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よくもまぁ、そんな独りよがりな性格になりましたねぇ?


「おい!」


 いつもより心地よさを感じながら寝ていた私は、その大きな声で起こされる。「一体何なんだ」と思い、目をこすりながら声の主を見ると、不機嫌な顔のルシウスがこちらを見ていた。


「貴様どうして、俺のベッドで寝ているんだ」

「え?」


 周りを見渡すと、ここはいつも私が寝ているソファではなく、ルシウスが使っているベッド。どうしてベッドで寝ていたのか。私はいつもより首元が緩くなっていることに気が付き、そこにキラリと光るネックレスが視界に入る。


 たしか、武器屋から連絡が来て、ナイフを取りに行こうとしたら、わざわざ此処まで届けてもらって……。私はハッと今日私の身に起きたことを思い出す。ドゥスールと名乗る男性が目の前でコロコロと顔を変えたのだ。理解が追い付かなかった私は、混乱して気を失ったんだった。


 もしかして、気を失った私をドゥスールがベッドに運んだのだろうが。彼がドゥスール本人であれば、そのような行動をすることは予想がつく。彼は紳士なのだから。しかし、もういないのだろう、その姿は見えない。


 私はベッドから降りて、ルシウスに謝罪する。


「……。貴様、もしや俺がいない時、いつもこのベッドを使ってたんじゃないだろうな? 俺のベッドには近づくなと言っておいたはずだ。オレが女性アレルギーであることは知っているだろう」

「そんなことしてないよ! 私の意志でベッドで寝てたわけじゃないし。それに、今は日中で身体は男なんだから、そんなに怒らないでよ!」


 ルシウスはフンと馬鹿にしたように鼻を鳴らす。


「伯爵の屋敷では一部屋ずつ用意されていたからな。ソファじゃ不満という訳か?」

「そりゃあ、伯爵の家ではベッドを使わせてもらったけど、ソファで寝ることに不満なんてないよ!」

「どうだかな。まぁ、嫌なら出て行ってもらうだけだ」


 私は彼の言い分にムッとする。そして、いつものルシウスであれば、このあたりで嫌味を止めるところだが、今日は様子が違った。私の返事を待たず、まるで鬱憤を晴らすかのように、矢継ぎ早で一方的に詰め寄る。


「それに、貴様。俺があんなにナイフの扱いを教えてやったのに、何も学ばなかったのだな。みすみす人質にされて、情けない」


――それは、私だって気にしてて。


「なんだ、そのネックレスは。まだつけているのか。そう言えば貴様、あの怪盗と出会ったとか言っていたな。名前を確かドゥスールと言ったか」


――それが何?


「まさか貴様、少し優しくされたくらいで惚れてしまったとでも言うのか? そこまで愚かだったとは……滑稽だな。


――誰がそんな!


「貴様わざと捕まったんじゃないだろうな? もしかして自分の話なら聞いてもらえるだとか、頭の湧いた発想でもしたか? っふ……フハハ! 奴と出会った時は女の恰好をしていたのだから、気付くはずないだろう。頭が悪いんじゃないか?」


――……っ!


「それに前の仕事でも、俺の邪魔ばかりして。……本当、迷惑だ」


 プツン。


 自分の中で何かが切れる音がした。


「……出ていくさ」

「はぁ?」


 好き放題に勝手なことを言うルシウスに、これほどショックを受けたことはない。今までだって言われてきた。でも、こんなに矢継ぎ早に非難を並べられ、まるで鬱憤を晴らすかのように、私を否定する言葉を口に出したことはなかった。


 傷心中の私に傷口に塩を塗られる耐性なんてものはなく、彼にこんなにも失望したことはない。しかも、事実無根の事柄を。だから、私もこの湧きたった感情を口に出さずにはいられない。


「こっちから願い下げだってんだよ! ルシウスの顔も声も聞きたくない。こんな偏見で人の話を聞かない、思い込みの激しい独りよがりな人だとは思わなかったよ。まるで、心無い悪魔みたいだね。そんなんじゃあ皆から嫌われて永遠に一人ぼっちだよ。一生一人で騎士道やってろよ、バーカ! 悪魔は悪魔らしく地獄に落ちろ!」

「……」

「お望み通り出てってやる」


 私は宿にある少ない私物を鞄に詰め込む。すぐに全て詰め込んだ時、この世界で私の物はこんなにも少ないのかと実感した。そして、この世界で唯一、仲間だと言えた存在とはお別れだ。


