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第24話 花畑と魔法使い②

 花畑で目覚めたルルアは、森の中の1本道を歩きながら考え事をしていた。

 今からほんの少し前のことである。道の途中にあった泉で顔を洗おうとして、泉に映った自分の姿を見て衝撃を受けた。そこに映っているのは少女の姿。記憶はないが、この姿は間違っているような――そんな気がして固まってしまったのだ。たぶんだけど、中身は少女ではなく大人だ。

 まぁでも、泉に映った姿は紛れもない自分の姿であるため、どうすることもできない。あまり深く考えないことにして、ルルアは気を取り直して前を向いた。


 あの花畑に続く道はこの道しかなかった。といことは、ルルアはここを通って花畑に行き、眠っていたのだろうか? どんなに考えても記憶がないのだからわかるはずもなく。


 不意に、何かの気配を感じて立ち止まった。周囲を見回してみたが、鳥や小動物以外に何も見えなかった。気のせいか? と思う一方で、魔物のような気もしないでもない。もしも魔物だとしたら――大変だ。ルルアは、魔法使いだということは覚えているが、魔物との戦いの記憶はない。そのため、もしここで魔物と遭遇しても戦える自信がないのだ。

 魔物との戦いの記憶はないのになぜ魔物のような気がしたのか、それはルルアにもよくわからないことで、何となく魔物の気配に似ていると感じたのだから、それ以上の説明はできない。きっと、ルルアの本能的な何かだろう。


 とりあえず、念のため警戒はしておこう。ルルアは杖を手に持ちながら歩き始めた。

 不思議なもので、杖は自在に出現させることができた。きっと、自分はそこそこ魔法が使える魔法使いなのだろうと思う。しかし、調子に乗ると良くないので、あまり根拠のない自信を持たないよう気をつけないとだ。それにしても――


「お腹空いたな……」


 ルルアのお腹からは、早く食べ物を入れろと言わんばかりに、グーグーと騒がしい音が鳴り響いていた。

 それから歩きつづけること何時間だ? 太陽が傾き始めているのは、きっと気のせいではないだろう。この森は、そんなに広い森なのだろうか?

 ルルアは空腹と戦いながら歩き続けた。夜までにこの森を抜けなければ、食事にもありつけないまま、月明かりも届かない森の中で夜を明かさなければならない。それこそ魔物に襲われる可能性大である。だがしかし、体力には限界というものがあるもので。


「……うん、ここで休もう」


 夜明けからずーっと歩いて来たのだ、体力が限界を迎えても仕方がない。それに、真っ暗な中歩き回っても、無駄に体力を消耗するだけだ。眠ったら、もしかしたら体力とともに空腹も改善される――かもしれない。

 ルルアは木の下で草が生い茂っている場所に横たわると、膝を抱えるようにして眠りについた。

 そして、翌朝――


「空腹が……改善された気がする!」


 朝日の光は届いていないものの、夜の暗闇は消えた森の中で目を覚ましたルルア。昨日まであんなにうるさかったお腹が、嘘のように静かになっていて、睡眠とは空腹も満たしてくれるのかと感心したのも束の間、立ち上がった時にフラフラと立ち眩みを起こしたことで、空腹は体力の回復をも妨げるのだと知った。


「と……とにかく、町を探して何か食べよう……」


 ルルアはフラフラと歩き出した。

 森の中だからか周囲の景色にほとんど変化がなく、1本道だったはずだがもしかして迷ったのかなと不安になり振り返ってみる。そこから見える範囲には、分かれ道などはないように見えるが。

 戻るか、進むか、悩んだ結果――進むことを選んだ。

 歩けば歩くほど、お腹は空くし体力も減る。だんだん目はかすんでくるし、頭もぼんやりとしてきて思考能力も低下する。ついには、道端に生えている草や木が食べ物に見えるようになってきた。手の届く高さの木の枝をジーッと見つめると、おもむろに手を伸ばして枝を折り、枝の先についた葉の部分を口に入れて――我に返る。


「……何食べてんだろ、私」


 木の枝を草むらに捨てて、気を取り直して歩く。そうして、ふと思いついた。花って――食べられそうな気がする。思い立ったら行動あるのみ。ルルアは魔法で1本の花を作り出した。匂いを嗅いでみると、甘い香りがした。この花なら、きっと甘くて美味しいはず。ルルアは花をジーッと見つめると、ぱくりとかぶりつく。そして、涙を流した。


「美味しくない……」


 どんなに空腹になろうが、美味しくないものは美味しくない。

 空腹と疲労で、もう足を動かす体力も尽きようとしていた頃、ルルアの目に分かれ道と思われる細い小道が飛び込んできた。はっきりとした道ではないが、おそらく小道であろうこの道を進んだら、人が住んでいる場所に辿り着けそうな気がする――ルルアは本能に従い小道を進んだ。

 そうして日が沈んで薄暗くなった頃、ルルアは人がいるであろう町を見つけ、その手前で力尽きてどさりと倒れ込んだ。






 ******






「…………」


 ルルアが目を開けると、そこは森の中ではなく、建物の中のベッドの上だった。今まで空腹で森の中を彷徨っていたのは、実はこのベッドで見ていた夢だったのかもしれない、そう思ったが、久しぶりに聞いたルルアのお腹の音に、やはり今までのことは現実だったと知る。


 窓から見える空には、星が瞬いていた。

 部屋の中の静けさから、この家の住人は眠りについているのだろう。だとすれば、今部屋から出て行っても、今の状況を知ることはできないし、眠っている住人を起こしてしまうかもしれない。夜明けまで静かにしていよう、そう考えてルルアは窓の外に目を向けた。

 窓を開けると、心地の良い夜風が優しく頬を撫でた。そのまま、夜風を浴びながらキラキラと瞬く星空を眺めていると、どこから現れたのか、1匹の黒猫が窓枠に座っていた。


「どこから来たんだろ……この家の猫?」

「にゃ~」

「んー?……この気配……」

「……にゃ~」


 アメジストのような紫色の目をした黒猫。ややつり目で、人懐こそうには見えないが――撫でても大丈夫だろうか? ルルアが黒猫の頭に手を伸ばすと、前足で手を押さえつけられてしまった。猫の前足って、こんなに力があったんだなと驚く。顎の下ならと思ったが、前足でパシッと払われてしまった。この黒猫は、撫でられるのが好きではないらしい。

 黒猫から感じる気配は、森の中で感じた気配に似ていた。まぁでも、猫なのだから、別に森の中を散歩していても不思議ではないか。

 ルルアは黒猫にかまうのをやめて、ぼんやりと星空を眺めた。

 黒猫は撫でられるのは嫌みたいだが、人の傍にいるのは嫌いではないらしく、ルルアの傍で夜明けまで一緒に星空を眺めていた。



 *

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

ゆるりと楽しんでもらえてたら嬉しいです。次回もお楽しみに!

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