第20話 瘴気の泉②
図書館にやって来たルルアとロクは、古書が集められているという地下の部屋にやって来ていた。ひんやりとしていて、物音もしない静かな空間となっていて、1人では来たくないなというのがルルアの本音だ。
「魔法使いに関する資料は……あ、ここだ」
部屋の入り口から最も離れた場所にある本棚の、一番下の段に目当ての本が陳列されていた。なぜ、魔法使いに関する本は、こんな見つかりにくい場所にしまわれてしまうのか。世の中での魔法使いに対する扱いは、こういうものなのか?
「よいしょ……ふぅ、なかなかに分厚い本だね」
「俺はこっち読むから、分厚いのは任せた」
「……ずるい」
「早いもん勝ちだ」
勝ち誇ったように薄い方の本を手に取るロク。ルルアは頬を膨らませながらも、気合いを入れて分厚い本を開いた。すると、埃やカビが混ざり合った独特のにおいが漂い、思わず鼻をつまんでしまった。
「……酷いにおいだよ、ロク」
「かなり昔から開かれてなさそうだな」
ロクは鼻がいいぶん、ルルアよりもキツそうだった。このままこの本を読んでも、体に害はないのだろうか? 何となく危険な香りがするため、ルルアは本を閉じて受付に持って行くことにした。
受付で事情を説明すると、口元を覆う布とはたきを手渡され、ルルアは分厚い本とともに外に出された。
「な……何で私がこんなことを……」
口元に布を巻き、1ページずつ丁寧にはたきがけをするルルア。かなり古い本なので、少しでも力を入れると破れてしまいそうだ。今日は、きっとこのはたきがけで1日が終わるな、そう思いながらひたすら優しくはたきがけをしていくルルアだった。
日が暮れて、夕飯を食べて宿に戻ると、ルルアたちの部屋の前には涙を流しながら座っている青年がいた。
「遅いですよぉ、ルルアさ~ん。見てください、花が……花がぁ……枯れてしまいましたぁ~」
「まぁ、そうだろうね」
「そこどけ。中に入れないだろうが」
******
翌日も、ルルアとロクは図書館に来ていた。青年は、リベンジするからもう一度花をくれと言うので、ルルアがまた魔法の花を渡してきた。今日も1日、宿で花とにらめっこしているだろう。
昨日ルルアは、本のはたきがけをしながら読もうとしたけれど、それでは何日もかかってしまいそうだったので、諦めてはたきがけに集中した。そんなわけで、今日は改めてあの分厚い本を読むため、気合いを入れる。すると、ロクが昨日読んでいた本を手にしながらルルアの隣に座ったので、ルルアは怪訝そうな顔でロクを見た。
「……え、その本って、昨日ロクが読んでたよね?」
「半分くらいな」
「……噓でしょ」
「本当だ」
ロクが手にしているのは、どんなにゆっくり読んでも半日もかからなそうな本である。それを、昨日1日かけて読んだのが、たった半分だと? 絶対にサボってるだろう……まぁでも、ロクが本を読むのが苦手なのは今に始まったことではないので、諦めた方がルルアの精神衛生上健全かもしれない。気を取り直して分厚い本に目を向けた。
昨日はたきがけをしたとはいえ、かなり古い本のようなので、破れているページも多く、文字もかすれている箇所が多く見受けられた。それは致し方がないことだ。だが、ルルアが許せなかったのは――
「…………誰よ、こんなに落書きしたのは」
子どもなのか大人なのかわからないが、落書きされているページが多かったことに腹が立った。どこで描かれた落書きだ? この図書館でだとしたら、ここの管理能力が問われる。
丸1日かけて読めるところを拾っていったが――ほとんど理解できなかった。昨日、埃まみれになってこの本をキレイにした苦労が、水の泡だ。
「ロク、何かわかった?」
「ほとんど作られた話だな」
「……えー」
他に、魔女狩りや魔法使いに関する本がないか隅々まで探してみたが、これだけたくさんの古書が集まっているにもかかわらず、残念ながら目当ての本は見つけることができなかった。
古書以外にも探してみたが、当然のことながら、世の中に出回っている物語以外の本は見つからなかった。
図書館の閉館時間となり、ルルアはがっくりと肩を落としながら外に出た。ロクは「まぁ、こんなもんだろ」と、特にがっかりした様子もなくいつも通りだ。図書館で調べられることももうないので、明日にはこの町を出発することにし、夕食ついでに買い出しもすることにした。
こうして、次の町までに必要なものを購入していると、突然、警備隊に取り囲まれてしまったルルアとロク。訳が分からずに、ただ茫然と立ち尽くしていた。すると、警備隊の中でも偉そうな人物が2人の前に歩み寄ってきた。
「探しましたよ、君たち」
「……え、ロク……何かした?」
「してない」
この町ではまだ花は売ってないし、これといって咎められるようなことをした覚えはない。いったい、ルルアたちが何をしたというのだろうか? 逃げた方がいいのか? でも、何もしていないのに逃げるというのは、やはり間違っているだろう。さて、どうしたものか――
「えーと……私たち、別に何もしてないけど?」
「は?」
「……え?」
どうも反応がおかしい。何なんだ?
「あぁ、これはすみません。別に君たちを捕まえに来たわけではないのですよ。君たちに依頼をしたい案件がありまして……」
「えーと……依頼?」
それなら、普通に声をかければいいだろうが。こんな囲まれ方をしたら、誰だって警戒するに決まっている。それに、周囲から見たら、ルルアたちはまるで犯罪者のようではないか。
「一緒に、警備隊の事務所まで来ていただけますか? あ、お荷物はこちらでお持ちしますので」
「荷物なら大丈夫だよ」
ルルアが空間収納に購入した荷物を入れていると、初めて目にするのか、皆が興味深そうに見ていた。
荷物をしまい終えると、警備隊に引き連れられて事務所へと向かったが――町の人々に注目されるの、どうにか出来なかったのだろうか?
警備隊の事務所には町長がいて、彼が依頼人だった。依頼された内容は、近くの森の奥にある泉で数年前から瘴気が発生し始め、それが拡大して町に迫ってきているので、どうにかして欲しいというものだった。
今までに対処はしてこなかったのか尋ねると、対処方法がわからなかったらしい。王都にも依頼を出して騎士団が派遣されたものの、相手は瘴気なのでどうすることもできず。そのうちに、どんどん瘴気は広がり、町の手前まで広がってきているのだと言う。
「山賊の拠点を隠していた結界を解除できた魔法使いならば、瘴気も何とか出来るのではないかと思いまして」
「うーん……瘴気なんて見たこともないし、対処できるかはわからないよ」
「とりあえず、明日にでも見に行ってみるか」
「まぁ、そうだね」
「本当ですか! 是非ともお願いします!」
急ぐ旅でもないし、町が瘴気に飲み込まれても大変なので、ルルアたちは依頼を受けることに決めた。
******
ルルアたちが依頼を受けていた頃、宿で必死に花を枯らさないよう奮闘していた青年は、またしても枯れてしまった花を前に、ルルアたちの部屋の前で膝を抱えて涙を流しながら、ひたすらルルアたちの帰りを待っていた。
*
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回もお楽しみに!




