第9話 厄祓い
お祭りの準備に忙しい、招福神社。
「駄目だったわ」
残念がる、初日ちゃん。
精神病院に電話したが、個人情報は、答えられないという。
ヤックニャンの飼い主のことは、わからない。
「…お祭り、はじまるにゃん。ヤックニャンにも来てほしいにゃん」
大鈴ロッドを抱きしめる猫巫女。
楽しいお祭りが、もうすぐはじまる。
ヤックニャンにも、楽しんでほしい。
だって、ラムネを、すごく喜んでいた。
「そうよね」
つぶやく、初日ちゃんの前で、風が強く吹いた。
「ワタシのお話ですかニャン?」
疫病ネコ・ヤックニャンが、現れた。
森から、やって来たのだ。
猫巫女は、駆け寄る。
「ヤックニャン!お祭りに来てくれるにゃん?」
「違いますニャン」
横に首を振る。
その目線の先には、招福神社の猫神・大福さまがいた。
「厄祓いに来たのですニャン」
「?」
第9話 厄祓い
招福神社の猫神。
大福さまは、祈願成就をこなしてきた立派な招き猫。
ありがたい猫又。
しかし、10年以上前、そのお力が弱まった。
「大福。お前は、もう、引退するべきですニャン」
疫病ネコ・ヤックニャンは、冷たく言い放った。
「引退してるニャア」
猫神の大福さまは、のんびりと答える。
長年に渡るお役目の連続。
数多くの祈願成就。
その果てに、大福さまは、福を呼ぶ招き猫から引退した。
後進は、若い猫又の猫巫女が受け継いでいる。
「猫巫女さん。『厄祓い』をしてほしいニャン」
「あっ、アタシが厄祓いをするにゃん?」
「猫巫女さんは、大福に頼まれて、『疫病ネコ祓い』をしに来たはずですニャン」
「あっ、そうだったにゃん…!」
厄祓いは、招福神社でできること。
猫巫女は、疫病ネコのヤックニャンの厄祓いをしに行っていたのだ。
「まだ、厄祓いしてないニャア?ど忘れしてたかニャア?」
「にゃん。うっかりミスにゃん」
「厄祓いなんて、全く意味ないと思いますニャン。ただの、願かけ行動ですニャン」
ヤックニャンは、『厄祓い』の必要性の低さを指摘する。
そもそも、神社に行く。
お祈り。
それらは、無意味な行動だと、ヤックニャンは言う。
「無意味じゃないにゃん。意味ある行動にゃん」
「そうですかニャン…?」
神社でお祈りしても、叶わないこともある。
叶わないことのほうが多い。
ヤックニャンは、10年以上前、願かけ行動などしなかった。
でも、大好きな飼い主の落合浩美ちゃんと離れたくないと…。
ずっと、一緒にいさせてほしいと…。
何かに、願かけしたかった。
「何故、招福神社にお祈りに来なかったの?」
人間の初日ちゃんが、聞く。
人間嫌いのヤックニャンは、目線を合わせない。
「10年以上前、招福神社の猫神の大福が、その力を弱めていると聞いたからですニャン」
お祈りなんて、信じていない。
だけど、何かに頼りたかった。
信じたかった。
「ラムネ、美味しかったニャン…」
思い出す。ラムネの味。
落合浩美ちゃんと行った、お祭り。
楽しかった。
また、会えればいいのに。
あれから、時間が経ったけど。
気持ちは変わらない。
疫病ネコのままだけど。
気持ちを切り替えて、また会いたい。
だから、変わりたい。
少しでも、不吉な力が消えますように。
「『厄祓い』をお願いしますニャン」
ヤックニャンは、猫巫女に頭を下げた。
「にゃ、わかったにゃん!」
猫巫女は、気合いを込めてうなづく。




