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糸目の彼は奔放な人


「今日張り込んでいたんだろう? その支援組織がいる場所は特定できたのか?」


 家に戻ってからも、私は暫くドゥスールの事を考えていた。何度思考を追いやっても、思い出してしまうのだ。それに彼から匂ったあのオリエンタルで甘美な香り。どこかで同じ香りを嗅いだはずなのに、思い出せない。私が頭を悩ませている間にルシウスが帰って来て、今日の成果を聞いてきたのだ。


「うん。問題ないよ」


 私は家に帰ってから描いた、支援組織の場所を記した簡単な地図を、ルシウスに渡す。


「あと、怪盗ショコラ本人かは分からないけど、それらしい人物には会ったよ」

「本物か?」

「それは分からないけど、ドゥスールって名乗ってた。あとアルパカの獣人だったよ」

「そうか。どうせ、偽名だろう。それに奴は見た目がコロコロ変わるらしいからな。それこそロバの獣人だったり、若い男性、年老いた老人。色々だ」


 やっぱりそうか。簡単に名前を名乗るはずないし、あれも偽りの姿ということか。なんだか少し残念な気持ちがするのは気のせいだ。


「…いや、待てよ?」


 ルシウスは机の中にしまってあった資料を取り出し、その紙に素早く目を通す。


「どうしたの?」

「怪盗はいつもメッセージカードを残すと言っていたよな」

「うん。言ってたね」

「そこにいつも『D』と記載されているんだ。もしそいつが本物なら、本名かもしれないな」


 ドゥスールが怪盗ショコラなのかは、はっきりしていない。だが、心のどこかで彼が怪盗ショコラであってほしいと思う。どうしてそんな風に思うのか自分でもよくわからないけど。


「それよりもう少しまともに描けないのか? この落書きは何だ?」


 ルシウスは手渡したメモを見て、私にそう言った。


「落書き?」


 私はそんなものを描いた覚えはない。私は後ろからメモを覗き込み、再度確認する。


「落書きなんて書いてないじゃん。通りと目印の建物描いて、メモまで記載して、丁寧に描いたんだから」

「文字? これが貴様の文字なのか?」


 ルシウスは眉をしかめて、悩まし気にメモを見つめる。そう言えば、私はルシウス達と問題なく話せてはいるが、文字は異なっていたのだ。彼が私の描いた文字を落書きだと認識しても、仕方がないのだ。私は彼にわかるように口頭で、情報を読み上げながら説明する。


「えっと、此処が支援組織の場所で…」


 ようやくメモの内容を認識したもらえたようで、彼はそのメモをしまう。


「場所はメモに記したけど、侵入はしてないから本当にそこで合ってるかはわからないや。ごめんね」

「当たり前だろう。潜入するなど貴様には無理な話だ」


 此方の世界の文字を覚えないといけないなぁとぼんやりと考えていると、ルシウスが私に話しかけてきた。


「そのドゥスールって男は、どんな男だったんだ?」

「うーん。優しいかな。女性が好きなんだろうなって感じだった」

「ふぅん。貴様が言っていた情報の通りだな」


 ルシウスの視線が私の目から離れ、胸元に移る。


「ん? 何だそれは」

「いや、あの」

「もしかして、その男に貰ったのか?」

「はい……」

「ふはは。流石だな」


 なんで笑うんだ。家に帰ってからネックレスを外そうとしたが、中々外せず腕が疲れて諦めてしまったのだ。別に深い意味などない。私は少しふてくされながら、ルシウスに尋ねる。


「ルシウスの方はどうなのさ?」

「あぁ、俺の方は次被害に合うかもしれない場所の見当が粗方ついた」

「え?本当に?」

「今までの奴の傾向から、次に狙う所を絞ったんだが、いくつかあってな。なんとか3つに絞り込んだが、これ以上は絞り切れない。しかも、奴の盗みに入るスパンは不規則だ。場所もタイミングも未だ掴めてはいない現状だな」


 ルシウスは10年間の情報を洗い出して、統計分析したのだろう。この短期間で一人、場所を3つに絞り込んでいるだけで相当すごいと思う。心なしか彼の顔には疲れが見て取れた。


「お疲れ様だね。今日はもう寝よっか」

「俺はまだ」

「はいはい。無理は禁物! 今日は早く寝よ寝よ!」


 彼が女性アレルギーなのをいいように使い、彼を半ば無理矢理ベッドに追いやり、電気を消す。暗闇の中でソファに辿りつくまで、足のすねを打ったり、足の小指をぶつけて涙を流す。なんとか無事にソファに腰を下ろし、痛む患部をさすりながら、就寝した。


