23 シリルの親友
夕暮れの公園でリアン達一行を見かけた数日後の王立貴族学園
高等部騎士科三年のとある教室の朝の風景
シリル・リンゼイが教室に入って来たのを見つけた幼馴染で親友のオスカーが
待ちかねた様に近付いて行き 前の席の椅子に跨りシリルに向かい合う様に腰掛けた。
椅子の背もたれに腕を置き顎を乗せて下から見上げるように
ニヤリとシリルの顔を覗き込む。
「何だよ? 朝っぱらから鬱陶しい」
「お前、この大親友様に向かって朝一番の挨拶がそれか?
小さい頃から初恋の話を嫌と言うほど聞かされても嫌な顔一つせず
相槌を打って聞いてやった俺にそんな態度取っても良いの?」
「何回も話してない! 精々二、三回だけだ。
それにまだ初等部に入って間もない頃の話だろ」
「そうそう。だからその初恋が忘れられない初心な親友の為に
そろそろ新しい出会いがあるようにと心優しい俺様が一肌脱いであげようと
言っているのだよ」
相変わらず懐疑的なジト目を向けられているがそこは無視する。
朝一の親友二人のやり取りに気付いた中等部からの親友エドワードも何事かと寄って来た。
「例の ”リアン君” についての新情報仕入れて来たんだけど聞きたい?」
「・・・」
「はは、一瞬眉尻が吊り上がったぞ。それ以上に鼻の下が伸びてる」
「良いから続きを話せよ」
相変わらず親友の意図を探るように睨んでいるがそこは意味深に微笑んで返し
話を続ける。
「この前公園で見掛けた時 うちの学校の女子が混ざってたろ。
見た事あるなぁって思ってたんだけど 昨日廊下で妹と一緒に居るのを
見かけたから 家に帰ってからダメもとで聞いてみたんだよ。
”騎士学校のリアンていう子の話聞いた事無いか” って。そしたら
”この学園の同じ学年に ある意味有名な姉がいて話題に上るから知ってる”
って言うんだ」
「お前の妹って高等部一年だよな。って事は似てない双子か義理の姉って事?」
そこまで言って あっ! と思い当たる。
「結婚してるのか?!」
「どうしてそうなる? まだ結婚は無いだろ。実の姉だよ」
「義理じゃなくて?」
「そう。五人兄妹で両親は皆同じ。すぐ上の姉さんとは10か月違い。
それで同学年らしい。結構有名だからお前も名前くらい知ってると思うぞ」
高等部一年で名前を知っている……暫く考えて頭に浮かんだ名前を口にしてみる。
「アイリス嬢?」
「一学年のマドンナか……そんなのよく知ってるなあ。
お前はそういうの興味無いって思ってたぞ」
「ーーー いや…… 」
目を泳がせて良い淀んだシリルを見たオスカーが思い当たった事を呟く。
「ああ。コクられたのか・・・」
「・・・」
「・・・まあいいや。そっち系じゃなくて悪目立ちしてるヤツ」
「まさかジョゼフィーヌ嬢⁈」
「ビンゴ!」
「という事はエイドリアン・リトレーは実の兄・・・」
「それも知ってるのか?」
「彼女が合宿で親しくしてた相手だ」
「そうなのか? そりゃ親しいだろうな。他の三兄妹とは別扱いだったらしくて
殆んど顔も合わせた事が無いらしいけど すぐ上の兄とは幼い頃から
何処に行くにも一緒で同年代の子供たちと領地内を駆け回っていたらしい」
「……だから姉は妹を見ても姉妹だって気付かなかったのか……」
一人呟いた言葉は賑やかになって来た教室の雑音にかき消された。
「 ? 妹の友人の話では中等学校に入るまで周りの誰もが主従関係の男の子だって思ってたって言うし今でも普段から騎士服を着ているから初対面の相手にはよく間違われるらしいぞ」
そうか、間違われる事に慣れているから余り気にしている様には見えなかったのかと少し胸を撫で下ろす。
「まあお前と張り合えるくらいの兄さんが傍に居て本人の実力も相当となれば
あれだけ可愛くってもなかなか彼氏なんて出来ないんだろうな」
「でも一目惚れって言うのなら可能性も無くないか?」
黙って事の成り行きを見守っていたエドワードが此処で初めて話に参加する。
「シリルの傍に居たらエドワードにも俺にもそのチャンスさえ望み薄だな」
「そうか、それは言えてるな」
二人して顔を見合わせ納得する。
「「 という事で頑張れ 親友! 」」
何を頑張るのかは分からないがとりあえず男の子と勘違いした事が気になっていた女性の親しくしていた相手が実の兄だという情報を貰った事で先日から胸に痞えていた何かが消えた様な感じがした。
一方のエイドリアン。先日のリアンの突然の奇行? に納得がいかない。
今までの一番の変化は刺繍を覚えてハンカチをプレゼントしてくれた事だ。
あの時の変化には感激で涙した事を覚えている。
しかし今回のそれは何かが違う気がする。しかしその ”何か” が分らない。
その事が何故か頭の隅に引っ掛かって落ち着かない。




