第7話 お祭りのこと
「ヤックニャン。おいで」
人間・落合浩美。
ヤックニャンの飼い主の、10歳の女の娘。
賑やかな祭り太鼓が響く中で、落合浩美とヤックニャンは、時間を忘れて、お祭りを楽しんだ。
「楽しいね。ヤックニャン」
「楽しいですニャン。浩美ちゃん」
一人と一匹は、笑い合う。
しかし。
落合浩美は、病気になった。
原因不明の精神の病気だ。
落合浩美は、入院した。
幻聴・幻覚が見えるようになって、独り言を繰り返すようになった。
「…宇宙人がいる…」
「…ネコが、空飛んでる…」
落合浩美は、治らない。
「疫病ネコのお前のせいだ…。運気が下がったんだ…」
落合浩美の父親がおびえながら言った。
「…違いますニャン。浩美ちゃんに何もしてないですニャン」
「お前なんか、人間に近づくな…」
「…」
ヤックニャンは、ネコナカヨ市の森に住むことにした。
疫病ネコは、人間嫌いになった。
第7話 お祭りのこと
ネコナカヨ市の森。
猫巫女と初日ちゃんがやって来た。
疫病ネコ・ヤックニャンのお願いを変えてもらうためだ。
「私、ちゃんと説得に協力するから」
同行を申し出た初日ちゃんは、肩からトートバッグをぶら下げている。
ちゃんと、用意があるらしい。
森の中。
「人間ですニャン…?」
ヤックニャンは、人間の初日ちゃんをにらむ。
「人間が嫌いなの?疫病ネコさん」
「この娘は、初日ちゃんにゃん。アタシの飼い主にゃん。お願いごとについて…」
猫巫女は、言いかける。
「飼い猫なんですニャン…?」
暗く表情をおとすヤックニャン。
疫病ネコ・ヤックニャンも、その昔は、飼い猫だった。
しかし、それは、10年以上前のこと。
飼い主は、落合浩美。
当時・10歳。
お祭りで楽しむ、仲良しだった女の娘。
ある日、原因不明の精神病になり、それっきり離れてしまった女の娘。
大好きだったご主人様。
それを、ヤックニャンは忘れたい。
猫又だけのお祭りに行きたい。
お祭りだけを楽しみたい。
人間なんて、もう好きにならない…。
「…猫巫女さん。猫又だけのお祭りにしてくれるって約束ですニャン」
「そ、それにゃん。大福さまに反対されたにゃん。初日ちゃんにも…」
「大福の意見も、人間の意見も関係ないですニャン。ワタシは、ただ、お祭りを楽しみたいだけですニャン」
ヤックニャンは、不機嫌にそっぽを向く。
その意見を聞いて、初日ちゃんは、提案する。
「お祭りを楽しみたいなら、屋台よね。私ね。ちゃんと用意してきたのよ」
ぶら下げたトートバッグから、青いラムネを取り出す。
「お祭りの屋台といえば、ラムネよ。これを、あなたにあげるわ。これで、考え直してくれないかしら?」
コロッ
ラムネ容器の中のビー玉が、動く。
「…」
ヤックニャンは、それをジッと見つめる。
「…ラムネですニャン?…」
瞳を輝かせるヤックニャン。
お祭りの楽しい思い出が、フラッシュバックする。
落合浩美の笑顔も、心の中で思い出される。
ヤックニャンは、ラムネを受け取った。
「ラムネ、飲んでね」
初日ちゃんは、満面の笑みを浮かべる。




