30 贈り物
リアンとその同郷の者達がそれぞれ進級した最初の集いの日
エイドリアンとシリルが無事に合格したとリアンから聞いたベティとデイジー
実のところ泉で出会って以来、学園で交流を持っているアイリーンから先に情報を得ていた。
シリルの幼馴染のオスカーの妹スザンヌはアイリーンと一つ違いで幼い頃から交流がある。スザンヌはデイジーとはクラスが同じで顔見知りだ。
そんな事もあってアイリーンが高等部に進級してからというものお互いに軽く会話する機会が増えていた。
リアンから二人の合格の話を聞いた二人が待ってましたとばかりに
「偶然泉で顔を合わせて一緒に祈願したのも何かのご縁かもしれないでしょ?」
「折角だから何か合格祝いを送りましょうよ」
と前々から考えていた事をリアンに提案した。
リアンはこれまでエイドリアンには日頃の感謝を込めて誕生日などにささやかな手作りの品物を贈っている。しかし家族以外のそれも異性への贈り物をするなどという行為は今までに経験した事が無い。
「僕、エド兄以外にプレゼントなんてした事無いから何を贈って良いか判らないよ。
エド兄にプレゼントするのは手作りの日用品ばかりであまり良い物を贈っているとは言えないし」
「何言ってるの。高価な物を贈る必要なんてないんだから。リアンの得意な裁縫の腕を生かして いつもエイドリアン様に贈っている様な手作りの品で大丈夫よ」
デイジーも続ける
「そうそう。下手な飾り物より実用的な物にリアンが心を込めて刺繍を施せば十分だわ。それで喜ばないよ様な人ならプレゼントを贈る価値無し! って言う事よ」
「それは流石に言い過ぎだろうけど…… ハンカチとかに刺繍した物で良いのかなあ?」
「「 もちろん! 」」
次に皆で会った時にベティーに預ければ学園でシリルの妹であるアイリーン嬢を介して本人に渡して貰えるという。
代わりにエイドリアンへの贈り物はリアンが預かって渡すという事になった。
シリルから喜んで貰えそうな物……
リアンは暫く考えた末に剣術の鍛錬やジョギング時に重宝するであろうタオルに
得意な刺繍で牡鹿とイニシャルを施して贈る事にした。ついでだからお揃いの柄のハンカチも一緒に贈ろう…… なんて気軽に考えていたのだが
どんな色が似合うだろうか、使いやすい大きさはこれで良いだろうか
などとエイドリアンに贈る時には気にも留めなかった事が他人に贈るとなると
こんなにも悩んでしまうものだろうか? と頭を抱えての作業となった。
なんとか期日に間に合うように完成した時には なんとも言い難い達成感で満たされた。そして予定通り、次に会った時に照れながらも無事デイジーに託す事が出来たのであった。
そんな事があって暫く後、二年に進級して数か月経った頃
リアンと同郷の騎士学校生の面々はエド兄と休みが重なった日に
仲間と研修中のエイドリアンの配属先へと見学に行く事となった。騎士学校でも授業の一環として見学の機会が設けられてはいるが団体行動の上に形式ばっているので自由人揃いのリアン達一同にとって はっきり言って面白くない。
リアンはここ最近はすっかり板に付いて来た髪型のアレンジを試してみる。
本日初めて使用するライラック色のグラデーションの髪飾り
一部の髪だけ髪飾りで纏めて肩に流した適度に巻いた髪が実に女性らしい。
生まれて初めて身に着けた髪飾りは入団試験の合格祝いに贈った品物のお返しにと シリルがアイリーンと一緒に選んで贈ってくれた品物である。
本日は騎士団の見学という事で 一行は騎士学校の制服姿での参加だ。
去年までは親しい知り合いもいなかった騎士団であるが、今年は前っもって自由見学の許可を取ってくれている、まだ見習い中のエイドリアンと待ち合わせている。
一行が騎士団詰め所の門に到着するとエイドリアンの他にシリルと元一班副リーダーであったサイラスの姿があった。
シリルとエイドリアンは実力も見た目もライバルと呼ぶに相応しく、そして性格においては余程相性が良かったようで入団してからは事あるごとにエイドリアンにとって騎士学校入学以来の親友サイラスと三人共に行動する事が多くなっていた。
リアン一行は昨年の合宿時に北の森の詰め所の見学は経験しているがあちらは魔物相手で何かと慌ただしかった。
今日見学している騎士団の拠点は新人育成や市民の安全を見守る為に設置されている施設なので慌ただしさとは無縁の様に見える。
正直言ってエイドリアンには退屈そうな場所である。体を動かす事が好きなリアン達一行にとってもそれは同じで 騎士団に入団したら絶対郊外の森の詰め所に配属されたいという思いが強くなったのであった。




