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貴方は傲慢で独りよがりで嫌な人だけど

 

 ソファに腰を下ろした今も、ルシウスは私の腕を掴んでいた。日中は男の身体になっているとはいっても、彼から私に触れることは一切なかったため、今の状況は酷く落ち着かない。一人ソワソワする私を見た彼は、唐突に謝罪を口にする。


「すまなかった」

「え……何が?」

「貴様は怒っていただろう? あんなに怒るとは思わなかった」


 まさかのルシウスからの素直な謝罪に驚く。いつも傲慢な態度しか見せない彼が、弱さを見せているようで、なんだかそわそわする。


「えっと、あの時は私も動揺してたっていうか――」


――いや待てよ? 今はチャンスじゃないか? 今まで溜まってた鬱憤を晴らすときでは?


「正直、モラハラだと思った」

「も、モラハラ?」


 どうやら彼は私が言った言葉の意味が分からないようで、聞き返してくる。


「態度や言葉で攻撃してくるって事! すっごい傲慢で、偉そうに命令してくるし、色々押し付けてくるし、凄い嫌だった」

「……」

「その中でも『貴様』って言われるのが一番嫌だったんだよね。私ちゃんと自己紹介したよね? 覚えてる?私、あ、お、いって言うんです! 『貴様』じゃなくて、ちゃんと名前で呼んでほしかった」

「……」

「あぁ、そうそう。あの時は本当に信じられなかったよ。伯爵の屋敷で捕まった私もろともご自慢の剣でぶった切ろうとしたよね? 私普通に死を覚悟したんだけど! あのポンコツ警部に撃たれそうになった時はともかく、すっごいショックだった」

「……」


 とりあえず、不満に感じていたことは言い切った。私は荒くなった呼吸を整える。


「貴方は傲慢で独りよがりで嫌な人だけど……。でも、この世界で何もわからない私を助けてくれたことは、心から感謝してるよ。衣食住を提供してもらって、厳しかったけど護身術も教えてくれて。あと文字の書き方も」


 段々と目頭が熱くなってくる。


「すっごい理不尽な目にも合わされてるけど、ちゃんとルシウスが優しいこと知っているよ……っ」


――だから……。


「……っ。私、出ていく時、酷いこと言ったね……っ。うぅ。ご、ごめんなさい。 酷いこと言ってごめんなさいぃ……っ。わ、私、我儘言って泣きついたのに、見捨てず、たずげでぐれだのにぃ……っ」


 涙が溢れてくる。あの時の言葉をずっと後悔していた。酷いことを言ったという自覚があったから、ルシウスのことをなるべく考えないようにしていた。でも、まさかルシウスがまた目の前に現れて、あの傲慢で偉そうな彼が素直に謝るなんて思わなかった。だから、私も謝罪せずにはいられなかった。


『こっちから願い下げだってんだよ! ルシウスの顔も声も聞きたくない。こんな偏見で人の話を聞かない、思い込みの激しい独りよがりな人だとは思わなかったよ。まるで、心無い悪魔みたいだね。そんなんじゃあ皆から嫌われて永遠に一人ぼっちだよ。一生一人で騎士道やってろよ、バーカ! 悪魔は悪魔らしく地獄に落ちろ!』


――あぁ、思い出しても、酷い言葉。そして、ソレを口に出したのは間違いなく私。


 恥ずかしげもなくわんわんと泣きながら謝罪を続ける私に、ルシウスは私の膝に残る一枚のタオルを手に取り、私の顔面に雑に当てる。


「もう黙れ……」

「うぅ……っ」


 この雑さは彼の優しさなんだ。私は流れ出る液体をタオルに受け止めてもらう。


「あの時は俺も個人的な理由で苛ついていたのを貴様……。あおいにぶつけていたのは事実だ。あと、剣を振り上げたのは、ああしないと奴はあおいを解放しないと思ったから。それと、まぁソファで寝させるのは悪かった」

「……っ」


 呼びなれない名前を使う彼は、間違いなく私が口にした不満を聞いて理解してくれた証拠。


「あ~。葵が戻るなら、ちゃんともう一つベッドがある部屋を取ってやる!これで文句ないか!?」

「戻ってもいいの……っ?」

「貴様次第だ」


 さっきまで頑張って私の名前を言ってくれたのに、また『貴様』に戻っている。そして、「しまった」という顔をしているのが酷くおかしい。


「私、ルシウスにちゃんと恩返しできてないから。……戻りたい!」

「フン。好きにしろ」


――良かった。本当に良かった!


 もう二度と会うことはないと思っていたルシウスと、仲直りできた。思い返せば酷い扱いをされた方が多かったような気もするけど、彼なりの優しさだって沢山あった。今ここに謝りに来てくれたのは、彼が私を必要としてくれたってうぬぼれてもいいかな? 少なくても嫌われてはいないということだと思っていいよね?


 私から思わず笑みがこぼれた時、ずっと黙っていたドゥスールが口を開いた。


「はぁ。話を聞く限り、お二人は離れた方がいいと思いましたが、葵さんはそうしたいんですね?」


 私は彼の言葉にうなずく。


「まぁ、今は恩返し含めてルシウスさんの元に戻るということなので、これから僕と時間を沢山共有すれば、僕を選ぶのは必至ですね。あぁ、すみません、そこの人。氷と袋を用意して頂けますか?」

「え、はい!」


 彼はスタッフに声をかけた後、彼に背を向けていた私の肩に手を乗せ、後方に傾くように力をかけられる。私の頭は彼の胸に当たって止まると、上から覗き込んで私の目を見て呟く。


「あぁ、こんなに目を真っ赤に腫らしてしまって……。お可哀そうに」


 そこにスタッフが氷袋を持って来て、彼は私の目にそっとソレを当てる。


――ひんやりと、気持ちいい。


 ひどく疲れ切った私は彼に身を預け、その心地よさに目を瞑る。いつまでそうしていたのだろう。私はハッとしてドゥスールに預けていた身体に力を入れて、起き上がる。


「おっと」

「あ、え、えっと自分でやるので、もう大丈夫です」


 私は彼の手から袋を受取り、自分で目を押える。目だけじゃなく頬にも熱を感じ、どちらにも当てるように袋を傾けた。



【簡単なあらすじ】

 謝罪をするルシウスに驚く葵。普段言えなかったことを吐き出し、スッキリする。



【登場人物】

・葵

 本作主人公。一応女の子。すっきり。


・ルシウス

 異世界で初めて出会った人物。反省した様子。


・ドゥスール

 怪盗ショコラ。天使から離れられない。


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