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第25話 花畑と魔法使い③

 ルルアが倒れていたのは、魔法使いたちが暮らす集落の入り口付近だったのだと、助けてくれた人が朝食を食べながら説明してくれた。

 花畑で目覚めてから初めて口にする食べ物に、ルルアは涙を流しながら頬張った。こんなに美味しい食事は初めてだと思ったが、考えてみれば当然のことだ。記憶がないのだから、ルルアの中では初めての食事となる。


「花畑ねぇ、そんな場所あったかしら?」

「そこで目を覚ましたから」

「ふぅん……で、記憶がないと?」

「うん」

「あなたも魔法使いなのよね?」

「そうだよ」


 ルルアは魔法で花を出して見せた。ついでに杖も出して見せた。

 ルルアが持っている杖には、乳白色で虹色の光を放つまん丸の石が、浮くように埋め込まれている。


「本当に魔法使いのようね。それにしても……凄い杖ね、私には使いこなせないわ、たぶん」

「普通の杖だけど」

「あなた、実は凄い魔法使いなのでは?」

「うーん……たぶん、違うと思う」

「なぜ?」

「だって、凄い魔法使いだったら、記憶を失くするようなことないでしょ?」

「ま、まぁ……それもそうね」


 もしも本当にルルアが凄い魔法使いなのだとしたら、なぜ記憶を失くしてしまったのだろうか?

 その力を妬まれたからだろうか?

 だとしたら、記憶じゃなくて魔法の力を奪えばいい。ルルアが記憶を失くした理由は、きっと違うところにある。


 とにもかくにも、ルルアが魔法使いなのは確かなので、魔法使いだけが暮らすこの集落に滞在すれば何か思い出せるかもしれない――そんなわけで、朝食を食べ終えると、ルルアが生活するための家を探しに行くことになった。

 外に出ると、まるでルルアが出てくるのを待っていたかのように、あの黒猫がちょこんと座っていた。


「この猫、あなたが飼ってる猫?」

「違うわよ。いつからかこの集落に棲みついてるのだけど、誰にも懐かないのよね」

「え、そうなの?」


 誰にも懐かない? でも、夜明けまでルルアと一緒に星空を眺めていたが――まぁでも、確かに撫でられるのは好きではないようだった。今も、座っているだけですり寄ってくることはなさそうだし。

 その黒猫は、ルルアが空き家を案内してもらっている最中もずーっと傍について来て、住む家が決まると、まるで自分の家だと言わんばかりに、ルルアと一緒に家の中に入った。


 十分に人懐こいのでは?






 ******






 ルルアが魔法使いの集落で暮らし始めて約1年。魔法のことを教えてもらったり、自分が使える魔法を試してみたり、自分の得意魔法が花の魔法だということがわかったり、魔法とふれ合いながら過ごしているが、記憶のカケラは全くと言っていいほどに集まらなかった。

 しかし、ここで生活をしながら気がついたのだが、記憶がなくても生活する上で不便なことはない。魔法も問題なく使えているし。そんなわけで、積極的に記憶を取り戻そうとしなくても良いのでは? などと、あまり深く考えないように日々を過ごしていた。


「ロクは本当にパンケーキ好きだよね」

「にゃ~」


 ルルアが作った朝食のパンケーキを、さも美味しそうに食べる黒猫。ルルアは黒猫に『ロク』と名前をつけて呼んでいる。なぜロクなのかと言うと――安直すぎて呆れられてしまいそうなので、あえて説明はしないでおこう。

 ロクは、あれからずーっとルルアの同居人となっている。猫なので同居猫? 誰にも懐かなかったようなので、これには集落の皆も驚いていた。


「今日は何しようか」

「にゃ」

「うーん……花畑、見に行ってみようかな。なんであそこで眠っていたのか、わかるかもしれないし」

「にゃ~ん」


 ルルアは、4日分の食料や毛布を空間収納に詰め込むと、他に必要そうなものをカバンに入れた。この集落に来るまでに確か2日かかったはずなので、往復するのに4日。ちょっとした旅行だなと思いながら家を出た。

 ルルアがロクと一緒に麦畑のそばを通りかかると、いつも小麦をわけてくれる青年に声をかけられて足を止めた。


「よぉ、ルルア。相変わらず黒猫と仲良しだな」

「まぁね」

「どうだ? ここに来てからそろそろ1年だろ、何か思い出せそうか?」


 ルルアが石垣の上に座ると、ロクはぴょんと飛び上がって隣に座り、青年も作業する手を止めてルルアの隣に座った。


「うーん……何にも思い出せないかな」

「そっか」


 顎に手を当てながら何か考え込む青年。ルルアは青年の顔を覗き込んだ。


「どうしたの?」

「いや、その……もしかしたら、魔女狩りが関係してるのかと思ってさ」

「魔女狩り?」


 青年の魔女狩りという言葉にロクの耳がピクリと動いた。


「あ、やっぱ何でもねぇよ。やっべ、仕事サボったら怒られちまう」

「ちょっと待って。何? 魔女狩りって」

「それは忘れろ」

「気になるでしょ。責任取って話してよ」

「……いや、でもよ」

「話して」


 青年は渋々話しはじめた。そもそもこの話題を出したのは青年だ、渋々という態度はいかがなものかと思うが、そこは大目に見よう。

 魔女狩りとは、以前に人間が魔法使いに対して行った理不尽で非道な振る舞いで、それによって多くの魔法使いが命を落とし、その数が激減した出来事だとか。

 それは、突然始まったらしい。なぜ人間がそんなことを始めたのかはわからないが、とにかく酷い光景だったと青年は語る。魔女狩りは、魔王が討伐されるとぴたりと止み、今ではまるで忘れてしまったかのように、人間たちは魔法使いと普通に接しているらしい。

 その魔女狩りから逃げて生き残った魔法使いたちが集まり、ここで隠れ住むようになって集落ができあがったのだとか。この集落に人間がやって来ることはなく、人間の町に行くことはあるが、完全に人間と打ち解けられたわけでもないと青年は説明した。ただし、生き残った魔法使いが全員ここで暮らしているわけではなく、人間の町で普通に暮らしている魔法使いもけっこういるとも付け加えた。


「ふぅん、そんなことがあったんだ」

「だからさ、その……ルルアの両親が魔女狩りにあったから、そのショックで記憶を失くしたんじゃねぇかと思って」

「魔女狩りがあったのっていつ?」

「200年くらい前だな」

「200年……それだと、私は200年も花畑で眠ってたことになるよ。さすがに死んじゃうでしょ」

「……あ、そっか」

「それに、200年もあの花畑で眠ってて、誰にも発見されないってことはないと思う」

「確かに」

「きっと、別の理由だよ」

「そっか、そうだよな。悪かったな、変な話しちまって」

「そんなことないよ。魔女狩りの話教えてくれてありがとう」

「コラァー! 仕事サボって何してやがる!」

「わ、やっべ!」


 石垣に座って話していると、遠くから青年の父親の怒鳴り声が聞こえてきて、青年がビクッと肩を震わせながら立ち上がった。青年が慌てて麦畑の中に戻って行くのを見ながらルルアも石垣から降り、ロクと一緒に花畑へと向かった。


 魔女狩り、ルルアの記憶がなくなったことと関係してるとは思わないが、無関係とも言い切れない気がする。魔女狩りについては調べてみる価値はあるかもしれないと、ルルアは思った。



 *

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

かなりのんびり更新となっております(。>ㅅ<。)

気長にお付き合いいただけたら嬉しいです。次回もお楽しみに!

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