第27話 残された地図①
「次の町が最後の町だね」
「そうだな」
「その次は、いよいよ王都だ」
ルルアたちが魔法使いの集落を出てから1年以上が経ち、ようやく目的地である王都が目前となった。
これまで、立ち寄った町の図書館や本屋で物語や文献を調べたり、町の人に話を聞いたりしてきたが、魔女狩りや魔法使いに関する有益な情報はほとんど得られなかった。きっと王都なら、たくさんの情報があるに違いない。
「それにしても、王都が近くなると町の様子も変わるんだね。最近立ち寄る町は、最初の町とは全然雰囲気が違うよ」
「人の数も違うからな」
王都が近づくにつれ、街並みは華やかになり賑やかになった。そんな雰囲気に気分が上がったりするが、最初の町でののんびりとした空気が、ほんの少しだけ恋しく感じることもある。大勢の人の中にいると、何となくそれだけで疲れを感じてしまうのだ。
華やかさ、賑やかさ、穏やかさ、どれも程よく感じられる町があれば最高だなと、ルルアは思う。そんな都合の良い町などないだろうが。
「この辺で昼飯にするぞ」
「うん」
小川が流れている場所を見つけると、そのそばにいい感じの倒木? 丸太? が転がっていたので、そこで昼食を食べることにした。
ルルアが木の枝を集めに行くと、ロクは小川で魚を探し始めた。そんな2人の様子を、少し離れた木の陰から眺める人物がひとり。その人物のお腹からは、獣の唸り声のような音が鳴り続けていた。
集めた木の枝に魔法で火をつけたルルアは、いつものように野菜スープを作った。スープが出来上がると、空間収納からパンを取り出してナイフで切り、たまには焼いたパンが食べたいと思ったルルアは、切ったパンに木の枝を刺して焚き火の中に入れた。すると――
「おいっ! 何があった!?」
「……パンを焼こうとしただけだよ」
立ち上がった火柱に、ロクが血相を変えて飛んで来た。しかも、水をかけて火を消したから、せっかく焼いたパンもビショビショだ。スープと焼いていないパンは被害を受けずに済んだが。
「いいか、火起こしてもパンは焼くな。スープは出来たんだろ? 大人しく待ってろ」
「うぅ……わかったよ」
こうして、再び集めてきた木の枝で火を起こしたルルアは、言われた通り大人しく魚を捕まえるロクを眺めた。パンを焼こうとしただけで火柱が上がるとは、誰にも真似ができないある意味凄い能力である。
ロクが捕まえてきた魚も焼けて、ようやく昼食の準備が整うと、ロクはルルアが切ったパンを軽く火で炙ってルルアに渡した。焼いたパンの香ばしい香りが食欲をそそる。
「ありがとう、ロク」
「何でこんな簡単なことができないのかが、俺には理解できん」
「それはね、私にもだよ」
ルルアが美味しそうに焼けたパンにかぶりつこうとしたその時。背後に何かの気配を感じて振り向いた瞬間、ルルアの手からパンが落ちた。そのパンが地面に落ちる直前に、ロクが皿で受けとめたのだが――同じようなことが前にもなかったか?
口を開いたまま固まっているルルアの前にいたのは、ギュルギュルとお腹を鳴らしながらよだれを垂らしている、自称ルルアの弟子を名乗る青年だった。相変わらずの影の薄さだ。いつからそこにいたんだろうか?
「ルルア、安心しろ。コイツはお前もよく知ってる人間だ」
「……え、私が知ってる?」
よく見ると見覚えのある顔だった。
相当お腹が減っているのだろう、食べ物を見る目が血走っていた。そんな彼に食べ物を分けてあげないほど無慈悲な2人ではない。仕方がないので彼にも魚とスープとパンを差し出した。すると、一瞬で料理がそこから消えた。
「前も見たけどさ、これが魔法じゃなかったら何だろうね」
「実は魔族なんじゃねぇか?」
「失礼ですね、人間ですよ」
相変わらず遠慮というものを知らないようで、青年はルルアたちが用意した昼食をほとんど1人で食べてしまい、仕方がないのでロクがもう一度魚を捕まえてきて焼いた。それも食べようとするので、自分で捕まえてこいと、青年はロクによって川に放り込まれた。
そもそも、なぜ自分で食料を用意せずについて来ているのか? 青年が言うには、寝ている間に全部盗まれてしまったらしい。不用心というか、何ていうか――よく生きてたな。
「てゆーか、ここまで崖崩れとかなかったんだけど」
「そそそ、それは……復旧したんですよ……た、たぶん」
「ふぅん」
「あははは……」
嘘をついているのは明らかだが、それを責めたところでルルアたちに何の得もないため、触れないでおくことにする。
「そろそろ出発するぞ、ルルア」
「うん」
「はい!」
当たり前のように意気揚々と返事をする青年に、ルルアとロクが訝しげな顔をしながら振り向いた。青年はニコニコしながら立っている。
「……まさかとは思うけど……ついて来ないよね?」
「何でですか、僕はルルアさんの弟子ですよ? 一緒に行くに決まっているじゃないですか!」
「弟子じゃない」
「そんな、遠慮しないで下さいよ! ほらほら、出発するんですよね! 行きますよ!」
「どうせ断ったって離れてついて来るんだろうし、放っとけばいいだろ」
「……えー」
あんなに王都に行くのを邪魔しようとしていた青年が、なぜ一緒に王都に向かう気になったのかがとても気になる。この先も、何だかんだ言いながら妨害してきそうな気がしないでもない。まぁでも、ロクが言うように、断ってもついて来るのは間違いないだろう。近くにいるか離れているかの違いなら、別に一緒に行動しても同じ――なのか?
とりあえず、ルルアたちの邪魔になるようなことをしないという約束で、青年も一緒に王都に向かうこととなった。
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