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ルシウスの様子がおかしいんですけど!



「それ」


 目元に氷袋を当て続ける私に、ルシウスがドゥスールに取ってきてもらった小瓶を指さす。


「俺へのプレゼントなんだろう?」

「あ、あぁ。そうだったけど」


――なぜ彼が知っているのだろう。


「じゃあ俺が貰っても問題ないな」


 そう言って、ルシウスは小瓶を手に取る。


「これは、一体何なんだ?」

「最近疲れているみたいだったから、疲れに効く薬だって言われて」

「そうか。礼を言う」


 ルシウスは小瓶の蓋を開けて、口に当てる。


「あ、それは止めた方が……あぁ……」


 なぜかドゥスールが表情を歪めた後、あちゃーと顔に手を当てて、ルシウスを見ている。


――どうしてそんな顔をするんだろう。あぁ、ドゥスールが欲しかったのかな。


 私の見当違いな思い込みは、数秒後にルシウスの様子が変わることによって判明する。


「おい……。葵……っ。これ、一体なん…だ?」


 ルシウスは何故か頬を紅潮させ、私を見る目は潤んでいる。走ってもいないのに息が乱れているのは違和感を感じる。もしかして私のあげた薬のせいだろうか。私は彼により詳しく説明し、様子を伺う。


「えっと、『エリクシール・ダムール』って言う、滋養強壮の効果がある飲み薬っておすすめされたんだけど……。大丈夫?」

「ッ…! き、さま……ころ、す!」


 様子のおかしいルシウスが急に私の服を掴む。


――え? え? 何? 何?


 私が混乱しているとドゥスールが私とルシウスを引き離す。引き離されたルシウスは肩で息をして此方を睨んでいる。


「葵さん、そのタオル貸してください」


 ドゥスールに言われ、慌てて私は先ほどまで自分の顔を覆っていたタオルをそのまま渡す。渡した後に、涙や鼻水、涎がついていたことを思い出し、別のタオルを取って渡そうとするが、その前に彼はルシウスの顔面に最初に渡したタオルを押し当てた。


「誰も入らないカギを掛けられる部屋はありますか?」

「えっと、仮眠室なら……」

「案内してください」


 私はドゥスールの指示に従い、控室を案内する。大の男が引きずられている姿に、他の客もスタッフも此方を見ている。そんな視線も気にせず、私達は仮眠室にルシウスを運ぶ。


 ベッドは二つあるが、一つはシーツを付けていない。私は普段使っているベッドから私物を取り除いて床に置く。ドゥスールは投げるようにルシウスをベッドに倒す。その拍子に今まで顔を覆っていたタオルが外れ、真っ赤な顔をして、獣のような形相をしたルシウスが此方を睨んで荒く呼吸しているのが見えた。


「ルシウスはどうしたんですか?!」

「……あの薬、たしかに滋養強壮の効果があるのですが……。それよりも媚薬ってことで有名なんです」


――び、やく……?


 聞きなれない言葉にポカンとするが、ルシウスの様子と、ドゥスールが言った言葉によって私は理解する。もう一度ルシウスを見て、私まで顔に熱を持ってしまう。


「ど、ど、ど、どうすればいいですか!?」

「打ち消す薬を用意しないと」


 私は急いで控室に置いてある。薬箱をドゥスールに渡す。


「この中には無いですね……」

「……。あ…、おい……」

「え? ルシウス何?」


 私が彼の呼びかけに答えるように近づくと、再び私の服を力強く引っ張られ、体勢を崩してしまう。その拍子服が破けたようで、元々心許ない服がもっと、役に立たなくなってしまう。今は男の身体だが、それでも晒すのはやっぱり恥ずかしくて、つい声を出してしまう。


「う、うわぁあ!」


 ドゥスールはすぐにルシウスから私を引き離す。


「不用意に近づいては駄目です。……っ。その姿では……。僕が街に行ってすぐに薬を用意するので、それまでカギをかけて此処を隔離してください。絶対誰も近づけてはいけませんよ」

「か、隔離って、カギは内側からしか掛けられないよ」

「~~! いいですか、僕がこの部屋から出たら、すぐに内側からカギをかけてください。彼はあの様子では動けないはずですから、大丈夫です。誰が声をかけても開けてはだめです。僕が帰ってくるまで絶対開けないでください。分かりましたか?」


 私は力の限り、コクコクとうなずく。ドゥスールが部屋から出ていき、私はすぐにカギを閉める。外からドゥスールと店長の声が聞こえるが、暫くするとそれは止む。

私はドアに背を当て、体育座りで縮こまる。


――こんなはずじゃなかったのに……。


 目を瞑るとルシウスの苦し気な息遣いが聞こえる。


――ごめん……本当にごめんなさい!


 私は目を瞑り耳を塞いで、ドゥスールが帰るのを待った。



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 どれくらいたったのだろうか。私がルシウスへの謝罪を並べていると、不意にドアが叩かれる。


ドンドン。


「葵さん!? 僕です! 開けてください!」


 私はドゥスールの声を聞いて、ハッとする。目の前は真っ暗でいつの間にか日が落ちていたようだ。私は急いで、ドアのカギを開ける。ドゥスールは素早く部屋に入り、再びカギをかける。


 私は急いで電気をつける。すると、ルシウスはベッドから落ちていた。ベッドから退けた物は散乱しており、私の服をかけていたハンガーラックは倒れている。服はルシウスの周りでグシャグシャになっている。


「ルシウス!」


 私たちが彼に駆け寄ると彼は未だ息が荒く、此方を睨んでいる。ドゥスールが紙袋から薬を取り出し、彼に見せる。


「これは症状を緩和させる薬です。全て飲み込んでください」


 ドゥスールはルシウスの口元に薬瓶を当てる。少し口の端から零れるが、キチンと飲み込んだようだ。ドゥスールが大きくため息をつく。


「しばらくすれば、症状が和らぐでしょう」


 その言葉を聞いて酷く安心する。張りつめていた糸がきれるように、私の身体から力が抜ける。


「ドゥスール……。ありがとう……」


 私は言葉を言い終えると同時に、気を失った。


【簡単なあらすじ】

ドゥスールに回収してもらったプレゼントを、改めてルシウスに渡す葵。だが、その中身は疲労回復効果だけでなく、媚薬効果が含まれていた。様子のおかしいルシウスを、ドゥスールの力を借りて、仮眠室に閉じ込めることに。


【登場人物】

・葵

 本作主人公。一応女の子。オロオロ。


・ルシウス

 異世界で初めて出会った人物。ビクビク。


・ドゥスール

 怪盗ショコラ。天使から離れられない。テキパキ。


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