第13話 恋愛を成就させる魔法の花④
ルルアとロクは、魔力を消しながら町の北側にある時計塔に向かっていた。そこに、媚薬を撒き散らした張本人である悪魔がいる。悪魔が顕現しているということは、召喚した人物も近くにいるはずだが――稀に、召喚に失敗し悪魔が野放しになってしまっている場合もある。その場合、召喚者はもうこの世にはいないことがほとんどだ。
「アレだね」
「近くに召喚者はいなさそうだな」
「……時計台って、一般人が普通に出入りできる場所なのかな?」
「さぁな」
「うーん……迷い込んじゃった的な感じでダメかな?」
「ダメだろ。まぁでも、この距離からじゃ何もできないからな。迷い込んでみるか」
「その前にロク……」
「どうした?」
「……魔力消すの限界」
ロクは平気かもしれないが、ルルアが魔力を消すのは息を止めるようなものだから、そんなに長くは消していられない。そろそろ息継ぎが必要だ……どうしよう。
すると、ロクがルルアを抱えて時計塔から離れた。
「ほら、ここで整えろ。居場所はわかったから、次はすぐに塔に入るぞ」
「うん、ごめん」
「今夜から修行だな」
「えー……」
ルルアがもう一度魔力を消すと、ロクはルルアを抱えて時計塔に戻り、2人は人間を装いながら時計塔の階段を上がって行った。
******
「ん? 人間?」
時計塔の上から町を見下ろしていた悪魔が、時計塔に入って来た2人の気配を感知した。まだ媚薬に浸っていないと知ると、人間の姿に変えてここで待つことにした。媚薬と引き換えに命を吸い取るために。
悪魔がニヤリと笑みを浮かべた時、入り口のドアが開いた。
「……うわぁ……いかにもな人がいるよ、ロク」
「そう言うなって、可哀想だろ」
「…………」
想定外の言葉に、若干戸惑い気味の悪魔だったが、気を取り直して2人に声をかけた。
「何をしに来たんだね?」
「あなたでしょ? 媚薬なんてものをバラまいてるの」
「君たちも、その媚薬とやらが欲しいんじゃないのかい?」
「まぁ、貰ってやってもいいぞ」
「……代償として、少々命を頂くよ」
「取れるもんならな」
「は?」
ロクの言葉に疑問符を浮かべながら、人間の姿のまま悪魔は媚薬が入った小瓶を手渡した。その瞬間、ルルアが杖を手に取り悪魔に向かって魔法を放つ。が、さすがは悪魔だ。ルルアが魔法を放つよりも先に反応し、攻撃を避けた。
「なるほど、魔法使いか。だが、こっちは……は?」
まだ魔力を消しているロクの命を吸い取ろうとして、悪魔は手をかざしたが――その手にロクの命が吸い取られることはなかった。
「な、何故だ!?」
「さぁな、何でだろうな」
ロクは悪魔のそばまで瞬時に移動すると、羽交い絞めにしながら火炎魔法を使った。しかし、その手から逃れた悪魔はまだまだ無傷の状態だ。
「ロク、近くの雪原まで連れて行ける?」
「やってみる」
このままここで戦っていれば、時計塔だけではなく町にも被害が及んでしまう。町を出れば雪原があるから、そこでなら町への被害も少ないだろう。
ロクが高速移動しながら悪魔を捕まえようとしている隙を狙って、ルルアは拘束魔法を放った。何度目かで悪魔を捕えることができ、急いで雪原へと移動する。
雪原に出るとすぐに、ロクが悪魔を閉じ込める結界を張った。悪魔がルルアの拘束を解く直前に、何とか結界が間に合ったが、相手は悪魔だし油断はできない。
「急げよ、ルルア」
「うん、わかってる」
ルルアが空に向けて杖を構えると、ありったけの魔力を込めて魔法を放った。
空に描かれた魔法陣から伸びた一直線の白金色の柱が、悪魔の心臓を打ち抜くと、無数の白金色の花々がキラキラと飛び散って、悪魔の姿は消えていった。
相変わらず、美しい魔法だ――ロクは眩しそうに目を細めながら、消えていく花々を眺めていた。
******
ルルアとロクは、町の中心部にある建物の屋根の上に立っていた。悪魔を消し去ったとはいえ、町の人々の媚薬の効果は持続している。いつかは媚薬の効果が消えるだろうが、さすがにこのままでは居心地も悪い。
ルルアが空に向かって杖を掲げて魔法を放つと、町全体を覆うような巨大な魔法陣が描かれた。そこから白金色の花びらが降り注ぎ、町の空気を浄化していった。
ここから町を見渡してみると、あちこちにルルアの花が咲いているのが見えた。この町で花を買ってくれた人々が、飾ったり植えたりしてくれている花たちだ。この町に根付いて、町中を癒してくれるといいな――ルルアはそう願いながら屋根から降りた。
「ふぅ、お腹空いた」
「昼飯食ってから本屋探すか」
「うん」
2人はいつもの食堂に向かい、空腹を満たしてから改めて広場へと向かった。広場につくと、口元にタオルを巻いたままの露店のおじさんと目が合った。
「それ、もう外して大丈夫だよ」
「え、そうなのか?」
「うん」
おじさんがルルアに疑惑の目を向けながらタオルを外し、目を閉じながらゆっくりと息を吸う。すると、目を見開いて驚いた顔をしながらルルアの方を向いた。
「ホントだな! 何だったんだアレは」
「皆、媚薬に惑わされてたんだよ。良かったね、おじさんは惑わされなくて」
「へぇ~、媚薬ねぇ」
「ダメだよ?」
「……そんなもん使わないよ」
ちょっと使ってみたそうな顔をしているおじさんに、ルルアがジトーッとした視線を送っていると、視線をそらしながら口笛を吹いていた。
「それよりさ、この町って本屋さんある? 古い本とか置いてるとこ」
「本屋ならあるぞ。古い本だったら……たまに売りに来るやつはいるがな。雪がなくならねぇと来ないと思うぞ」
おじさんに本屋の場所を教えてもらい、2人は本屋に向かったが、どれも書き換えられた物語ばかりで、何の収穫もなかった。やはり、王都に着くまでは大した情報は手に入らないのかもしれない。あとは、年配者に話を聞いて回るくらいしか、この町でできそうなことはないようだ。
そうして、路銀を稼ぎながら年配者の話を聞いて回っているうちに、雪解けの季節がやってきた。まもなく登山道が開放されるという話を聞き、ルルアとロクは旅立ちの準備を進めた。路銀は十二分に貯まったので、山越えする間の食料や防寒具なども買い揃えて、万端な体勢を整える。
「さぁ、出発しようか」
「そうだな」
お世話になった家の鍵を大家さんに返し、ルルアとロクは王都へと向かって歩き出した。
恋愛を成就させる魔法の花~Fin.~
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