訪問者は百の顔を持つ紳士
葵達が怪盗を見失った後のとある裏路裏。
暗闇の中、煌めく刃が黒いマントを羽織った男目掛けて飛んでくる。マントの男は自身のナイフでそれを弾き、刃はその足元へと突き刺さった。刃が飛んできた方行には1人の男が立っており、ここ最近マントの男を追っていた人物のようだ。
「お前は知っているのか?」
「何のことです?」
「今お前が関わっている組織のことだ。その組織がどこに金を回しているのか、知っているかと聞いているんだ」
「おや、もしかしてご忠告ですか? ご親切にどうも」
「こちらが迷惑してるからだ。あの組織と関わるのは止めろ」
マントの男はクスリと笑う。
「そろそろ私もお暇をいただこうと思っていた所です」
「ほう? お前が休業宣言か?」
「えぇ、どのくらいになるかはわかりませんが」
マントの男は足元の投げナイフを拾い上げ、男に向かい投げる。男はそれを二本の指で受け取る。
「お前があの組織から手を引くなら、此方からお前に手を出すつもりはない」
「おや、てっきり私を捕まえたい方なのかと思いましたが?」
「そんなことは興味ない」
そう言って男は立ち去り、マントの男もその場を後にした。
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伯爵の屋敷で怪盗騒動が起きた翌日、私達は宿に戻った。金品は盗まれ、怪盗もみすみす逃してしまった私達は伯爵に頭を下げた。警部には何か怪盗の情報があればと、連絡先を書いた紙を渡された。正直いらない。
それにこの怪盗を捕まえろという仕事は、騒動が起こる二日前に、対応不要と連絡が来ていたらしい。伯爵の屋敷に泊まり込んでいた私たちが、その連絡を知るはずもなく。意味なく彼と対峙したというわけだ。
しかも怪盗に奪われたままだったナイフは、何故か刃こぼれした状態で武器屋に預けられたらしい。何やらデザインの一部にその武器屋のマークが付いていたため、届けられたようだ。もしかして、あの怪盗ご親切にナイフを返却してくれるのかと、少し感心する。店主から連絡を受けた私は、ナイフを受取るため、出かける支度を始める。
そこに部屋がノックされ、私はドア越しに返事をすると、男の声がした。
「お借りしていた物をお持ちしました」
ルシウスが何か貸したのだろうか。彼は状況報告をしに行ったので、今ここにはいない。特に頼まれていないが、対応しようと私はドアを開けると、目の前に頭に黒い牛の角が生えた男性が立っていた。その手には小ぶりのナイフが乗せられている。ご丁寧に立派な皮のカバーまでされている、私のナイフだった。
「こちら、研ぎ直したナイフです」
手紙に届けるなんて書いていただろうか。私はそのナイフを受取り、男を再度見る。こんな男、武器屋にいただろうか。まぁ、配達する人は武器屋の人ではないのかも。
「ありがとうございました」
礼を述べてドアを閉めようとすると、男が足を挟み込む。そして、ぐいっと再びドアを開く。
「え、ちょっと」
「貴方、お姉さんか妹さんがいらっしゃいますか?」
「いませんけど?」
何故、配達員の彼がそんなことを聞くのだろう。彼は「失礼しますね」と言って、私の胸元のボタンを外す。片手はドアを閉めようとノブを握っているし、もう一方はナイフを持って、なされるがままだ。
「ちょっと!?」
「やはり、僕がお渡ししたネックレスをつけていらっしゃいますね」
「な」
僕が渡したネックレス?
「やはり、貴方が葵さんなんですね」
目の前の男は見たことがない角の生えた男。何故、私の名前を知っているのか。
「お気づきになりませんか? ドゥスールです」
私が知っているドゥスールはアルパカの頭をしていたはずだ。なぜ目の前の男は、彼の名を語る?
「あぁ、失礼。少しお待ちください」
彼は一度後ろを向き、少しして振り返ると以前見たアルパカのドゥスールがいた。
「え!? え!?」
「わかって頂けましたか?」
「ドゥスールさん……」
「あぁ、でも葵さんは此方の方がお好きでしたね」
彼はもう一度、後ろを向く。数秒して振り返ると、そこには以前私が愛の告白をした猫紳士がいた。理解不能でキャパオーバーの私はその場で倒れた。
【簡単なあらすじ】
NOT葵目線で、謎の男達の会話。宿に戻った葵の元にナイフを持ったドゥスールがやってくる。
【登場人物】
・葵
本作主人公。日中身体が男に変わるが、一応女の子。身体も心も傷心中。
・ルシウス
王国騎士。女性アレルギー持ち。
・ドゥスール
葵が出会った猫紳士であり、アルパカであり、怪盗ショコラ?




