第19話 瘴気の泉①
山賊を拘束したルルアたちは、その日の夕方には麓の町に入ることができたので、町の入り口に立っていた警備隊の人に山賊のことを伝えて宿を探しに行こうとした。ところが、ルルアたちも同行するよう言われてしまった。
「……えー……今来たばかりなのに」
「今まで何回も捜索したにもかかわらず、拠点を見つけることができなかったんだ。それを見つけたんだろ? 詳しく説明していただきたい」
「だから、それは……この辺りに……」
「現場でぜひ」
「…………えー」
ロクが描いた図をもとにルルアが至極丁寧に説明したが、それでは納得できないらしい。現場に行っても同じ説明しか出来ないのだが――ルルアの説明むなしく、警備隊に引き連れられて来た道を戻るルルアとロクだった。もちろん、部外者である青年も同行した。
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「やっと開放された……」
「飯食ってから宿探すか?」
「そうだね、お腹空いたよ」
山賊たちを引き連れて町に戻ってきたのは、もうすっかり日が沈んで真っ暗になってからだ。ロクはそうでもなさそうだったが、ルルアの疲弊はかなりのものだった。ただ、想定外に報酬をもらうことができたので、ルルアの疲弊もそれで半減はしたが。
青年に勧められた店で夕飯をすませると、運よく店の近くに宿屋があったので、今夜はそこに泊まることにした。
ちなみに、青年がおすすめの店を知っていたのは、以前にこの町を訪れたことがあるからだそうだ。
「え、何で僕だけ別の部屋なんですか?」
「だって、君は他人でしょ」
「ロクさんだって他人ですよね!?」
「何言ってるの? ロクは私の相棒だよ」
「ぼぼぼ、僕はルルアさんの弟子です!」
「いや、断ったよね?」
「僕は諦めてませんよ!……も、もしかして……支払いも別々?」
「当然でしょ」
項垂れる青年をよそに、ルルアとロクは自分たちの部屋へと向かった。
それにしてもあの青年、魔法使いになることを諦めていなかったとは――この先もずーっとついて来られるのは、さすがに困る気がすると頭を悩ませるルルアだった。
「1回だけ修行つけてやったらどうだ? 無理だってわかりゃ、さすがに諦めんだろ」
「えー、だって私、修行の仕方なんてわかんないよ?」
「魔力を練らせてみろ。それか……ルルアの魔力が見えたら修行してやるってのもいいかもな」
「はぁ……面倒だなぁ」
翌朝――
「…………んーっ」
「ようやく起きたか。朝飯食いに行くぞ」
今朝は珍しくロクの自慢の爪で布団をはがされなかった。昨日、疲労困憊だったルルアを労わるロクの優しさである。ロクは、目つきは悪いがとても優しいのだ。
目をこすりながら起き上がったルルアは、大きく伸びをするとカーテンを開けて眩しそうに目を細めた。青空が広がる空には、眩しい太陽が顔を出している。今日はとても天気が良さそうだ。
「図書館があるって言ってたよね。朝ごはん食べたら行ってみようか」
「そうだな」
ルルアの支度が整い、朝食を食べに行こうと部屋のドアを開けたが、すぐにドアを閉めたルルアにロクが怪訝そうな顔をする。
「何だよ、行かないのか?」
「うーん……」
すると、ドアの向こうからドンドンドンドンと激しく叩く音が聞こえてきた。
「ななな、何で閉めちゃうんですか!? 僕ですよ!」
ドアの向こうにいるのは青年だ。いったい、いつからそこで待っていたんだ? まさか、一晩中じゃないだろうな。
このまま窓から出るという方法もあるが、永遠にドアを叩かれていたら宿にも迷惑だろう。それに、しびれを切らした青年が、勝手に部屋に入って来ることもなきにしもあらずだ。ここは、大人しくドアを開けるのが正解だろう。
「……ドア叩くのやめて」
「あ、はい、すみません」
ルルアたちが部屋から出て行くと、当たり前のように青年は後ろからついてきた。まぁでも、美味しいパン屋に案内してくれたので、そこは感謝する。
それにしても青年はこの町に詳しいが、前に訪れたことがある、本当にそれだけなのだろうか?
「ところでお2人は、何で旅をしているんですか?」
買ったパンを広場に設置されたテーブルで食べていると、徐に青年が尋ねてきた。知らないでついて来てたのか?
「君には関係ないよね?」
「酷い!」
「……まぁ、別に教えてもいいか」
「教えなくてもいいがな」
「教えてください!」
「魔女狩りや、魔法使いについて調べてるんだよ」
「……なぜです?」
「知りたいから」
「でも……魔女狩りって物語の中の話ですし、調べてどうするんです? それに、魔法使いのことって……ルルアさんもロクさんも魔法使いじゃないですか」
やはり人間の中では、魔女狩りはもう物語の中の話でしかないのだと、青年の言葉に胸のモヤモヤが増すルルアだった。人間の後悔など、時間が経てば風化してしまうものなのだな――
朝食を食べ終えると、ルルアは青年に向かって手を差し出した。それを見て首をかしげる青年。
ルルアは手のひらを上にしたまま、魔力を手のひらに集めると、花の形を作った。今朝、ロクが言っていたように、青年に魔力が見えるか試してみることにしたのだ。
「えーと……何ですか? 手握ってもいいんですか?」
「違う。何が見える?」
「何がって……ルルアさんの手じゃないですか」
「他には?」
「他に?」
青年は、くっつきそうになるくらい、ルルアの手のひらに顔を近づけると、眼鏡を上下させたりしながら見ていた。それ、逆に見えなくないか? という突っ込みはしないでおく。すると、青年が何かに気がついたように、ハッとしながら顔を離した。もしかして、魔力が見えたのだろうか?
「ふふふ、僕は騙されませんよ」
「え、騙す?」
「そうですよ! アレですね、正解は……空気です!」
「……え?」
「こいつ、バカだろ」
「ぼぼぼ、僕に対して失礼ですよ! 何ですか、バカって!」
「まぁ、見えるとは思ってなかったけど」
「見えるわけないですよね、空気なんて!」
「そうじゃなくて」
「じゃあ、何なんですか!?」
青年は、本気でルルアの問いの答えは空気だと思っているらしい。謎かけか何かだと思っているのだろうか。ルルアの手のひらにあったのは魔力だったと言っても、このままでは納得はしなさそうだ。ルルアは少し考えると、魔法で1本の花を作り出して青年に手渡した。
「ルルアさんに花を頂けるなんて! ぼ、僕はなんて幸せ者なんだろう!」
「いや、そういうんじゃないから」
「肌身離さず持ち続けますね!」
「……返して」
「嫌ですよ」
「……その花、魔力を込めないと枯れちゃうから。今日1日、枯らさなかったら、魔法を教えてあげる」
「ほほほ、本当ですか!? 約束ですよ! 今日1日ですね! 全力で頑張りますよ!」
青年は花を空に掲げながら、腰に手を当てて意気込んでいた。
「それで、どうやって魔力を込めるんですか?」
「それは自分で考えなよ」
「え~!?」
「それじゃ、頑張って」
ギャーギャー言っている青年をよそに、ルルアとロクは図書館を探しに町の中へと消えていった。
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