第4話 花の魔法使い④
祭りの翌日。
ルルアとロクは有名人になっていた。2人にとっては何とも迷惑な話である。旅の準備をするため外に出たとたん、大勢の人々に取り囲まれた。これでは旅の準備など出来たものじゃない。
「どうしよう……買い物に行けないよ」
「仕方がない。ルルアは家に入って鍵かけて荷物をまとめてろ。俺が買い出しに行って来る」
「……そうだね、お願いするよ」
こうして二手に分かれたのだが――住人たちも二手に分かれてそれぞれを追う。ロクは身軽に動けるので、屋根の上を伝ったりしながら目的の店まで向かえそうだ。問題はルルアだ。
家に入ったのはいいが、ドアを閉めるのを妨害されてしまった。このままでは、ドアが破壊されてしまうのも時間の問題。少し考えてルルアは杖を取り出すと、空に掲げて魔法を放った。ひらひらと舞い降りてくる花々。
「あの花、植えたらこの町が癒しに包まれるよ」
人々の意識が、空から舞い降りてくる花に向いた瞬間、ルルアは玄関のドアを閉めて鍵をかけた。これで良し。家中のカーテンを閉めて窓の施錠を確認すると、ふぅ~っと息を吐き出して作業に取りかかった。必要なものはその都度出すようにはしているが、1か月も暮らしていると家中に何かしら散らかるものである。その大半――というか集めてみると、全部がルルアの所有物だったことには少し驚いた。
旅をするのに、大荷物をどうやって運んでいるんだろう? と疑問に思うかもしれない。でも、ルルアには『空間収納』という大変便利な魔法があるので何も問題はない。これは、魔法使いの中でも限られた人だけが習得できる魔法だ。ただ、荷物が増えれば、それなりに管理は大変になるので、そこはきちんと考えないといけないが。
「よし、終わった」
しまうものさえ集めてしまえば、あとは簡単に収納できてしまうのだから、本当に便利な魔法を習得できたものである。これは、ロクには使えない魔法だ――とはいえ、ロクは人化できるだけではなく、魔法も使えるとんでもなく凄い猫なのである。広場で結界の魔法陣を一気に消し炭にしたことからも、その凄さがわかるだろう。
そんな凄い猫が、買い出しから戻って来た。
「ほら、パンケーキの材料と保存食だ。これもしまっとけ」
「うん、ありがと」
「これは昼飯な。食べながら目的地決めるぞ」
ロクがテーブルに昼食と地図を広げると、ルルアはロクと向かい合って座った。それまでの手描きの地図とは違って、道がたくさん描かれてあるちゃんとした地図だった。そして、現在地と王都の場所をロクが指差してみると、だいぶ離れていることがわかった。
「……遠いね」
「途中に大きな町もあるようだし、王都に着くまでに少しはマシな情報が手に入るかもな」
「とりあえず、こっちかこっちの町に向かう感じかな?」
「どっちも2~3日もあればつくと思うぞ」
「う~ん……どっちに向かおうか」
この町から王都に向かうには、どの道を使っても途中の山岳地帯を越えることになるらしい。これは――かなり困難な道のりになるかもしれない。まぁでも、出発しないことにはたどり着けないのだから、遅くならないうちにこの町を出よう。
「てゆーか、集落からこの町まで、本来なら1週間ほどで到着できたようだが?」
「それは……おかしいな」
あれは――地図が悪かったんだ、きっとそうだ。
ルルアは、ロクの訝しげな視線から目をそらしながら、昼食のサンドイッチを口の中に詰め込んだ。
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ルルアとロクが町を出てから30分も経たない頃、それは発覚した。
「おい、ルルア、お前……地図読めないだろ」
地図をくるくると回しながら見ているルルアに、ロクは嫌な予感がして声をかけてみた。
「失礼だな、私をバカにしすぎでしょ」
「なら、今いる場所を指でさしてみろ」
「ここでしょ?」
「……地図よこせ」
ルルアの手から、ロクが地図を取り上げた。集落を出て半月もの間森を彷徨っていた時に、気が付くべきだった――と、ロクが深く反省したことは、言うまでもない。あの町には、奇跡的にたどり着けて本当に良かったと、ロクは心の底から思うのだった。
地図上で、野営できそうな場所の目星を付けると、地図をルルアのカバンに入れてロクは猫の姿に戻った。そして、ルルアの肩に飛び乗って、ちょこんと座った。
「あ、ずるいよロク」
「うるさい。あの町では人間の姿でいることが多かったからな。たまにはこの姿に戻って魔力を回復したいんだよ」
「やっぱ、魔力消費するんだ」
「まぁな」
「それなら……仕方がないか」
見た目少女の肩にちょこんと座る黒猫。傍から見たら、とても可愛らしい2人だが、その外面と内面のギャップはきっと誰にも想像できないだろう。
花の魔法使いと、魔法が使える凄い猫。2人の旅は、まだ始まったばかり。
花の魔法使い~Fin.~
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