第21話 瘴気の泉③
町の西側にある森の入り口。
そこには高い壁が作られており、森へと抜ける道は扉で閉ざされていた。おそらく、瘴気を防ぐために作られたのだろうが、よほどの高さでもない限り、壁で防ぐことは不可能だろう。
「じゃあ、行くよ」
「あぁ」
「はい!」
3人目の声がして盛大にため息をつくルルア。
「……あのさ、ついて来ないでって言ってるよね?」
「ルルアさんの魔法が見れるんですよ! 僕はついて行きますよ! お邪魔はしませんのでご安心を!」
「絶対に邪魔になるから」
「なりません!」
「勝手にさせとけばいいだろ。瘴気吸ってどうなっても自業自得だ」
「えー……」
絶対に面倒なことになる予感しかしないルルアだったが、ここでグダグダしていても時間の無駄なので、とりあえず泉に向かうことにした。門番に扉を開けてもらい、町の外が見えると――扉の向こう側は既に瘴気に包まれていた。ルルアは瘴気の中に入ると、急いで扉を閉めさせた。
「さて、まずはこの辺りから……」
ルルアが何か言いかけた時、背後でドサッと何かが倒れる音がして振り向くと、青年が瘴気で意識を失って倒れていた。だから、言わんこっちゃない――
扉を叩いて開けてもらい、急いで青年を運び込んで魔法で瘴気を浄化させると、近くにあった木に青年を縄で縛った。そうして門番に青年を見張るようお願いし、気を取り直して扉の外に出た。本当に時間の無駄だ、まったく。
ルルアは杖を空に向かって掲げると、目を閉じて魔力を杖の先に集中させた。すると、上空にいくつもの魔法陣が描かれていき、ひと際眩い光を放った次の瞬間、空から無数の花が舞い降りてきた。瘴気を浄化した花々が砕け散るたびにキラキラと儚げな光が舞う。
さっきまで瘴気で淀んでいたこの場所が、とても美しい幻想的な光景へと変わった――
ルルアが魔法で作り出す花には、癒し効果がある。瘴気を浄化させるにはとても相性の良い魔法だ。でも、きっとこれまでに対処した魔法使いも、これくらいのことはしていただろう。おそらく、最大の問題は泉にある。
「瘴気の元凶は何だろうね。私に対処できることならいいんだけど」
「ルルアなら大丈夫だろ」
「うーん……でもさ、瘴気なんて見るの初めてなんだよね、私」
「まぁな」
そうなのだ。ルルアの記憶の中では、今まで瘴気などというものに出会ったことがない。そのため、正しい対処法などは知らないのだ。
「瘴気が発生するってことは、何かしらの原因があるはずだ。とりあえず、泉まで行けばわかんだろ」
「そうだね」
この辺りは瘴気を浄化することはできたが、この先にはまだ瘴気が漂っている。時間が経てばまた広がってくるので、のんびりとしている時間はない。ルルアとロクは、瘴気を浄化しながら泉がある森の奥へと進んで行った。
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「……はっ! え、僕はいったい……って、ななな、何で僕は縛られてるんですか!?」
ルルアとロクが扉の向こうに行ってからしばらく経った頃、ようやく目を覚ました青年は、身動きが出来なくなっていることに気がつき、ギャーギャー騒ぎ始めた。見張りを頼まれた門番たちは、扉の前に立ちながらただ見ている。
青年の前には立て看板が立てられてあった。そこに書かれていた内容は――
縄をほどいたり、近づいたりしないように。ただ静かに見るだけなら、見学はご自由にどうぞ。
さすがに飲まず食わずでは可哀想なので、門番にはお昼ご飯は食べさせて欲しいとお願いしてある。ただし、縄は絶対に外さないようにと伝えて。
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何回目かの浄化を終えて、ようやくルルアたちは泉に辿り着いた。本来であれば美しい色だったであろう泉は、禍々しさが漂う暗黒の色へと変わり果て、ブクブクと泡が湧き上がっていた。
「この中に何かいるな」
「この水を浄化してみる?」
「それじゃ駄目だ」
「じゃあ、どうするの?」
「引きずり出すしかないだろ」
ルルアが泉のふちに手をついて覗いてみたが、当然のことながら何も見えなかった。さすがにこの中に入るのは死んでも嫌だ。さて、どうやって引きずり出そうか?
しばらくの間悩んだ末、ルルアは杖から魔法で蔦のようなものを伸ばして泉の中に入れてみた。
「……釣りじゃないんだぞ?」
「それくらい知ってるよ。餌とかつけてなかったでしょ、これは釣りじゃないよ」
「……どう見ても釣りだが?」
「蔦を巻き付けて引き上げるんだよ。釣りじゃないでしょ」
「…………そうか」
どう見ても釣りにしか見えないが、ルルアが釣りじゃないと言い張るので、そういうことにしておこう。
こうして、泉に沈んでいる何かに蔦が巻き付くのを待つこと数十分。ようやく蔦が何かに巻き付いて、杖が泉の中から引っ張られた。ルルアの力だけでは逆に引きずり込まれそうになったため、慌ててロクも杖を掴んだ。
「何なんだ? この力は……」
「どうしよう、やっぱりアイツも連れて来た方が良かったかな?」
「大して変わらねぇだろ」
2人の力を合わせても、なかなか引きずり出すことができず、一進一退を繰り返しながらどれだけの時間が経ったのだろうか? そろそろ限界を迎えそうな2人が渾身の力を込めた時、それは泉の中から引きずり出された。
「……酷い」
「まったくだ」
泉の中から引きずり出された、瘴気を放つ元凶となっていたものは――大きな石を括りつけられて泉に沈められた、動物だった。しかも、13体も沈んでいた。
いったい、誰が何の目的でこんなことをしたのだろうか?
あまりにもの憤りに体を震わせながら、ルルアは動物たちを癒しの花で浄化していく。そして、空間収納からスコップを取り出すと、2人で泉の傍に動物たちを埋めてお墓を作った。お墓の周りには、ルルアが枯れない花を咲かせた。時間はかかるだろうが、これで動物たちの怒りや無念さが鎮まることを願いたい。
「この泉、こんなにキレイな色だったんだね」
「ルルアの色だな(癒しの色だ)」
「私の色?」
泉の水は、透き通るラベンダー色だった。
確かに、ルルアが羽織っているローブの色はラベンダー色だが……だから、ロクはルルア色だと言ったのか?
ちなみに、ラベンダー色はルルアの好きな色でもある。
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「なるほど、そういう事でしたか。しかし、一体誰がそんな事を……」
町に戻って依頼主である町長に今回の件を説明したが、犯人に心当たりはなさそうだった。また同じようなことが起こらないよう、泉の周辺も定期的に見回りをした方が良いだろう。それに、動物たちの魂を癒していくための祈りも必要だ。
とりあえず、ルルアたちの仕事は無事に終わったので、明日にはこの町を出発することにした。町長としては、この町に留まって欲しそうだったが。
ちなみに、魔女狩りや魔法使いのことなどを聞いてみたが、詳しく知る人はこの町にはいないようだった。
「ところで、あの木に縛り付けてある青年はどうしますか?」
「……あ、忘れてた」
すっかり忘れ去られていた青年は、この後ルルアによって縄をほどかれて、ルルアやロクと一緒に宿に戻った。散々文句を言いながらついて来る青年は、ルルアの言葉でその口を閉じた。
「邪魔しないって言ったよね? 誰かな、秒で倒れたのは」
「……ぼ、僕ですね。ごめんなさい」
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最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ゆるりと楽しんでもらえてたら嬉しいです。次回もお楽しみに!