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 次の日のアルバイトは大変だった。私が女の恰好をしていたことが従業員中に広がっていたから。私は怒りを抑えられず、わざわざ夜まで待ってヒバリさんには文句を言ってやった。


「ヒバリさん!!」

「わぁ葵ちゃん。昨日ぶり。無事に帰れたんやね。よかったわぁ」


 私は怒りを露わにしているのに、ヒバリさんはそんなことを気にせずに、いつも通りへらへら笑顔だ。


「何で急にいなくなったんですか?! 私、怪しい男に追いかけられて、本当に危なかったんですから!」

「すまんなぁ。こっちも怪しい人影を見つけて、つい一人で追いかけてしもたんや」

「怪しい人影ですか?」

「そう。なんか怪しい男がいてなぁ。なんやその男、尾行しよるみたいだったんやわ。もしかして怪盗ショコラを追ってんのか思て追いかけたんやけど、見失ってしもてなぁ。葵ちゃんは会えた?」


 ヒバリさんにはドゥスールに会ったことは、伝えない方が良いだろう。本物かも分からないし。仮に本物だったとしても、ヒバリさんは私を置いてどこかへ行ったし、教えてあげない。


「いいえ。全くもってそれらしい人物は見かけませんでした。男二人に追いかけられてとんだ災難でしたよ!」

「まぁまぁ、そんなに怒らんとって。『いいこと』教えてあげるから」

「いいこと?」


 怒りは静まらなかったが、彼の発言は私の関心を引いた。彼の言う『いいこと』とは一体何のことだろう。ヒバリさんは得意げに私に向かって言う。


「怪盗が次狙う場所が特定できたよ」

「え?」

「どうやら、次は伯爵の家みたいやで。しかも近日中に決行するらしい」

「なんでわかったんですか?」


 ヒバリさんが口元に手を当て、ゆっくりとつぶやく。


「ひ・み・つ」


 すると、私の後ろから急にマスターの低い声が響く。


「ヒバリ君は記者なんだよ」


 突然現れたマスターの声に肩をびくつかせながら振り返ると、ヒバリさんに負けず劣らずニコニコしている姿があった。


「あぁ!マスター言わんとってやぁ~」


 ヒバリさんが珍しく顔を歪ませる。


「だから情報通なんですね。それでもよくわかりましたね。さっきの話」

「まぁ、それなりにこの仕事長くやってるから、情報には困らないんだよ」

「本当の話なんですか?」

「ほんまやって。な? 教えたから許したってな」

「はいはい、わかりました」

「何々? ヒバリさん、葵君を怒らせたの?」

「そうなんです。酷いことされました」

「わ、わぁ~! やめたって!」


 いつもの表情が崩れて、ヒバリさんの本気で慌てている様子が見られて、少し満足する。その後も少しマスターを交えて雑談をした後、私は帰宅した。


 ヒバリさんから聞いた話をルシウスに伝えると、伯爵の家に貼り込むことになった。ヒバリさんから聞いた情報とルシウスの絞り込んだ目星と一致したからだ。


 だが張り込む前に、私はずっと目星をつけていたお店へと向かう。初めてバイト先からのお給料が下り、私はそのお金を持って服を買いに行く。私が持っている服は、ルシウスに買って貰ったパーティ用のタキシードと、女装用の服。それに、普段用が欲しいと言って買って貰った服が1着。だが、これがまた普段用とは言えないキッチリとした服なのだ。もっと気軽に着れるものが欲しくて、私はずっとこの日を待っていた。


 初給料は親にプレゼントを贈るものだというが、私にはいないし、そもそもここは異世界。でもまぁ、お世話になったからお金が余ればルシウスに何か買うのもいいかもしれない。私はウキウキしながら街へ出かけて行った。


【簡単なあらすじ】

組織の場所をルシウスに伝える葵。ヒバリから怪盗の有力情報を貰う。


【登場人物】

・葵

 本作主人公。日中身体が男に変わるが、一応女の子。


・ルシウス

 王国騎士。女性アレルギー持ち。


・ヒバリ

 終始ケラケラ笑ってる。怪盗の熱狂的なファン。記者。糸目。


・マスター

 バイト先のマスター。パパ味溢れるイケオジ。


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