


 仕方がないので、この町に滞在している間は路銀稼ぎにいそしむことにする。そうと決まれば、ルルアは売るための花の準備だ――と、その前に。


「お腹空いたよ。お昼ごはん食べるくらいは……残ってるよね?」

「俺は別にパンケーキでもいいぞ」

「えー、朝も作ったよ?」

「俺は構わん」


 この町に来るまでに、食材はほとんど使ってしまったので、ルルアの空間収納に残っているのは、パンケーキの材料がほんの少しだけだ。昼食は、残りの材料でパンケーキを作るか、残りのお金で食材を買ってきて作るか、食べに行くかの3通りしかない。

 ちなみに、食材を買ってきて作る場合、ルルアが作れば真っ黒なサクサク食感の苦い食べ物、ロクが作れば素材を焼いただけの質素な食べ物となる。

 話し合いの結果、2人は町の食堂にやって来た。まぁ、お腹も心も満たすには、それが正解だろう。


「はい、お待たせ~」


 恰幅のいいおばちゃんが、美味しそうな料理を運んできた。いかにも食堂のおばちゃんらしい女性だ。こんな感じのおばちゃんは、絶対に美味しい料理を作ってくれるという、不思議な安心感がある。まぁ、ルルアの勝手な偏見というか、思い込みではあるが。


「あんた達、見ない顔だねぇ。旅の人かい?」

「そうだよ。雪解けまで、この町に滞在することになったんだ」

「そうかい、それは大変だねぇ。滞在中は何か仕事でもするのかい?」

「まぁね」

「だったら、この店を手伝ってくれないかい? 人手が欲しいんだよ」


 手伝ってくれていた人が1人、違う町に引っ越したとかで人手が足りなくなったらしい。話を聞いていたロクが、料理を食べながらおばちゃんに言った。


「そいつを雇うと、皿に乗せられる料理が全部、真っ黒なサクサクになるぞ」

「失礼だな、パンケーキはサクサクになったことないよ」

「あははは! 大丈夫さ、料理は私が作るからねぇ」


 おばちゃんは豪快に笑った。


「まぁ、でも……ここでは働かないかな。私には花を売る仕事があるから」

「おや、お花屋さんかい? どこで売るんだい?」

「う~ん……広場とか」

「だったら、きちんと許可を取ってから売るんだよ。そうしないと、お役人に捕まっちまうからねぇ」

「許可?」


 この町で商売を始めるには、商業ギルドで許可証をもらわないといけないらしい。最初の町では町長に断れば広場で売ることが出来たので、ギルドなどという組織のことも初めて知った。昼食を食べ終えたら、さっそく手続きに行かないとだ。最悪の場合、夕食と明日の朝食が、2人でパンケーキ1枚ずつになってしまう。

 ルルアとロクは食堂を出ると、おばちゃんに教えてもらった商業ギルドへと向かった。






 ******






「身分証明書の提示をお願いします」

「……えーと、何それ?」


 花を売るのはルルアなので、商業ギルドで許可証をもらう手続きをするのはルルアだけでいい。だから、すぐに手続きは終わるだろうと思っていたが、最初から躓いてしまった。

 身分証明書――って、何だ?


「では、まず身分証明書を作る手続きから始めますね」


 そんなわけで、ルルアの身分証明書を作ることになったのだが、どこ出身かでまた行き詰ってしまった。記憶がないのだから、出身地などわかるはずがない。困った受付の男性が、ソファーに座って待っているロクに目を向けたが――そう簡単な話ではない。ここでは何とかごまかしたが、ロクは猫(魔獣)なのだから。

 さすがに困り果てた受付の男性が、上司を呼んできて事情を説明すると、特例ということで身分証明書を作ってくれて、許可証もくれた。話のわかる上司で本当に良かった。

 そんなわけで、許可証をもらうのにとんでもなく時間がかかってしまい、ギルドから出てくると辺りは薄暗くなっていた。


「……とりあえず、広場に行っていくつか花を売ってみようか。夜ご飯代くらいは稼げるかもしれないよ」

「そうだな」


 広場に向かう途中の路地裏で、ルルアは空間収納から小さなかごをいくつか取り出すと、魔法の花で花かごを作った。そして、それを手に持ち広場で売る。


「お花、いりませんか…………何か、マッチ売ってる女の子みたいだね」

「何だよ、そりゃ」

「……あれ、何だっけ?」

「大丈夫か?」


 不意に出てきた言葉に、ルルアは首をかしげた。私は、いったい何の話をしたんだろう?

 そんなことよりも、早く花を売って夜ご飯代を稼がないと。本当にパンケーキ1枚を2人で食べないといけなくなってしまう。


「な……なんかさ、急に寒い気がするんだけど」

「気のせいじゃなくて、本当に寒くなってきたぞ。もう、パンケーキでいいんじゃないか?」


 2人でガタガタと震えていると、空から白いものがふわふわと舞い降りてきて、ルルアが空を見上げた。


「ロク、何か白いのが降ってきたよ」

「雪だな」

「ゆき?」


 きっと、ルルアも見たことはあるのかもしれない。でも、今のルルアにとっては初めて見る雪に、ほんの少しだけ心が弾んだ。不思議と、空を見上げている間は寒さが遠のいた気がしていたが、一瞬で現実の寒さが襲ってきた。

 防寒の準備などしていなかったルルアとロクは、寒さで凍えそうになりながら、もうパンケーキでいいことにして帰ろうとしていた。その時、奇跡的に花かごが全部売れて、2人はお金を握りしめながら食堂に駆け込んだ。



 *

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

暇つぶしのお供にしてもらえたら嬉しいです。次回もお楽しみに!


ꕤ…のんびり更新中

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