第22話 瘴気の泉④
一昨日は買い出しの途中で連れていかれたので、足りないものを買いに町に繰り出すと、さすがに魔法の花を育てることを諦めた青年も一緒について来た。そして買い出しが終わると、青年が泉を見たいとしつこいので、出発前に泉を訪れることにした。
青年は、一つ一つのお墓の前で手を合わせると、泉の前に立って深呼吸をした。
「こんなに美しい泉を汚すなど、本当に許せませんね。動物たちも……苦しく、辛い闇の中にいたのでしょうし。でも、さすがはルルアさんです!」
何ていうか、この青年は変わり者だし面倒ではあるが、悪い人間ではない。悪い人間ではないのだが、いい加減ついて来ないで欲しいとも思っている。まぁ、ついて来るなと言ったところで諦める青年ではないが。
「知ってましたか?」
「何を?」
「この泉は、癒しの泉と呼ばれているんですよ」
「ふぅん、そうなんだ」
「この泉の色は、世界中でも珍しい色なんです。癒しの色、ルルアさんと同じです!」
青年の話だと、この泉には世界中から癒しを求める人々が訪れて来るらしい。それが、ここ数年で瘴気に覆われてしまい、心を痛めていたのだとか――ん? 待て待て、ということは瘴気のことを知っていたのか?
「たまたま、ルルアさん達がここを訪れてくれたので、本当に良かったです!」
なぜ知っていたのに黙っていたのかは気になるところだが、今更気にしたところでどうにかなるわけでもない。それにしても、随分と詳しいなと思っていると、青年はこの町には何度も来たことがあるのだとか。実は、旅人としてはルルアたちよりも先輩であり、ベテランなのかもしれない。
「泉も見たし、宿に戻って荷物まとめて出発するよ」
「え、今からですか?」
「うん」
「あー、そういえば、ルルアさんたちって魔女狩りとか魔法使いについて調べてるんですよね?」
「そうだよ」
「あの……どこに向かってるんです?」
「……あっち」
「僕をバカにしてます? 何なんですかその答えは!」
「どこだっていいだろうが」
「教えてくださいよ!」
「うーん……まぁ、いっか。王都だよ」
ルルアの言葉に動かなくなった青年。何かおかしなことを口にしたか?
いつまでも動かないでいるので、ルルアとロクは気にせずに戻ることにして町に向かって歩き始めると、青年が慌てて追いかけて来た。
「い、いやいやいや、それはさすがに酷いでしょう! 置いて行かないでくださいよ!」
「知るか」
「動かないのが悪い」
「そ、そうですね、すみません……ではなくて!」
「何だよ、煩いな」
「えーと……お、王都に……向かうんですか?」
「うん」
「やめません?」
「……何でよ」
「嫌ならついて来るな。そもそも勝手について来てるんだろうが」
「僕はルルアさんの弟子ですからね!」
「違うけど」
どんなに断られても弟子だと言い張るこの青年の図太さには、ある意味感服する。本当に面倒な人間と出会ってしまったものだ。
「と、とにかく、王都に行くのはやめましょう! はい、それがいいと思います!」
「やめないよ」
「お前がついて来なければいい話だ」
「まるで悪魔ですね」
「あ?」
「い、いえ、嘘ですごめんなさい」
ロクに睨みつけられて委縮しながら謝る青年。しかし、どうしてそこまでして王都に向かいたくないのだろうか?
「何で王都に行きたくないの?」
「僕は別に、行きたくないとは言ってません」
「……あ、そう」
ルルアの額に怒りマークが浮かび上がった。ルルアが無言でロクの腕を引いて歩き出すと、青年が「どうしたんですか?」みたいな顔をしながら追いかけて来た。
「ちちち、ちょっと待ってくださいよ! えーと……あ、そうだ! 途中の道が崖崩れで通れないって話してました!」
「通れるから大丈夫」
「道がなくなってるんですよ!?」
「それでも、通れるよ」
「何でですか?」
「魔法使いだから」
「ぼ、僕は人間です!」
「知らん」
「やっぱり悪魔ですね」
何とか引き留めようとしてくる青年には目もくれずに、ルルアとロクは宿に戻って荷物をまとめた。それでも青年は、うだうだ言いながらついて来る。町の出入り口を通る時には、ロクの腰にしがみついて引きずられていた。
「あー、うっとおしい奴だな!」
「放しませんよ! 僕は絶対に放しませんよ!」
「…………何、これ」
本当に「何これ」である。そこまでして王都に向かって欲しくない理由は何だろう? もしかして、王都で何か大変な出来事でも起きているのだろうか?
ルルアたちの目的は、魔女狩りと魔法使いについて調べることだが、王都で何が起きているのかも気になるところだ。一刻も早く王都に辿り着かなくては。
「これ以上、私たちの邪魔するなら……あの木に縛り付けて行くから」
「そそそ、そんなぁ……酷いですよぉ……」
「酷い? 誰が? そもそも、邪魔してるのは誰?」
「……ぼ、僕でした。すみません」
青年が観念したようにロクから離れた。
「私たちは王都に向かう。君がどうするかは君の自由」
「じゃあな」
「…………」
ルルアとロクは、王都に向かうため次の町へと出発した。
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森の奥の泉の前に、一人の人物が立っていた。透き通ったラベンダー色の水面に映る自分の顔を見ながら、その人物は呟く。
「なぜ、瘴気が消えているんだ? 一体誰が瘴気を消した……」
その人物の手の甲には、舌を出した黒い魔法使いの帽子が描かれていた。この人物が、泉に動物たちを沈めたのだろうか? もしそうだとして、一体何がしたかったのだろうか? その目的は――
瘴気の泉~Fin.~
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