 目頭が熱くなるなんて認めない。私はこの心無い相手から、これ以上傷つけられない様に離れるだけだ。私は目元のソレが溜まって零れる前に、勢いよく出口へと向かう。視界がぼやけるが、勝手知ったるルシウスの宿。見えなくても、ドアにたどり着くまでは容易だった。もう、この場所に来ることは二度とない。


 私はドアノブに手をかけ、振り返らず最後に別れの言葉を告げる。


「大っ嫌い!」


 勢いよく物音を立てドアを閉め、一刻も早くこの場所から逃げ出したくて、私は走り出した。



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「どうしよう……」


 啖呵を切ってルシウスの宿を出て行った私は、今更ながら少し後悔をしていた。私は行き交う人とすれ違いながら、鞄の紐を握る。下を向いて、縮こまるように背中を曲げて、行先の決まっていない足を動かす。


 先ほど気付いてしまったのだ。すれ違う人々にはちゃんと帰る場所があって、目的の場所を目指して歩を進めている。だが、私には帰る場所も目的の場所もない。だからこんなに歩幅が小さく、足が重くて、遅いのだ。この世界で今一番不幸なのは自分だと思った。


 それほど歩いてはいなかったが、自身の置かれている状況を認識したせいで酷く憔悴していた私は、近くにあったベンチに腰を下ろす。


――はぁ、これからどうしようか。


 バイト先から貰ったお給料は残りわずかだ。どう見積もっても2、3日分の食料分ぐらいしかない。これからは一人で、自立した生活をしなければならない。


 だが、この世界に来た時に追い出されそうになった時、絶望した比ではない。なぜならここはもう見知らぬ世界ではなく、1か月近く私が生活した場所。それに元の世界では、祖父が亡くなってから、これまでもずっと一人で生きてきたのだ。家がないなど、大したことはない。……こともない。


 私は自分の頬を叩き渇を入れる。そうしてやっと顔を上げた時に、ベンチから離れている向かい側の狭い通路に、何か荷物のような物が落ちていることに気が付く。


――もしかして、この悲劇的な私に神様からの贈り物だろうか。


 私はベンチから立ち上がり、急いでソレに近づいた。


 建物間の狭い通路に隠れるように落ちていた布は、近づくと思ったより大きさがある。しかも、よく見ると、その布の間から動物の耳が出ていることに気が付く。


 慌てて布を少しずらすと、血を流した犬の獣人が横たわっていた。胸から腹まで赤黒く染まった血が見える。私はその獣人に向かって声をかけるが、返事はない。口元に耳を当てて、呼吸を確認する。僅かだがキチンと息を吸う音が聞こえる。


――生きている! よかった……。


 しかし、傷の処置など私には出来ない。私は行き交う人々に向けて助けを求める。


「すみません! 誰か! 倒れている人がいるんです! どなたか助けてください!」


 私がどんなに叫ぶように声を出しても、誰も応えようとしない。時折、チラリとこちらを見るがすぐに立ち去ってしまう。


――どうしよう、どうすればいい?


 誰も助けてはくれない。私が何とかするしかない。私は獣人の方へと振り返り、血に染まった服を丁寧に脱がせていく。胸から腹にかけて剣か何かで切られたような跡があるが、ずいぶん時間が立ったのだろう、血は固まっている。


 ここからいくつか角を曲がった先に、バイト先の喫茶店がある。


 私は獣人の腕を肩に回す。持ち上げることは叶わないが、半ば引きずって連れて行くことはできる。多少身体が男になっている分だけ、筋力は上がったのかもしれない。正直こんな重いものを運んだことはないが、文句など言ってはいられない。オレンジ掛かった空色の中、力を振り絞りながら、今唯一頼れそうな場所へと向かう。


 人々の視線は此方を向くが、誰一人助けようとはしない。私は頼りにならない視線だけを集めながら、何とか喫茶店にたどり着く。しかし、ドアの前にはcloseの札が掛けられていて、私はショックを受ける。


――そうだ、今日は定休日だった。なぜ、気付かなかったのだろう……。


 私は一気に力が抜け、獣人を支え切れずに一緒に倒れ、意識を失った。


【簡単なあらすじ】

 自分の失態と人からの自分への扱いに傷心していた葵は、ルシウスの心無い言葉にキレて、宿を飛び出してしまう。一人トボトボこれからどうしようかと悩んでいると、血を流して倒れている獣人を見つけ、助けを求めて喫茶店に向かう。



【登場人物】

・葵

 本作主人公。日中身体が男に変わるが、一応女の子。「ルシウス大嫌い!」


・ルシウス

 王国騎士。女性アレルギー持ち。嫌味製造機。


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