第15話 山岳地帯②
「ロク……当たり前のようについて来るよ、あの人」
「相手にしなけりゃ、そのうち諦めんだろ」
あれからというもの、ルルアたちが相手にしていないにも関わらず、ニコニコと笑顔でついて来る青年。名前を聞いたら絶対に離れなくなりそうなので、まだ名前も知らない。
ただついて来るだけならまだいいが、青年が自分の分の食料を調達するわけでもなく、当たり前のようにルルアたちと一緒に食事をするものだから、食料の減りが加速していて本当に迷惑している。しかもこの青年、遠慮というものを知らないようでよく食べるのだ。
「あのさ、君の分の食料はもともと持ち合わせていないんだよ。このままだと、この山岳地帯を越える前に食料がなくなっちゃうから、自分の分は自分で調達してくれないかな」
「ぼ、僕がですか!? どどど、どうやって?」
「どうやってって……」
「自分で考えろ」
湖の近くで野営の準備を整えると、ロクは魚を捕まえに湖に向かい、ルルアは木の実など食べられそうなものを探しに森の中を散策しに行った。残された青年は、オロオロしながら二手に分かれる2人の姿を交互に見ていたが、見えなくなったルルアを慌てて追いかけた。
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「ルルアさん達って、普段はあんまり魔法使わないですよね。なぜです?」
「……じゃあ、聞くけどさ。常に魔法を使う場合、いったい何に魔法を使うの?」
「う~ん……そう言われましても、僕は魔法使いではないのでわかりませんね」
この青年の物言いは、たまにルルアの神経を逆撫でする。
「だったら、君たち人間はさ、使わなくていい道具を無駄に使ったり、使わなくていい体力を無駄に使ったりしているのかな?」
「嫌だなぁ、そんなわけないじゃないですか」
「……魔法使いは、必要な時にしか魔法は使わないよ」
何を言ってもこの青年には伝わらない気がするので、自分の精神を守るため、ルルアは会話を終えることにした。その時、ルルアとロクが何かを感じて足を止めた。当然のことながら、何も察知していない青年は足を止めるはずもなく、ロクに首根っこを掴まれて後ろに下げられたわけだが。
「ななな、何するんですかロクさん!?」
「うるさい、静かにしろ」
「……うわぁ、たくさんいるね」
ルルアとロクが岩陰に身を潜めながら前方を覗いてみると、そこには小竜の群れがいた。その数、ざっと20~30体くらいだろうか?
「……通らせてくれるかなぁ」
「どうだろうな」
「こんなのが棲みついてて、皆どうやって通ってたんだろうね?」
「閉鎖中に棲みついたんだろうよ」
「なるほど」
さて、どうしたものか。
群れを倒す場合、散り散りになる前に囲って一気に攻撃をしかけるか、狭い場所に誘い込みながら少数ずつ倒していくか、大きく分けるとこの2通りになるだろう。ここだと、誘い込めそうな場所もないので、必然的に前者で倒すことになる。
まぁ、小竜が攻撃してこなければそのまま通り抜けることができるが。
「とりあえず、静かに通りすぎるぞ」
「うん」
「えー!? と、通りすぎるって」
「静かにしてね。声出したら攻撃されるよ」
3人は、小竜を刺激しないように、前だけ向いて静かに歩いた。のだが――
「ったく、何やってんだよ!……ルルア、俺が結界を張ったら上空から一気に殲滅しろ」
「うん、わかった」
「わぁぁぁぁ~! ななな、何でこんな目に!」
もう少しで通り抜けられるというところで青年が派手に転び、大声を出したばかりか蹴り上げた大きめの石が小竜目がけて飛んでいったのだ。
青年の大声に小竜たちが一気にルルアたちに顔を向け、青年が蹴り飛ばした石は小竜に命中し、結果小竜に追いかけられる羽目に。
「君はここで隠れてて」
「い、嫌ですよ! 離れないでくださいよ!」
「倒さないとこっちがヤバいから。いい? 君はここから1歩も動かないでね、絶対に」
「はっ! も、もしかしてルルアさんが魔法で!? そそそ、それは是非とも近くで」
「「いいから動くな!」」
これくらいの魔物であれば、倒すのはそんなに困難ではない。ただし、ルルアとロクだけであればの話だ。だが今は、不本意ながらもこの厄介な青年が同行している。大人しくしていてくれればいいのだが――
「行くぞ」
「うん」
ロクは移動しながら黒猫の姿に変わると、小竜たちの群れを囲むように、地面に魔法陣を描いていった。ロクが言うには、人間の姿よりも猫の姿の方が早く動けるらしい。
ルルアは、ロクが地面に魔法陣を描いている間に、上空に浮上して杖を掲げ、攻撃魔法の発動体勢を整えて待つ。ロクが結界を張ったら攻撃開始だ。
そんな2人を木陰から見ていた青年は、というと。
「もっと近くで見たい! でもな、動くなって言われてるし……あ、もしも僕がルルアさんの魔法攻撃を受けたら、もしかしたら……よし!」
何かを思いついた青年は、木陰から飛び出すと、小竜の群れの方に向かって走り出した。そしてその直後、ロクの結界魔法が発動し、青年は結界の内側に閉じ込められてしまった。
青年が結界の中にいることを知らないルルアは、結界魔法が発動したのを確認すると、一気に魔力を高めて杖から放った。上空には巨大な魔法陣が現れ、地上に向けて一気に攻撃魔法が放たれる――はずだった。
「え、何で?」
「…………?」
攻撃魔法が放たれなかった上空の魔法陣を見上げて首をかしげるロク。ルルアの方に視線を向けると、ルルアが困惑した顔で見下ろしているのが見えた。そちらの方向に視線を動かして顔をしかめたロク。
「何やってんだよアイツ」
なんと、小竜の傍でルルアを見上げながら、何で攻撃しないんだとギャーギャーわめいている青年がいたのだ。小竜たちが一斉に青年に目を向けたのは言うまでもない。
小竜たちに睨みつけられていることに気がついた青年は、青ざめて固まった。そして、結界の中で青年と小竜たちとの追いかけっこが始まったのである。
こうして、逃げ回る青年には当てないように、動き回る小竜たちを何とか討伐したルルア。討伐後、青年がルルアとロクにこっぴどく説教されたのは言うまでもない。
ちなみに、青年が結界内に入って行ったのは、ルルアの魔法攻撃を受ければ自分にルルアの魔力が宿るかもしれないと思ったから――だそうだ。
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