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第5話 引き継いだ想い①

 町を出発した翌朝、ルルアとロクが野営の片付けをしていると、1台の馬車がやってきて止まった。どうやらルルア達が向かっている町に行くらしく、乗せてもらえることになった。これはなんとも嬉しい限りだ。


「1人で旅なんて怖くないのかい? 危ないこともあるだろう?」

「2人だから大丈夫」

「2人?」


 馬車を操縦しているおじさんが首を傾げながら振り返り、ロクがルルアの顔をしっぽでペシッと叩いた。


「あ、1人と1匹だから大丈夫」

「あぁ、そういうこと。でも、猫でしょう?」

「うん。でも、凄い猫だから」


 ルルアが得意気な顔で返すと、おじさんは笑いながら前を向いた。

 馬車に乗せてもらえたおかげで、予定よりも随分と早く次の町に到着できそうだ。しかも、歩かなくてもいいから楽ちん楽ちん。ルルアとロクは、荷台でのんびりとくつろぎながら、気持ちよく晴れ渡った青空を眺めた。ふんわりと浮かんだ雲が、ゆったりと漂っている。

 こうして、馬車に揺られながらうとうとしていると、急に馬車が止まり、馬車から飛び降りたおじさんの落胆した声が聞こえた。ルルアとロクも馬車から降りてみると――なんと、渡ろうとしていた橋が崩落していた。


「困ったなぁ、これじゃあ向こうの町に行くのは無理だ」

「他に道はないの?」

「あることはあるけどねぇ……迂回するとなると1週間はかかるだろうなぁ」

「1週間か……」


 ルルアたちは別に急ぐ旅でもないので、1週間かかっても問題はないが、このおじさんにとっては1週間は厳しいのだろう。馬車の荷台には食材が乗せられていて、きっとそれを売りに行くか、納品しに行くのだろうから。

 川幅は、そんなに広いわけではないが、サクッとどうにか出来る狭さでもなさそうだ。ルルアは腕を組みながら「う~ん」と考え込む。


「おじさん、ちょっと待ってて」


 そう声をかけると、ルルアはロクを連れて森の中に入って行った。






 ******






「これくらいの長さなら、数本運べば通れるようになるかも」


 長めの木を選ぶと、ルルアは木のてっぺんを見上げながら、手で幹をポンポンと叩いた。そして、切り倒してと目で言いながらロクに笑みを向けた。


「……無駄だと思うぞ?」

「やってみないとわかんないじゃん」

「はぁ……ほらよ」


 ロクが魔法で木を切り倒すと、ルルアが杖で操作しながら動かした――のだが。


「うぅ……他の木が邪魔で運べないよ」

「横にするからだろうが。立てて運べ」

「立てるとバランスが……あ、行けそう」


 フラフラしながらも、何とか1本の木を運び出したルルアは、川の傍まで進んでゆっくりと木を横にした。これで向こう岸とつながる――


「……ウソでしょ」

「真実だ」


 あと少し長さが足りず、がっくりと項垂れるルルアに、ロクが冷たく言い放ちながらも、しっぽでポンポンと背中を叩いて慰めた。

 あれ以上の長さの木を探すのは難しそうだし、いろんな方法を考えてみたもののいい案が思い浮かばず、無駄に時間だけが過ぎていく。そんなこんなで、日が暮れる時間になったため、今夜は河原で野営することに決まった。

 さっき切り倒した木を、ロクが自慢の爪で切り刻んで(るように見せかけて、実は魔法を使ってる)薪を作り、ルルアが火を起こして夕食の準備を始めた。ロクは川で魚獲り中。


「野菜があったから、具だくさんスープにしようか」

「あれは……商品だから使えないよ、お嬢さん」

「さすがに、おじさんの商品には手をつけないよ」


 ルルアは空間収納の中に上半身を突っ込みながら、ごそごそと野菜を探して取り出した。空間収納は便利だが、食材は普通に傷むから、野菜などは早めに使うことが推奨されている。永久に保存できる空間収納が開発されたらいいのに――という願いは、きっと叶わないだろう。


「これでよし」

「お嬢さんは魔法使いなのかい? 凄いねぇ」


 鍋に魔法で水を入れて、適当に切った野菜を入れて火にかけ、魔法で鍋を浮かせながら野菜が柔らかくなるまで待つ。しばらくすると、ロクがたくさんの魚を運んできて、ルルアに木の枝を刺すよう指示した。もちろん、ロクは今は猫なので、おじさんには2人の会話は聞こえないように気をつけている。


「刺すだけだぞ」

「焼かなくていいの?」

「俺が焼くからルルアは見てろ」


 ロクには苦い経験がある。それは、魔法使いの集落を出た日の夕食の時。ロクが獲ってきた魚をルルアが焼いたのだが、夕食の時にはその魚が見当たらず、代わりに真っ黒な何かが皿に乗せてあった。そこでルルアが発した言葉にロクが凍りついたのを、忘れた日はない。


「ロクが獲ってきてくれた魚、サクサクしててちょっと苦いよね」

「……魚?」


 ルルアが食べていたのは、皿に乗せられた真っ黒な何か。そう、それがロクが獲ってきた魚だった。いや、サクサクってレベルじゃないだろう――


 それ以来、ロクはルルアが魚を焼こうとするのを阻止し続けている。


「お嬢さんの猫は、魚を焼けるのかい? 話してた通り、本当に凄い猫なんだねぇ」

「凄いでしょ」


 得意気なルルアの顔に、ロクのしっぽ攻撃がさく裂した。



 *

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

ほんの少しでも楽しんでもらえてたら嬉しいです。次回もお楽しみに!

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