18 アイリーンの報告
「大変ご迷惑をおかけ致しまして申し訳ございませんでした」
あっさりと姉が引き下がり去っていくのを暫く呆然と見送っていた一同が
我に返ったのを見てリアンが令嬢に詫びの言葉を述べた。
「あら、貴方が謝罪される事ではありませんわ。寧ろ私がお礼を述べさせて頂くべきですわね。ありがとうございました。とても助かりましたわ」
「いいえ、これは私達の勤めの一環ですからお気遣いは無用です」
チームリーダーのメイさんが再び前に出て腕を胸に当て礼を執る。
「リアンもお疲れ様」
他の先輩がその場を収めた功労者のリアンに労いの言葉を掛けた。
何事もなく騒ぎが収まったので騎士見習いの一団はその場を後にした。
店舗の外に出た一行はリアンの先ほどの対応に付いて質問せずにはいられない。
「今のご令嬢がリーダーの妹って言う事はリアンのお姉様でもあるのよね?」
「はい。小さい頃から殆んど顔を合わせた事は無かったですけど」
「ああ、だから顔を見ても自分の妹って分らなかったのね。でもそれって…」
言い淀んだ二年生の意図を汲みリアンが答える。
「ふふっ、誤解されても仕方有りませんけど私を含め兄妹五人、皆両親は一緒ですよ。姉とは10か月違いで同い年です。一緒の家で育ったけれど行動する場所が違ったので顔を合わせる事が無かっただけです」
「納得だわ。性格、全然違いそうだったものね。姉妹だなんて言われても
信じられないわ」
「貴族学園に行っている同郷の友人にもよく言われます。姉は両親にベッタリで私は三男のエド兄にベッタリでしたから」
「じゃあ、リーダーが彼女の事を ”可愛い妹” って自慢しているって言うのは...」
「その場凌ぎの出任せですね」
話しに耳を傾けていた者が納得した様に大きく頷いた。
一方、噂を聞くだけで他人事と思っていたジョゼフィーヌの起こす揉め事に自分が巻き込まれ、傍迷惑な騒動の当事者となったアイリーンは今日の出来事を兄に報告する事にした。
屋敷に帰ると ”一緒にお茶を” とメイドに託け、応じたシリルと
リビングで向き合った。
「アイリーンが私をお茶に誘うなんて珍しいな」
「だってお兄様とお茶をご一緒しても話が弾みませんもの」
「共通の話題が少ないからね。で、今日はどういう風の吹き回し?」
「実は今日、文具店に前もって取り寄せをお願いしておりました品物を受け取りに参りましたの」
「いつも贔屓にしてる店だね」
「ええ。そこで以前から話題に上がっていたジョゼフィーヌ様とお会いしたんですけど...」
「彼女の事はもう気にしなくて良いって事にしたよね」
「ええ。他の方と騒動を起こす事に付いては気にする事は無いのでしょうけど
今日は私が当事者にされてしまいましたわ」
「えっ、大丈夫だったの?」
「大事には至りませんでしたけれど話に伺っている以上に自分本位の方で呆れてしまいましたわ。私が予約をしておりましたお品を ”先に手にした自分に権利が有る” と主張されて引いて下さらないんですもの。
もううんざりしてお譲りしてしまおうかと思っていましたところに 運よく騎士学校の見回りの方々が通り掛って下さって事無きを得ましたわ」
「そう。それは良かったね。さすがに見回りの騎士には
食って掛かれないだろうからね」
「それがそうでも無かったのですわ」
「えっ、まさか食って掛かったの?」
「ええ。最初チーフらしい女性の方が対応して下さったんですけど
”上司は誰なの” って反発されて」
「凄いね」
「ええ。呆れてしまいましたわ。チーフらしい方が黙ってしまったのを見かねてか 他の方が対応を代わられたのですけれど その方が ”代表者はジョゼフィーヌ様のお兄様でいつも妹様の自慢話をしています” と仰られた後、嬉しそうに ”今日のところは私が引きます” と言って帰っていかれましたわ」
そこでシリルは疑問に思う。エイドリアンとの付き合いは少ないがどう考えてもあの妹を自慢している様には思えない。
「本当に自慢の妹なのかなあ」
「いいえ。最初は代表者の名前を出されただけで それをお聞きになったジョゼフィーヌ様が ”お兄様が代表者” と言われてから初めて妹と知った、という話し方をされていましたけれど あの様子は最初から兄妹と知った上で話を持って行き ”自慢の妹” というのは作り話の様でしたわ。」
「上手くあしらったんだね。なかなかの策士なのかな」
「どうでしょう? 背は高めでしたけど綺麗なライラックの瞳のとてもチャーミングな女性の方でしたわ」
「・・・髪の色は?」
「あら、お兄様があの子以外の女性にご興味を示すなんて。ふふ、ハシバミ色の長い髪を後ろで纏めて 勿体ない事にあまりお洒落には興味無しって感じの方でしたわ」
「・・・確かに女性だったの?」
「ええ。間違いないですわ。同僚の方に ”リアン” って呼ばれていましたわね」
「・・・」
「お兄様?」
シリルは色々な思いが浮かんで赤くなり片手で口元をて抑えて黙り込んでしまった。




