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第26話 花畑と魔法使い④

「……花畑、こんなに近かったんだ」

「にゃ」


 集落から花畑までは、歩いて30分くらいだろうか。片道2日のはずでは?

 ルルアが呆然と立ち尽くしながら花畑を眺める傍で、ロクは涼しい顔をしながらぺろぺろと前足を舐めて顔を洗っている。

 気を取り直して、ルルアは花畑の真ん中まで歩いていき、ゴロンと寝転がった。そこから見える空は、スッキリとした青色で、ふわふわした白い雲がゆったりと浮かんでいる。目が覚めた時とは全く違う空だ。

 顔の傍に咲いていた白銀色の花が「久しぶり」と挨拶しているかのように、そよ風に吹かれてゆらゆらと揺れていた。


 この花畑は、ルルアが集落に行くまで誰も見たことがなかったらしい。ここには来たことはあったが、花畑などなかったと集落の皆は話していた。ルルアの話を聞いてから、何人もここに来ては花畑があることに驚いたのだとか。集落の中では、ルルアが眠りながら魔法で花を咲かせたなどと噂になっているらしいが、もしもルルアにそんな習性があるとしたら、ルルアの家は今頃花で埋め尽くされている。そんなことにはなっていないので、眠りながら魔法を使ったということはない――と思う。


「……魔女狩りかぁ」


 さっき青年に聞いた話を思い出しながら、ルルアは空に浮かぶ雲を眺めている。記憶のことは、正直なところ今のままでも不自由はない。魔女狩りが関係しているとも思えない。しかし、全く関係がないかと言われれば、そうとも言い切れない。


「ちょっと調べてみようか」


 魔女狩りから逃げてきた人が集まってできた集落なら、話を聞けばいろいろわかるだろう。ただし、魔女狩りなど忘れたい記憶だろうし、今でも人間のことをよく思っていない人もいるだろう。そこはよく考えて話を聞く人を選ばなければならない。

 とりあえず今日は、せっかくこの花畑にやって来たことだしと、ルルアは空間収納から敷物や食べ物を取り出して、のんびりピクニックをしていくことに決めた。


 花畑に行った翌日から、ルルアは魔女狩りについて集落の人に話を聞いて回ったのだが、聞く人それぞれで少しずつ内容が違っていて、どれが正しい情報なのかはわからなかった。所詮人の記憶なので、美化されたり尾ひれがついたり、記憶の改ざんは当然のことだろう。

 長老が書き留めていた日記も読ませてもらったが、当時の日記などは人間に対する恨み言ばかり書かれていて、背筋がぞわぞわとした。よく復讐しなかったな、この人――まぁ、人間がしたことを考えれば、これほどの怒りを抱えても当然のことだが。


 この集落では、魔女狩りについての記述は長老の日記以外に残されておらず、住人が語る内容以外に情報を集めることはできない。それに、ここで得られるのは魔法使い側の情報だけだ。人間側にだって、魔女狩りを行った経緯はあるはずだし、何か記述が残されているかもしれない。

 きっと、魔法使い側と人間側の両方の情報が合わされば、真実が見えてくるのだと思う。


「ロク、人間たちが暮らす町に行ってみようかな」

「にゃ~」

「だから、ロクとはお別れだね」

「にゃ」


 ルルアの頭をロクがペシッとはたいて、何言ってんだコイツみたいな目を向けてきた。いつも思うのだが、ロクのこういうところは人間臭いというか何というか。


「……ロクも一緒に行く?」

「にゃ~ん」


 当然だろ、と言うように、ロクは顔の隣に前足を上げながら、キリッとした目を向けてきた。まぁ、旅の友はいた方が心強くはある。

 そんなわけで、ルルアはロクと一緒に、魔女狩りについて調べる旅に出ることに決めた。魔女狩りについて調べていけば、当然魔法使いについても知ることになるだろうし、もしかしたらルルアの記憶にも辿り着けるかもしれない。

 集落の皆は寂しくなると言って引き留めようとしたが、ルルアの決意は変わらなかった。


「それじゃ、お世話になりました」

「いつでも戻っておいでね」

「元気でな!」

「ルルア、俺も連れてけよ」

「嫌だよ」

「即答かよ!」

「断ってくれてありがとな。コイツには麦作ってもらわにゃいかんからな!」


 集落の皆に見送られながら、ルルアは長老にもらった手描きの地図を手に、ロクと一緒に集落から旅立った。そして、集落が見えなくなった頃、ロクがおもむろに喋り始めた。


「これでようやくルルアと話せるな」

「……え?」

「驚いたか? 俺はただの猫じゃないぞ」

「……それは何となく気づいてたけどさ、え、喋れたの?」

「まぁな。てゆーか、気づいてたのかよ」

「うん。だって、魔物と同じ魔力な気がするから」

「だったら、これはどうだ?」


 ロクはそう言うと、人間の姿へと変わった。さすがにこれは想定外のことで、ルルアも驚いて足を止めた。


「……最初からその姿になれば良かったじゃん」

「あの集落では猫の姿が無難だったんだよ」

「そうなんだ?」

「あぁ」

「……そっか。まぁ、私はどっちでもいいよ」


 旅の友が喋れて人間の姿にもなれるなら、心強さが数倍も増す。きっと長旅になることは間違いないので、この心強い旅の友と一緒に良い旅ができることを願いながら、ルルアの足は最初の町へと踏み出した。






 ******






「……あ」

「どうした?」


 ホットココアを飲みながら、夢で見る花畑のことを思い出していたルルアが、窓の外にとある人物の姿を見つけて声を上げた。


「あの人、またあそこに隠れてこっち見てるよ」

「王都には行きたくなかったんじゃないのか?」


 あの人とは、魔法使いになりたいと言ってルルアに弟子入りを願い出た青年だ。ルルアは断ったが、勝手に弟子を名乗りながらついて来たものの、王都に向かうのを邪魔するので別行動にした青年である。そもそも、ルルアたちは一緒に行動するつもりもなかったのだが。


「放っとけ」

「うん、そうする」


 青年の姿は見なかったことにして、ルルアはホットココアを飲み干すと、広場で花を売る準備を始めた。おそらく、ここで花屋を営むのも今日が最後で、明日にはこの町を出発する予定だ。

 王都まで約1週間。いよいよ本格的に魔女狩りの情報を得られそうで、ルルアの気持ちもほんの少しだけ高ぶっている。


 広場に向かう途中、あちこちの家でルルアの花が飾られていたり、庭に花が植えてあるのを目にした。ルルアは嬉しい気持ちを抱えながら広場に向かう。

 花からは癒しの空気が漂い、町全体に広がっていく。たくさんの家にルルアの花が飾られたら、きっと町全体が癒しに包み込まれるだろう。


「今日も、たくさん買ってもらえたら嬉しいな」


 ルルアの足取りは軽く、弾むように広場へと向かった。






 花畑と魔法使い~Fin.~



 *

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

のんびり更新中です。

ゆるりと楽しんでもらえてたら嬉しいです。次回もお楽しみに!

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