第28話 残された地図②
黒猫の姿でルルアのカバンから顔を出すロク。魔力の回復中だと言うが、本当は楽したいだけなのでは? とルルアは超絶疑っている。そんなロクのことをジーッと見つめていた青年が、ルルアの正面に立って顔を寄せてきた。
「……近いし邪魔」
「師匠!」
「それやめてって言ってるよね」
「では、ルルアさん!」
「何?……その前に離れてくれないかな」
「僕も猫の姿になったらそこに入ってもいいですか?」
「……いや、ムリ」
ルルアの「ムリ」という言葉には、ふたつの意味がある。ひとつは、青年が猫になることはできないというムリ。もうひとつは、もしも猫になれたとしてもカバンには入れないよというムリである。
「この森を抜けたらすぐに町があるんだよね」
「地図だとそんな感じだ」
「町から王都まではそんなに離れていなさそうだし、調べるのは王都に行ってからでいいかな? だとしたら、町では1泊すればいいか」
「そうだな」
そんな会話をするルルアとロクの隣で、ロクをジーッと観察しながら歩く青年。どうやら猫の姿になることを諦めてはいないようだ。どんなに観察しようとも、無理なものは無理なのだが。
それよりも、王都に行くことが嫌なのではなかったのか? 今のところ、妨害して来る様子はない。
「ルルアさん、ロクさん」
「何?」
「お腹がすきました。休憩にしましょう!」
「……え」
「さっき食ったばかりだろうが」
前言撤回だ。これはまた、妨害しているに違いない。それとも、ただ単に遠慮というものを知らないだけだろうか。
青年の提案は無視して森の中を歩き続けるルルア。隣からは猛獣の唸り声のような音がずーっとついてくる。この青年、本当にお腹が空いているらしい。
「君のお腹の中には、猛獣か魔物が棲みついてるのかな?」
「失礼ですね。そんなわけないじゃないですか」
「ルルア、コイツの腹がうるさすぎだ。この辺で休憩しないか?」
「……仕方がないなぁ、それじゃあ休憩しよ」
「僕は、ルルアさんのパンケーキが食べたいです!」
「すぐ出発するし、作らないけど」
「そそそ、そんなぁ……」
「……ルルア、作ってやれよ。そうしないと、腹に飼ってる猛獣だか魔物がずっと唸り続けるぞ」
「だから飼ってないって言ってますよね。本当に失礼だな」
勝手について来ているくせにあれこれ要求してくる図々しさは、失礼に値しないのだろうか?
仕方がないので、ルルアはパンケーキを作り始めた。ロクはカバンから出ると人間の姿になり、飲み物を用意する。青年がひとり加わっただけで、本当に食費がかさむ。賃金を要求する権利は十分にあるのではないかと思う2人だった。
「そういえば、ルルアさん」
「魔力って、どうやって身につけるんです?」
「それは……たぶん、生まれつき身についてるんだと思うけど」
「たぶん?」
魔力を身につけて生まれてくるから、同じ姿でも魔法使いと人間は違う生き物なのだろう。生きる時間も違うわけだし。もしも魔力が何らかの方法で身につくのだとしたら、魔法使いと人間の寿命の違いの説明ができない。魔力を身につけたら寿命が延びました――というのは、さすがに無理があるだろう。
ただ、ルルアには花畑で目を覚ました時よりも前の記憶がないので、どうやって魔力を身につけたのかはよくわからないが。
「……あ、生まれた時は赤ちゃんですし、その時から魔力があったかどうかなんてわからないですもんね! なるほど」
「まぁ、そういうことでいいや」
すんなりと納得してくれたので、これ以上面倒な質問はされなそうで良かった。と、思ったのだが――
「だとしたら、後から魔力を身につけた可能性もあるってことですよね! これは断然やる気が出てきました!」
「え、何で?」
「ルルア、諦めろ。コイツには何言っても無駄だ」
「……えー」
この先も永遠にこの青年に付きまとわれると思うと、超絶憂鬱な気分になるルルアだった。このポジティブ精神を、魔法以外に向けた方がこの青年にとっても良いことなのでは?
パンケーキを食べ終え、片づけをして出発の準備をしていると、突然魔物の群れが襲いかかってきた。
周囲に魔物がいることはルルアもロクも把握していたが、攻撃してくる気配はなかったので、刺激しないようにできるだけ魔力を抑えていた。それなのに、なぜ急に襲ってきたのだろうか?
ルルアはとっさに杖を構えて攻撃し、ロクも魔法で攻撃した。群れと言っても下級の魔物たちなので、2人にとっては倒すのにそう手はかからない魔物だ。だがここで、魔物の襲撃よりも驚くべき出来事が起こった。何と、青年が剣を手に魔物と戦っているではないか。
慣れた手つきで魔物を討伐すると、ふぅ~と息を吐きながら剣を納め、ルルアたちに笑顔を向けた。
「いやぁ、驚きましたね! 魔物の襲撃なんて久々なのでどうしようかと思いましたよ!」
「君……戦えたんだ」
「はい」
「小竜の前では逃げてただろうが」
「だって、竜は飛ぶでしょう?」
飛ぶ? 確かに竜は飛ぶ魔物だが。2人が怪訝そうな顔で青年を見ていると、青年は飛ばない魔物なら戦えるのだと説明した。
「飛ぶったって、お前を追いかけてる時はほぼ地上だったぞ」
「でも、飛んでましたし」
確かに小竜は地面から浮いてはいたが、ほぼほぼ地面すれすれの高さを移動していたので、剣でも十分に戦えたはずだ。
青年が言うには、翼が生えていたり浮遊している魔物は倒せないのだとか。剣が届く位置にいれば倒せそうなものだが、青年と議論しても無駄なので、そういう事にしておく。
「幼い頃から剣術は教え込まれていたので」
「だったら、魔法じゃなくて剣術に励んだ方がいいと思うけど」
「僕は魔法使いになりたいんです!」
あくまでも魔法使いになりたいと言う青年。本人が諦めない限り、2人が何を言っても無駄だろう。
とりあえず、日暮れ前にはこの森を出て町まで辿り着きたい。思わぬ魔物の襲撃で時間を使ってしまったので、急いで出発だ。
しかし、どうやら今日はついていない日のようだ。森の出口付近で、ルルアとロクはとっさに身構えた。先程の魔物の群れの時とは違う緊張感に、何も感じていない青年は、ただオロオロするばかりだった。
ルルアとロクが凝視する先に現れたのは――2体の魔族だった。
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